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第三章(5/11)


 町外れに小屋が一軒見えた。

 家というほど大きくはないだろう。裏に小さな山があったから、林業などを行うための小屋なのかもしれない。窓はあったが木で目張りがされており、中の様子は伺えない。小屋の前には見張りのような男性が一人立っていた。他はみんな中にいるのだろう。クルーも含め、外にそれ以外の人の姿は見当たらない。


「小さな小屋ね。中に十人もいないと思うのだけど」

「そう見えますね」

「二人で勝てると思う?」


 レイナの言葉に、ラウはいつも通りの表情で首を傾げた。


「さあ」


 予想通りの言葉だったが、レイナは少しだけ安心する。


 さあ、ということは、明らかに無謀というわけでもないのだろう。彼の実力がわからないだけにどこまでアテにして良いのかわからないが、少なくとも彼の様子は穏やかで、悲壮な様子も気負った様子もない。


 リュカに案内され、レイナたちはクルーが連れ去られたという小屋が見える場所に来ていた。リュカは貴金属を扱う店に目星でもついていたのか、すぐに指輪を金貨一枚と幾らかの小銭とに変えてきた。金貨は本物の金でできている硬貨であり、かさばらないし貨幣にも変えやすい。身代金としては絶好のものなのだろう。


「ねえ、本当に大丈夫……?」


 リュカの言葉には、レイナは強く頷いた。本当に大丈夫かどうかなど、レイナも知りたいくらいだが、彼はまだ十一の子供だし、怪我の治療をする間も無くずっと走り回っているのだ。少しだけでも心強く感じてもらいたい。


「どちらかと言えば、逃さないことが重要そうよね」


 山を背にした、見晴らしの良い小屋だ。リュカに一人で金貨を持ってこい、と言っていたというから、仲間を連れてくることを警戒しているのだろう。見張りが多勢を発見したら、きっと人質を連れて逃げられるようになっているはずだ。


 レイナは持っていた剣を外して、ラウに預ける。彼もアレイスに与えられていたという小ぶりの剣を持っていたが、外套の下に隠しているのだろう。外からは帯剣していることが見えないし、レイナの剣を持っても同じだろう。


「さあ、行くわよ」


 レイナは髪を下ろすと、リュカを伴って小屋へと向かう。姿を見せると、遠くに見えている見張りの男が動くのが見えた。小屋の窓に向かって何かを言っている。レイナはリュカと二人で早足で、彼らの元へと向かう。向かっているうちに、ドアから一人、二人、三人が表に出てくるのが見える。


 ちらりと後ろを振り返ると、ラウは身を潜めていた。すぐに駆けつけられるが、すぐに飛び出して攻撃するには遠い、という間合いを作ってもらえるようにと頼んでいる。どの程度の距離を開けるつもりなのかはわからないが、彼はまだ動いていない。


「おい、小僧!」


 男たちまではまだ遠い。だが、見張りの男から大きな声がかけられる。


「一人で来ないと、あいつを殺してやると言ったはずだな!」

「待ってよ、僕は一人で来るって言ったんだ、でもレイナが——」

「クルーはどこ?」


 リュカの言葉にかぶせるように、レイナは高い声をあげた。


「クルーは無事なの、ねえ」


 彼らに聞こえるように大きな声を上げる。見張りの男は、家の中から出て来た男たちと顔を見合わせた。一緒についてきたのが武装した男ではなく、丸腰の少女が一人だ、ということに驚いているのだろう。彼らは視線と合わせ、小さく言葉を交わしてから、男たちは三人、道まででてくる。そして一人は小屋へと戻っていった。


「あんた、このガキどもとどんな関係だ? まさか姉貴ってわけじゃないだろ」


 男たちは、にやにやと楽しそうな顔をレイナに向ける。これまでにも散々と向けられた嫌な笑みである。彼らはレイナを手に入れる前から、レイナを自分のものにする妄想でもしているのだろうか。そう考えると、今すぐにでもその頭を叩き割ってやりたくなるが、人質を考えればそういうわけにもいかない。


 レイナは立ち止まる。男たちが一歩、踏み出して来るのを見て、一歩、下がる。できるだけ弱々しいと思えるような口調で、訴えた。


「弟じゃないけど……でも、大切な家族なの。ねえ、お金なら準備したから、クルーを返して」

「いいぜ」


 一人がそう言うと、小屋から黒髪の子供が引きずり出される。顔は見えないが、クルーに間違いはないだろう。服を掴まれて外に出された彼は、一目見て血や土で全身が汚れていて、レイナは思わず息を飲む。


「クルー! 無事なの!?」

「別に何もしてない。生きてるさ」


 ほら、と地面に投げ出されると、彼は一度、衝撃に呻くようにしてから、顔を上げた。黒い瞳は、リュカとレイナを見て、驚いたように大きくなった。


「あれ、レイナ……どうして」


 言ったクルーに、彼を引きずって来た男が剣を突きつける。


「ほら、無事だろ。金は」

「お金ならここに」


 リュカが示した金貨を見て、彼らは口笛を吹いた。だが、彼らの元に駆け出そうとしたリュカを、男は制する。


「お前じゃない。女が持って来い。——おい、お前もこいつらの仲間か? お前も止まれ」


 レイナが驚いたようなふりをして後ろを振り向くと、そこにはラウがいた。彼はレイナを見てから、男たちを見回して大人しく足を止める。レイナたちを護衛するには遠い距離だが、何かあったらすぐに詰められる距離だ。悪くない。


 リュカは迷うようなそぶりを見せていたが、レイナはそんな彼から金貨を奪い取る。そして一歩、二歩、と慎重に歩を進めた。


「わかった。わかったから、先にクルーを返して」

「金が先だ」

「そんなの、信用できない」


 レイナがいうと、男はふんと鼻で笑った。


 一人に顎で示され、クルーを連れた男が、レイナたちからも、男たちからも離れた場所にクルーを置き去りにした。そして彼はそのまま、レイナの後方に回る。その間にレイナはリュカに声をかけ、彼をクルーの元へと行かせた。邪魔をされるなら気を引こうと思っていたが、彼らはリュカのことなど頭にないらしい。離れたところに立っているラウには多少の警戒はしているのかもしれないが、レイナを取り囲むことで既に人質にしているつもりなのだろう。


「まあいい。あんな汚いガキより、あんたの方がよっぽど使い道があるからな」


 間近でにやりと笑った男に、レイナもようやく笑みを返す。

 予想もしなかった反応なのだろう。こちらが笑ったことで、男たちは揃って不思議そうな顔をした。この状況が分かっているのだろうかと頭を捻る男に向けて、レイナは可愛らしく首を傾げて見せる。


「お金はいらないの?」

「そっちも、もちろんもらうさ」

「ふうん?」


 レイナはそういうと、手にした金貨をピンと空に弾いた。


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