プチ聖剣を作ろう!
クルスの儀式が終わった頃、俺も『プチ聖剣』の作成を始めた。
「担当者のクライツです。よろしく」
工房に向かうと、30くらいの頭の良さそうな男が俺に挨拶してきた。
「付与術師のルーファスだ。こちらこそよろしく」
「噂は聞いています。期待しております」
クライツは俺を近くのテーブルに誘い、プチ聖剣について教えてくれた。
……通常の金属を使い、どうやって理力を伝達させるか、そこに苦労がありまして、うんぬん。
技術屋らしく、技術に思い入れのある男のようだ。
「ただ、これらを安定させるには、想定していたよりも高度な付与術が必要なことがわかりまして。それで、ルーファスさんの力を借りたいのです」
「プチ聖剣は?」
「こちらが現状のものです」
クライツが持ってきていた剣を俺に差し出す。
俺は立ち上がり、受け取った剣を引き抜いた。そして『解析』する。
……なるほど。
俺は鞘に戻したプチ聖剣をテーブルに置いた。
「やってみようじゃないか」
そんなわけで、 プチ聖剣を付与術で調整する作業が始まった。
作業そのものは順調だった。
クライツが興奮の声を上げる。
「ルーファスさん! 素晴らしいです! 明らかに理力との親和性が上がっています!」
「それはよかった」
クライツの想定どおり、ネックは『付与術』だった。作成の合間合間で、高度な付与術を繊細な制御でかける必要がある。
……俺にとっては別に高度でもなければ繊細でもないのだが。
そんなわけで『プチ聖剣2号』はすぐに完成した。
「素晴らしい! では、被験者を呼んできますね!」
そう言ってクライツが連れてきたのは、ピンク色の髪が目立つ若い女だった。
年は17くらいだろうか。腰に剣を差している。
彼女は俺の前に立つと、まっすぐな背筋をより一層ぴんと伸ばして大声で叫んだ。
「三等勇者のリティ、参上しました!」
「悪いね、稽古中に」
「いえ、微力でもお役に立てるのなら光栄です!」
三等勇者――
理力が足りない、勇者になれなかった勇者たち、か。
リティはプチ聖剣2号を持つと静かに瞳を閉じた。剣にぼんやりとした青い輝きが灯る。理力の輝きだろう。
リティは目を開き、ぶんぶんとプチ聖剣を振り始めた。
「……すごい! これ、いいですね!」
ひと通り動いた後、リティはそう感想を口にする。
「前のよりも全然、反応が違います!」
その声はとても上気していた。
それほど喜んでもらえるとこちらも嬉しくなるな。
結果、大枠で問題ないとの結論に至った。だが、まだまだ微調整は必要で、試験する項目も多い。リティから何度もフィードバックをもらい、俺たちは細部を詰めていくことにした。
そんなある日――
「よし、しばらく休憩にしましょう」
クライツの言葉に従い、俺は作業を止めた。
片付けをしてから工房の外に出ると、
「はっ、やっ、たっ!」
女の掛け声が聞こえた。
そちらに視線を向けると、リティがブロードソードを振りながら特訓していた。
……なかなか頑張ってるじゃないか。
もちろん、それは最強の剣聖ミッシェルの動きとは比べるまでもなく、俺の剣聖アシストにも遠く及ばない。
だが、才能なきものが身につけた技としては上等だ。
剣技だけを比べれば、雑にしか練習していない勇者クルスよりも優秀と言える。
「はっ、ふっ――あっ」
リティが動きを止めて、俺に目を向ける。
「お疲れさまです、ルーファスさん!」
「ああ、お疲れ」
やれやれ、人見知りするのだが、ここで露骨に逃げるのも感じが悪いな……。
「休憩中なのに、訓練か?」
「はい! わたしは三等ですから。サボって勇者さまたちの足を引っ張るわけにはいきません!」
「そうか」
……勇者クルスのしょぼさを知っている俺的には、そんなにありがたい存在なのかな? と思ってしまうが。あいつ自身、勤勉じゃなかったし。
「ルーファスさん、ありがとうございます」
「ん?」
「プチ聖剣です。あの剣が実戦に投入されれば、わたしたち三等はもっと力を発揮できると思います!」
「ああ、存分に頑張ってくれ」
それから、俺は気になっていることを聞いた。
「ところで、勇者のヒエラルキーってのはそんなに厳しいのか?」
……さっき他の勇者――おそらく二等以上のことを『勇者さま』呼ばわりしていたからな。
リティが神妙な顔でうなずく。
「そうですね。三等の役目は捨て石ですから。二等以上の勇者を活かすための」
リティは己の剣に視線を落としながら、こう続けた。
「そのためなら、命も惜しみません。自分の命を効率よく使い尽くすために、少しでも強くありたいと思っています」
「死ぬ覚悟とはね。命は大切にしたほうがいいだろ?」
「何も残せないより、いいじゃないですか。神から与えられた使命を確かに果たしたと、わたしたちは胸を張りたいのです」
……なるほど。
なまじ才能があるから辛いのだ。
理力のない凡人であれば、何も気負うことはなかった。
理力を多く持った二等以上であれば、何も気に病む必要はなかった。
だが、理力を中途半端に持ってしまった半端者ゆえに――自分たちの存在意義に悩んでしまうのだろう。何かを成すべきだと思っても、何かを成すには小さすぎる力ゆえに。
だけど、その力を役立てたいと願うから。
だけど、その力を役立てろと期待されるから。
そのためには己の死すらも厭わない。
己のもらった才能に意味が与えられるのなら。自分が生まれたことに価値を見出せるのなら。
「今は非常事態ですから。わたしは――三等は、できることをするんですよ」
……やれやれ、死にたがりめ。
「そうか。なら俺もできることをするとしよう。お前たちがカッコよく死ぬためじゃなくて――」
俺は続ける。
「お前たちが、ひとりでも生き延びて帰ってこれるものを作ってやろう」
リティはふふっと笑って、柔らかい笑顔で応じた。
「ありがとうございます」
それからしばらく、俺たちは黙々とプチ聖剣の改良を続けて――
「まだ試作ですが、とりあえず完成で!」
クライツがそう言った瞬間、工房のメンバーがわっと声を上げた。
それからクライツはリティに目を向けた。
「リティ、君にはもうひと仕事してもらいたいんだ」
「なんでしょう?」
「この聖剣を使って二等勇者と戦ってもらいたい。どれくらいの戦力アップかを実戦で測りたい」
「それは、わかりましたが……二等勇者さまに、ですか……?」
リティの顔色は暗い。
それはそうだろう。勇者のヒエラルキーは絶対。三等――勇者のなりそこないが、立派な勇者と見做される二等に剣を向けるのは気が向かないはずだ。
クライツが優しげな表情を作った。
「大丈夫、これは性能を測るための立派な試験だから。何も気に病む必要はない」
「……わかりました。お相手の名前は……?」
「決まっている。ええと、新参で――確か」
少し考えてから、クライツはこう続けた。
「勇者クルスだな」
またお前か。
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