付与術師、勧誘される
「わたしの天賦に君が届くのかどうか試させておくれよ!」
言うと同時、ミッシェルが再び俺に斬りかかる。
俺は一瞬にしてブロードソードを展開、付与術を施す。こちらも短剣との2本使いで応戦する。
速い!
12歳の子供が繰り出すとは思えない怒涛の攻撃を俺は2本の剣でさばき続ける。
技量では間違いなくミッシェルのほうが上だろう。
だが、ミッシェルには立ち回り上の制約がある。俺は彼女の剣を自分の剣で受けても問題ないが、彼女はそれを避けたい。なぜなら、俺の剣は攻撃力+999だから。当たった瞬間に剣がへし折れるからだ。
……俺の攻撃力を知っていたか。
どうやら、勇者クルスよりも頭は回るらしい!
だが、そんな制約があってもミッシェルは直接攻撃においては俺より優位のようだ。
小さな隙を的確につき、俺に細かい傷を与えてくる。
おそろしく目と勘がいい。
……だけど、頭は悪いのかもしれない。
しばらく交戦して、俺はミッシェルの動きのパターンに気がついた。
攻撃に波があり、明らかに攻撃の『圧』が弱まる瞬間がある。その行動の変化は露骨なメッセージだ。
さて、それは何を意味するのか。
付与術『鏡化』――
俺は短剣に術を施す。鏡のように周囲を映すようになった刃を左右に操りながら状況を確認する。そこに映るものは――
なるほど。
興奮した声をミッシェルが飛ばす。
「ルーファス、わたしの腕はどうかな!?」
「強いな、お前」
「でっしょー?」
「おまけに――」
満面の笑みを浮かべるミッシェルに俺はこう言った。
「それで本気じゃないんだから」
「へえ、そこに気づくなんて! さすがだね!」
「12歳児に褒められて、涙が出ちゃいそうだ」
だけど、まあ――大人には大人のずる賢さってのがあるのを見せないとな。
ミッシェルがかっと目を見開く。
「わたしは13歳だよ!」
「そこ、こだわる?」
ミッシェルの攻撃速度が上がった。
しまった!
とうとうミッシェルの攻撃に耐え切れなくなった俺は大きくよろめく。
そんなとんでもない隙を――1ミリの隙さえ見逃さなかったミッシェルが反応しないはずがない。
「もらったああああ!」
だっとミッシェルが俺に襲いかかる。
直後。
「ひぎえええっ!?」
情けない声を出したのはミッシェルだった。同時、ばしばしばし! と音を立てて弾ける青白い閃光がミッシェルの身体越しに見える。
遠くから俺を狙って放たれた銃弾を――
飛び出したミッシェルが代わりに食らった格好だ。
……もちろん、偶然ではなく、俺がそうなるようにしたのだけど。
「あーれー」
情けない言葉を漏らし、ミッシェルがどさりと地面に落ちる。
俺は油断なくじっと視線を向けた。さっきミッシェルを直撃した光弾が飛んできた方角へ。
そこは屋敷の一角だった。
小さく開いた窓、カーテンの隙間から黒い筒がのぞいている。
魔力を弾丸として打ち出すロングライフルだ。
銃身が部屋の向こう側に引っ込み、カーテンと窓が開く。
そこに立っていたのは、俺と同じくらいの若い女だった。悔しそうな表情で俺を見ている。
俺は持っていた剣の切っ先を、倒れているミッシェルの背中に突きつける。
手練れの剣士に狙撃手まで用意。なかなかシビアな試験だったな……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「手荒いまねをしてしまい、申し訳ありません」
やってきた女はそう言うと、礼儀正しく俺にお辞儀した。
年齢は俺と同じくらいだろうか。
ミッシェルとは打って変わり、目つきの鋭い涼やかな印象の美女だ。身長も160は超えている。紫色の髪を前髪で切りそろえ、ノンフレームの眼鏡をかけていた。
軍服ワンピースというのだろうか、濃紺でパキッとしたデザインの服装が印象的だ。
ロングライフルは部屋に置いてきたようだが、腰のベルトに吊り下げられたホルスターにハンドガンを差している。
「わたしの名前はリノと申します。本来であれば今すぐにでもお詫びとご説明をしたいのですが――」
ちらっと足元でぴくぴく震えているミッシェルに視線を向ける。
「明日の朝、お泊まりの宿をお訪ねいたします」
逃げる様子もなかったので、俺は宿を告げて屋敷を出た。
翌日の昼ごろ、食堂で待っていると約束どおりミッシェルとリノが姿を見せた。
「どうして、わたしの狙撃がバレたのですか?」
早速、俺の対面に座ったリノが口火を切る。
確かに距離的にはかなり離れていた。普通なら気づけるはずがない。
「……そいつのおかげだよ」
「え、わたし!?」
俺に親指を向けられてミッシェルが動揺する。
「そいつが戦っている最中にちらちらと視線を向けるんだよ。何があるんだろうと思って見てみたら、窓から銃身がのぞいていると」
「――お嬢様」
腹の底から響くような声にミッシェルがびくりと身体を震わせる。
「は、はい……?」
「あれほど、戦闘中にわたしのほうを見てはならないと言いましたよね?」
「え、いや、そそそ、そうだけど!? その、心でなんと思おうとも身体は正直と言うか、なんと言うか……!?」
言い訳にもならない言葉を並べ立てるミッシェル。
リノはメガネに手を当てて、はーと大きなため息をついた。
「だけど、わたしをどうやって視認できたのですか? そんな素振りは気づきませんでしたが」
俺は腰にさしてあった短剣を引き抜く。
「付与術――『鏡化』」
瞬間、短剣の腹にリノの顔が映る。
「こいつは刃をぴかぴかの鏡のようにする付与術だ。望遠もできるので少しくらい遠くても問題ない」
地味な付与術だが、こそっと背後を確認したりするのに使える。
気付いていない――と信じ込ませるのは意外と強いアドバンテージだ。
「あとは狙撃のタイミングだが、それも察しがついた」
俺はぴっとミッシェルを指さす。
「そいつのおかげでな」
「お嬢さま……」
「え、え、え、わ、わたしのせい!?」
「頭が悪いやつを仲間にするもんじゃないな、うん」
「お嬢さまを頭が悪いと言うのはおやめください」
おっと、そこは乗っかってくるところかと思っていたが、まさか怒られるとは。
俺は頭をかいた。
「すまなかったな」
なかなかの忠誠心じゃな――
「はい。お嬢さまを『頭が悪い』と定義すると、普通の『頭が悪い』人に失礼ですから」
「リノ!? リノさん!?」
真っ青な顔でミッシェルがリノの肩に手を置く。
リノはミッシェルを無視して俺に尋ねた。
「それで、どうしてお嬢さまの行動で狙撃のタイミングがわかったのですか?」
「ミッシェルの攻撃と動きにむらがあった。明らかに、俺が『どこか特定の立ち位置』に行くのを嫌っていた。で、銃だろ? そこに立ったら狙撃します、ということだと思ったのさ」
ミッシェルは試験だと言っていた。なので、試験終了だと判断したら、俺をそこに追い込んで『麻痺』の銃弾で狙撃という計画だったのだろう。
俺はそれを利用させてもらったわけだ。
「ミッシェルを射線上に釣り出すのは簡単だった。お前はいつも俺の隙を逃さない。俺が露骨な隙を見せれば喜んで飛びかかってくるだろう」
かくして、銃弾はミッシェルを直撃したのだった。
「ううむ……結論から言うとですね――」
リノがため息をついた。
「お嬢さま、剣以外ダメダメじゃないですか……知ってましたけど」
「う、ううう、ううううううう!」
ミッシェルが泣きそうな声でうめいた。
……なんだこの状況は。
「さて、剣聖ランカスターに会わせてもらおうか? 試験は合格だろう?」
「初めまして、ルーファスさん! 剣聖ランカスターです!」
復活したミッシェルがにこやかな手で握手を求めてくる。
俺は手を伸ばして――ミッシェルの頭を軽く叩いた。
「イテッ!?」
「冗談に付き合っている暇はない」
「冗談じゃないですよーだ。わたしが剣聖ランカスターなんだよ!」
「……はあ?」
そこでリノが割り込んできた。
「おそらく『この蜂蜜頭、まだ痺れたままなのかな?』とか『いや、もともとの思考がメビウスの輪なのかな?』とかお思いでしょうが――この点については、この点については、この点についてだけは違います。正真正銘、お嬢様が剣聖ランカスターです」
「いや、待て。剣聖ランカスターって俺が生まれたときから有名だったぞ?」
一方、ミッシェルは13歳。年齢が合わないのだが。
「それ師匠だよ。剣聖の弟子ってのは嘘じゃなくて。わたしは師匠から剣聖ランカスターの名を襲名したってわけ」
「……ああ、なるほど」
「ふふん。どう? 当代最高の剣聖ランカスターに会えた気持ちは? 嬉しい? 感動した?」
「そうだな(棒)」
なんというか、その、剣聖ランカスターへの尊敬とか畏怖という気持ちが吹っ飛んだよ……。
そこでミッシェルが、こほんとわざとらしく咳払いした。
「あのね、わたしたちは魔王を倒すためのスペシャルチームを作ろうと思っているんだ」
真剣な表情でミッシェルが続ける。
「付与術師ルーファス、合格だよ。わたしたちに力を貸してくれない?」
俺は即答した。
「断る」
「え?」
俺は繰り返した。
「断る」
そんな俺を二人が、こいつないわー、空気読めよみたいな目で見ている。
……普通に断る展開だと思うんだが、違うのか?




