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第三章(4/11)


「アレイスはしばらく出てるみたいだけど」


 レイナが言うと、リュカは目に見えて怯えたような顔をした。クルーもリュカも数日間いなかったから、アレイスがここにいないことを知らなかったのだろうか。そう考えて、レイナはリュカが一人でいることに違和感を覚える。彼らはいつも二人で行動しているし、どちらか片方だけを見ることなど初めてだ。


「クルーはどうしたの?」


 レイナの言葉に、リュカはさらに怯えたように身を縮める。すると、様子に気づいたのか奥からラウが顔を出した。彼は怪我をしたリュカを見て、少しだけ眉を寄せる。


「どうしました?」

「ラウ! アレイスはいつ戻ってくる?」

「さあ。クレセの地方にも寄ると言っていたので、少なくともあと数日は戻らないと思いますが」


 告げられた言葉に、リュカは絶望的な顔をする。


「クルーはどうしました?」

「捕まっちゃった、クルー、どうしようラウ」


 捕まった、なんて言葉にレイナは思わず息を飲む。


「捕まったって、誰に?」

「……わかんないけど、僕たちのことつけてたみたい。取引した後に、急に知らない男たちに襲われれたから」

「取引?」


 レイナが言ったが、ラウはなぜか首を振った。


「クルーはなぜ捕まったんですか?」

「金貨を用意しろって……」

「お金が目的?」

「そうじゃないかな。陽が落ちるまでに持ってこいって言われたけど……無理だって言ったんだけど、それならクルーは殺すって言われて……どうしよう、アレイスもいないし」


 リュカはそう言って青い顔で窓の外を見た。


 もう正午は回っているだろう。建物の作る陰はまだ短いが、じきに長くなる。殺すなんて言葉に、レイナは体中が熱くなる感覚と、反対に頭がすっと冷えるような感覚を覚えた。日暮れまでとはだいぶ無理を言う。場所も街中ではないのだろうし、金貨を準備するなら普通はそれなりに時間が必要なはずだ。リュカの顔を見てから、ラウを見上げる。彼も難しい顔で口を噤んでいた。


「相手は何人?」


 レイナが聞くと、リュカは首を振った。


「僕たちを襲ったのは三人だったけど、クルーが連れて行かれた場所にはまだ人がいるかもしれないから」

「金貨って準備できるの?」


 今度はラウに聞いた。彼は一度、首を横に振ってから、少しだけ考えるような顔をする。


「町の外になら連絡をつけられる仲間はいますが、そこまで行ったうえで日暮れまでに金貨を準備しろと言われると難しいかもしれませんね」


 冷静な彼の言葉に今度はレイナが考える。


 そもそも金貨なんて普通の家に転がっているようなものではないはずだ。貨幣として流通しているようなものではなく、貴金属店でお金と交換してもらうようなもので、どちらかといえばレイナが王都から持ち出した宝石に近しい。それが一つあれば、大の大人が何人もしばらく豪遊できるだけの金が手に入るはずだ。


 普通に考えれば、クルーやリュカのような子供に金貨を要求すること自体が馬鹿げているし、もし彼らが家族や仲間に助けを求めると考えたとして、日暮れまでという時間設定にはだいぶ無理があるのではないだろうか。


 相手にも何かしら事情があってそこまでにと言っているのか、そもそも本当に持ってくることなど期待してはいないのか。前者であればひとまずはクルーに人質としての価値はあるだろうが、後者であればクルーの身の安全の保証はない。にっこりと屈託のない笑顔を向けてくるクルーの顔を思い出し、あの小さな彼が傷つけられているかと思うと、レイナは肌が粟立つような気分になる。


「これ、金貨に変えられる?」


 レイナは懐に入れていた指輪を一つ、ラウに手渡した。赤い宝石のついたそれは、王都から持ち出したものだ。もとよりお金に変えようと思って持ち出したものだから、そう安い物ではないだろう。


「どうです?」


 ラウは何故かそれをリュカに手渡した。リュカは手のひらに落とされたそれを見てから、戸惑ったようにレイナを見て、それからラウを見上げた。


「変えられる……と思うけど、いいの?」

「リュカが行くの?」

「顔見知りの店もあるでしょうし、彼のほうが私よりよほど慣れてますよ」


 そう言ったラウの言葉にレイナは首を傾げたが、質問をする時間も惜しいと考え直して頷いた。


「金貨に変えたら、すぐにクルーのところに向かいましょう。私も一緒に行くから」


 レイナの言葉に、リュカは驚いたような顔をした。


「でも」


 そう言ったが、続く言葉はない。本当に金貨を渡すだけで、相手がクルーを返してくれるとは、彼も思ってはいないのだろう。だから誰か一緒に行って欲しいと思っているのだろうが、それがレイナでは、頼りなく見えるのかもしれない。そう考えて、レイナは強く頷いた。


「大丈夫。アレイスから、私は強いんだって聞いてるんでしょう? それより早く、金貨に変えてこないと。すぐ陽が暮れちゃうわ」


 レイナがそう言うと、彼は指輪を握りしめて外に駆け出した。彼が表に出て行くのを見てから、レイナは振り返ってラウを見上げる。


「——って言っちゃったんだけど」


 レイナの言葉に、ラウは何とも言えない顔をしていた。レイナが一緒に行くと言った時、彼は止めるかもしれないと思っていた。だが、止めなかったと言うことは、きっと彼もクルーを助けたいと思っているのだろう。そしてきっと彼にも、他の手が浮かばなかったと言うことだ。


 彼はしばらく考えるような間をおいてから、静かにうなずいた。


「私も行きます」

「よかった!」


 一緒に行こうと無理強いはできないと思ってはいたが、彼が来てくれるのと来てくれないのとでは天と地ほどの差がある。一人で戦うことの無力さは、ここに来るまででも散々思い知っていたし、場合によっては同時にリュカやクルーを守る必要も出てくるかもしれないから、そうなると一人ではどうしても手に余るのだ。


 レイナは二階へ駆け上ると、部屋で手早く着替える。剣を佩きながら、先日アレイスに剣をもらっていて本当によかった、と思った。


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