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二等勇者クルスvs三等勇者リティ+プチ聖剣

「ほい、甘い!」


 刃を落としたブロードソードがクルスの脇腹を叩く。


「がはっ!」


 クルスはうめき声をあげて片膝をつく。


「はい、勝負あり。これでわたしの……え、何勝だったっけ? まー、ゼロ敗なのは確かだけど」


 そんなことを言って、目の前に立つ青い髪の女が笑う。

 彼女の名前はミザリア。二等の女勇者で、年はクルスと同じで19歳。王太子ファルセンから「クルスを鍛えてやってくれ」と命じられて、毎日の特訓に付き合っている。


(……くそ、同じ二等だってのに……!)


 クルスは悔しさで地面を叩いた。

 基本的に『勇者』と認定されたものは『二等』からスタートする。そして、力を認められたごく一部だけが『一等』へと進む。

 つまり、二等のボリュームは果てしなく広い。

 このミザリアは二等の上位に位置する人物で、クルスとの実力差もまた果てしなく広い。

 それはつまり、クルスの実力が――


「ねえ、クルス」


 ミザリアが話しかけてきた。


「君に依頼が来ているよ?」


「……依頼?」


「実はね、こっそりプチ聖剣ってのを作っていてね」


「プチ聖剣!」


 その言葉を聞いた瞬間、クルスは爆笑した。


「なんだそれは! ネーミングセンスのかけらもない!」


「ファルセン殿下の命名なんだけどね」


「――と思ったが、わりといい名前じゃないか?」


「それでね、そのプチ聖剣を持った三等がどれほど強いのか、ちょっと試してみたくてね。ちょうどいい相手として君が選ばれたんだよ」


「三等だと? 三等ごときと俺が剣を交えるなんて!」


 本気でクルスは毛嫌いした。

 二等以上の勇者は『勇者未満』として三等を見下す傾向があるが、クルスは特に激しい。

 あいつらは俺より下等な存在で、並んでいいはずがない!

 それがクルスの感覚だった。


「本気で言っているのか、ミザリア!?」


「本気も本気だよ。これ、お仕事だから。サボるなら王太子に言いつけちゃうからね」


「……わかったよ!」


 そう言われては仕方がない。うんざりしながらクルスは応じた。

 ポジティブな男クルスはすでに考え方を変えた。

 プチ聖剣などというショボい名前の剣――そんなものを持ったところで三等は三等。勇者未満が勇者であるクルスに届くはずなどない。


(……力の差ってのを見せてやろうじゃねえか!)


 当日――

 クルスはミザリアとともに指定の場所へと向かった。

 そこはライサス砦のひらけた一角で、情報を聞きつけた暇な連中が野次馬をしている。


(ふふふふ……勇者クルスの真の力を見せてやる!)


 上機嫌にクルスはそう思ったが、その気分が一瞬にして真っ逆さまに落ちた。

 向こう側――三等勇者チームのかたわらに立っている男に見覚えがあったからだ。

 ルーファス。


「……おい、ミザリア」


「なんだい?」


「プチ聖剣には、その……誰か付与術師が絡んでいる――みたいなことを知っているか?」


「あそこにいる高名な付与術師ルーファスが完成させたらしいよ」


「そうか」


 短く、低い声でクルスは答える。

 そして、奥歯を強く噛み締めた。


(ルーファス! またお前か! だが、今度こそお前の負けだ! その偽物の聖剣モドキと三等ごときで俺に届くはずがないだろう!)


 クルスは思った。

 凱歌を上げて、必ずや今日を『付与術師ルーファスに勝った記念日』にしてやろうと。

 屈辱にまみれろ、ルーファス!


 そして、模擬戦が始まった。


 クルスは刃を殺したブロードソードを持って前に出る。

 プチ聖剣――こちらも刃を落とした特殊仕様の剣を持ってピンク色の髪の女がクルスの前に進みでた。

「リティです。相手をしていただき感謝いたします」


「……ふん、礼儀はわきまえているようだな、三等? 本来であれば瞬殺にしてやるところだが、今日はその剣の試験だ。少しばかり時間を割いてやる」


 そして、戦いが始まった。


「いきます!」


 掛け声とともにリティの持つプチ聖剣に青い光が灯った。

 直後、間合いを詰める。


(……なっ!?)


 クルスは驚いた。踏み込みが三等のレベルではないからだ。理力による身体強化が高まっている。

 それでもクルスの身体は反応。

 ぎん!

 ブロードソードとプチ聖剣が激突――押し負けたのは、クルス!


「なっ!?」


 油断していた。三等レベルの理力による能力向上はたかがしれている。なので、特に理力は展開していなかった。

 まあ……軽く受けてやろうか? と。

 それが想像を超える圧力でクルスの剣はあっさり弾かれた。


「はっ!」


 その隙をつき、リティが剣を横に一閃する。その剣速もまた――

 クルスの脳裏にちらつく。

 敗北の2文字が。

 負けられない。二等が三等に負けるなど恥以外の何物でもない。


「ぬおおおおおお!」


 クルスは声を吐き出し、意志の力で身体を動かした。

 リティの剣がからぶる。


「舐めるな、三等ォッ!」


 避けたクルスは理力を展開。一等勇者のダインに教えを乞うた理力を。


(……はははは、これが一流の力だ!)


 クルスは己の身体に力が充満するのを感じた。

 剣にぼんやりと青い輝きが灯る。

 ブロードソードは理力の変換率が良くない。プチ聖剣はさすがに変換率はいいようだが――


(……もともとの理力の量が違う!)


 三等と二等の理力には大きな差がある。

 勇者モドキは決して本物の勇者には届かない!


「残念だったなあ! もう、お前に勝ち目はないぞ、三等!」


 クルスはリティに襲いかかった。

 その一撃を受けただけで、三等の剣はあっさりと弾かれ――

 ない。

 ぎぃん!


「うううううううううううう!」


 リティは構えた剣でクルスの剣を見事に受け止めた。


「てめぇ!? 俺の剣を!?」


 クルスは舌打ちすると、今度は動きで撹乱しようと左右に動きながら斬りつける。

 だが、リティは惑わされない。

 その目は――クルスの剣を確かに追っていた。


「生意気なんだよ!」


 クルスは雑に斬りつけるが、リティはその斬撃を全て弾き返す。

 まさかの三等の勇戦――

 周りの野次馬たちも戦士だ。彼らの声援がヒートアップしていく。


「おおお! 三等が勝つんじゃないか!?」


「リティ! 三等の意地を見せてくれ!」


「すごいんじゃないか、あのプチ聖剣?」


 二人の動きは互角だった。理力量で上回るはずのクルスにリティは食らいついていた。


「しつこいんだよ、クソ三等!」


 クルスは吠える。

 だが、リティは引かない。

 動きが互角であれば――

 勝負を決するのは技。

 真面目に続けていた剣術の差が答えを弾き出す。

 ただただ、鍛錬の差だった。

 勇者として、人々のために剣を振るおうと積み重ねた覚悟の差が、今ここで全てを決する。


「おおおおおおおおおおおおおおお!」


 リティの剣がクルスの剣を弾いた。

 今度はクルスに避ける暇を与えない。踏み込んだリティの剣がクルスの胴を薙ぎ払った。


「がっは!?」


 クルスは悲鳴をあげ、後方へと吹っ飛んだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] クルスに持たせてもそんなに強くならなそう。
[一言] クルス…それはお前が、所詮三等勇者だからって侮ったから負けたんだぞ。その敗北を糧に強くなれ。 それにしても、どう教育したらこんな傲慢な子に育つんだ?貴族だったり、二等勇者に上がるまでの師匠が…
[一言] 「自分の弱さ」が理解できたら…クルスも真っ当な勇者になるんだろうけど。
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