vs爆撃のエクスボーン(上)
俺は即答した。
「断る」
……なぜか、二人が驚いているのだが。
そもそも「OKだよー★」みたいな答えがあるとなぜ期待していたのだろうか。
「どどど、どうして!?」
ミッシェルの言葉に俺は返した。
「俺が合格――ありがとう。ならば、お前たちは不合格だ」
俺はぎろりとミッシェルをにらむ。
「バカを連れていって苦労したくないんでね。勘弁してくれ」
「あ、あひいいいいいいいいいい! リノ! リノ! フォロー、フォロー!」
「うううん……」
リノはメガネのブリッジを指で押さえてしばらく悩み――
「すみません、お嬢さま。フォローできません。さっき苦労しましたから……」
「あ、あひいいいいいいいいいい!」
「ルーファスさま、ひとつ訂正していただきたいことがありまして」
「なんだ?」
「お前たちは不合格だ、の『お前たち』を訂正してください。わたしの狙撃は正確だったはずなので」
「確かにそうだな」
うん、と俺はうなずいて続けた。
「そこの自称剣聖が飛び出さなければ正確に俺を撃ち抜いていたな。よし、自称剣聖だけ不合格だ」
「ううう、頑張ったのにー頑張ったのにー……」
机に突っ伏すミッシェルを放置して、俺は話を続ける。
「ところで、お前たちは何者なんだ? 魔王討伐を目指すスペシャルチームを作るとか言っていたが?」
「『黎明』という組織をご存知ですか?」
「いや?」
「膠着した王国軍と魔王軍の戦いに終止符を打つため、有力貴族が集まって作った有志連合です。その意思は、当代の最強を集めて魔王を討つ――」
「なるほど」
その思想はとても素晴らしい。
王族はなぜか異常なまでに『勇者』という存在をありがたがっている。
すべては勇者のために。
勇者を輝かせるために。
いつも歴代の勇者を中心に戦いを展開し、ことごとく敗北している。
「それで――めでたく俺は当代の最強に選ばれたわけか」
「うん! 合格!」
反応したのはミッシェルだ。
「わたしの斬撃にあれだけ耐えて――おまけに反撃までしてみせたんだから、絶対にすごいって!」
「お前に褒められてもな……」
「うう……ルーファスが厳しいよお、ルーファスが厳しいよお……」
「いえいえ、お嬢さまの斬撃に耐えた――それは立派な評価となりますよ」
リノがフォローを入れる。
「お嬢さまがランカスターの名を継いだのは12歳のときですが、その時点で『全盛期の自分を超えている』と先代に言われていますからね。『間違いなく最強だ、頭以外は』と評されております」
「とんでもない脳筋だな……」
師匠お墨付きなんだ。
俺は話題を変えた。
「ところで、その最強メンバーに勇者クルスを入れる予定はあるのか?」
「1ミリもありませんね」
「ないなーい。弱いのいらなーい」
「逆に聞きますけど、クルスさまって強いんですか?」
「俺はね、性格は悪いけど、昔の仲間の悪口を言わないのが美点なんだよ。たとえ口からあふれそうでもな」
「その言葉が、すでに悪口ですよね?」
「おや、そうかな?」
「クルスさんのたったひとつの美点は、ルーファス、あなたをクビにしたことですね。おかげで、スカウトする余地が生まれました」
「なるほど、褒められる部分もあったか。どんなクソ野郎にもひとつくらいはあるんだな」
「相変わらず悪口が漏れていますよ?」
「おや、そうだな」
俺は笑った。
わりと波長は合うかもしれない。
ぱちぱちぱちとミッシェルが手を叩いた。
「すごいじゃない、ルーファス! 性格が最悪だって言われたあなたが笑みを浮かべて和んでいる! 人の心に血が流れ始めた! これって奇跡じゃない? あなたの人生で初めての友達ってやつじゃない!? やっぱり、わたしたちと来るべきだと思うんだよ!」
「お前の言葉をどう好意的に解釈すれば勧誘に聞こえるんだ?」
俺はため息をついた。
まあ、お友達ごっこはどうでもいい。俺は俺の力さえ証明できればいい。
仲間だ。ともに戦う腕利きの仲間が欲しい。
最強の剣聖に――腕利きの狙撃手。
そういう点だと、こいつらは確かに代えのきかない人材だ。
「悪くはないか」
「デレた」
「デレましたね」
「その判断は早いな」
俺がそう言った瞬間――
俺たち3人の空気が一瞬にして緊張感を増した。
全員の表情から笑みが消える。
「もう失敗はこりごりでね。どうせなら、成功体験をしよう――追試だ」
俺がそう言うなり、リノが腰のハンドガンを引き抜き、天井に向けて発砲した。
驚いた客たちの視線が集まる。
リノが叫んだ。
「今すぐ伏せなさい! 早く!」
あまりの鋭さ、銃声に驚いた客たちは慌てて命令に従う。
間髪をいれず――
宿屋正面の壁をぶち抜いて、人の頭ほども大きい10個ほどの鉄球が飛び込んできた。
リノが立ち上がり、ハンドガンを撃つ。それは一発も外すことなく鉄球に命中、後方へと押し返した。
ほー、やるじゃない?
鉄球は赤く明滅、そのまま――
ごうん! ごうん! ごうん!
次々と空中で爆発、宿屋のあちこちを吹っ飛ばした。主に鉄球が飛び込んできた宿正面の壁が派手に壊れる。
「ああああああ! 俺の宿が!?」
店主の悲壮な声が響き渡った。
俺はリノに尋ねる。
「ん? 今の爆発はお前が射撃したからか?」
「……いえ、もともと爆発するように仕掛けていたみたいですね」
ボロボロの瓦礫になった宿正面の壁、その向こう側に大通りが見える。そこに頭から足の爪先まで隙間なく兜と鎧で固めた重装備の戦士が立っていた。
戦士の頭上は何もない空間だったが――
ふいにさっきと10個くらいの鉄球が出現する。
「とりあえず、あいつを叩けばいいんでしょ!?」
言うなり、矢のような速度でミッシェルが重戦士に突っ込んでいく。
重戦士は反応、鉄球をミッシェルめがけて投げつける。
ミッシェルは――
止まらない!
だが、鉄球が直撃するよりも早く、リノの弾丸が青い閃光とともに鉄球に炸裂、その軌道を逸らす。
リノの動きを信じた、最短経路の突撃でミッシェルは鎧戦士に接近。
それた鉄球が爆発する中、ミッシェルは超高速の斬撃を鎧戦士に叩き込む。
「くっ!」
声を漏らしたのはミッシェルだった。
鎧の防御力がかなり硬いらしい。
……あの武器、悪くはないけど攻撃力+180くらいっぽいんだよな……。
ミッシェルの斬撃速度なら、いずれはすり潰せるだろうが――
まあ、ぼうっと見ているわけにもいかない。
俺は鎧武者めがけて右手を伸ばした。強化の術式を展開して攻撃力を向上、さらに――
「射出」
その瞬間、俺の手から飛び出したブロードソードが鎧武者の脇腹に刺さる。
鉄壁だったはずの鎧にあっさりと剣が突き刺さる。
「その剣を使え、ミッシェル!」
俺の意図にミッシェルはすぐ反応した。
ミッシェルは剣を引っ掴むなり、まるで渦巻きのように舞った。
凄まじい量の斬撃が装甲を一瞬にして斬り飛ばす。
「あははは! なにこれ、嘘!?」
ミッシェルの笑い声と、きしむ鎧の音が重なった。