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勇者のプライド

 戦士の強さはルーファスの付与術のおかげだった――

 他の2人も一緒に顔を見合わせていたので、間違いなく同じ恩恵を受けているのだろう。


「ふ、ふ、ふ、ふ――」


 クルスは叫んだ。


「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 怒りの感情を口から吐き出す。

 なんたる裏切り行為! 偉大なる勇者クルスが追放したクソ付与術師の力をこっそり借りていたのだ!

 そんなことが許されるはずがない!

 これはクルスに対する明確な反抗だ。


「貴様らああああああああ! この俺を裏切りやがってええええ!」


 クルスは怒りのままに戦士へと襲いかかる。

 しかし、強さの差は埋めがたい――

「ふん!」


「へぶぅ!」


 ルーファスの付与術で強化された戦士のフルスイングを喰らい、クルスは派手に吹っ飛んだ。


「お、おおおお、おお……!?」


「クルスよ、理解しろ! それが今のお前の実力だ! お前が頑張って修行しても、ルーファスの付与術には勝てない! その事実を認めるんだ!」



「う、うるせえ! お、俺は――!」


「強がるな、クルス! お前だってもうわかっているだろ! ルーファスの付与術があった頃に比べて、お前は弱くなっている。修行したところで何も変わらない!」


 一拍の間を置いてから、戦士が一気に言い放つ。


「お前は弱いんだよ、クルス!」


 その言葉はクルスの心を叩きのめした。

 クルス本人も薄々と気付いていた事実だからだ。

 クルスは弱い。

 それをはっきりと言葉にされて、クルスの胸には大穴が開いたような痛みが走る。

 それでもクルスは折れない。

 怒りを宿した目で戦士をにらみつける。


「そんなことを言っていいと思っているのか……? 俺は勇者でお前たちの上に立つ――」


 戦士はクルスの言葉を遮った。


「ルーファスならまだ村にいる! クルス、今すぐ謝るんだ! もう仲間には戻ってくれないだろうが、きっと付与術ならかけてくれる!」



「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 クルスは叫び、戦士の声を吹き飛ばした。

 あってはならないことだ! ルーファスなんぞに許しを乞うなど! 勇者クルスは間違っていないのだから。勇者クルスは凡俗の上に立つ存在なのだから!


「っざけんなあああああ! できるか、んなこと! そんなに言うのなら、お前たちがルーファスを説得しろ! ぜひともクルスさまの武器に俺の付与術をかけさせてくださいって頼んでくるのなら、考えてやってもいいぞ!」


 戦士たち3人が目をすがめる。

 そこに映った感情は――憐憫れんびん

 それがクルスの感情を逆撫でにする。


「てめぇら――!」


 最後まで言い切れなかった。


「いやあああああああああああああああああ! 助けてええええええええ!」


 遠く――いや、近くから少女の声が聞こえてきた。

 4人は今までのことを忘れ、声のした方角に目を向ける。

 クルスから左手、そこは林になっていた。

 木々の向こう側から必死な様子の――10歳くらいの女の子が走ってくる。

「ヒハハハハハ! ほらほら、逃げろ逃げろ! 死ぬぞ!? おい!」


 その少女の背後から若い男が迫っている。

 男の手から閃光の矢が放たれた。それは明らかにわざと少女を外していた。矢が少女の近くに当たって爆発、そのたびに少女がバランスを崩すのを男は面白がっている。


「ほーらほら! 早く逃げないと!」


 大きな光が少女の前方にある木を直撃した。

 ごん! という大きな音が響いて、木が真っ二つに折れた。

 メキメキと大きな音を立てて木がへし折れる。その木が――まるで断頭台のギロチンのように落ちて、少女の退路を断つ。

「きゃっ!」


 少女は腰を抜かして、その場にへたり込む。

 男が絶叫した。


「ひゃっはっはっはっは! ざぁーんねぇーんでーしたー! デェェェェッドエェェェンド!」


 男がゆっくりとした足取りで、動けなくなった少女に近づく。

 状況を理解したクルスたち4人は顔を見合わせて――

 林の中へと駆け込んだ。

 倒れた木を飛び越えて、少女と男の前に割って入る。


「俺は勇者クルスだ! おい、何をしている!」


 クルスはブロードソードを男に向けて叫んだ。

 若い男が驚いたような顔をした。


「おいおい。まさか、こんなところに勇者さまがいるなんてなあ……遊びすぎたか?」


 クルスは、男の頭の側面にある2本の角に気がついた。


「お前――魔族か!?」


「だーいせーかあああああい! 俺は魔族のデパイスだ!」


 魔族!

 その言葉に戦士たちが色めき立つ。

 だが、クルスはそれほどの脅威と感じていなかった。勇者には魔族の強さを感じ取る能力がある。その力がクルスに囁くのだ。

 ――こいつは、下級魔族だと。

(下級魔族ごときが!)


 クルスは余裕を持ったまま、口を開く。


「魔族がこんなところで何をしている?」


「はあ? そこの村を襲うんだよ」


「!?」


「総勢20の軍勢だ。俺はこっち方面から来たわけだけど、そこにかわいー女の子がいたので、ちょっと遊んでいたのさ」


「……ふん、おしゃべりな魔族め。機密をぺらぺらと喋るなんて!」


「もう機密でもなんでもないさ。遊んでいたせいで遅れちまったけど、とっくに仲間は動いていると思うぜ?」


 はははは! とデパイスが笑う。

 すでに村は魔族たちに襲われている――

 駐留の騎士隊がいるので簡単にはやられないだろうが、危険な状況には間違いない。

 クルスは戦士たちに言った。


「お前たち! さっさと村に戻れ! 娘はどこかに退避させろ!」


 クルスは魔族に向かって剣を向ける。


「こいつは俺が倒す!」


「待て、クルス! 相手の力もわからないのに、そんな――!」


 わかっていないのはお前だけだ! 

 戦士の言葉をクルスは内心で笑った。クルスにはびんびんと相手の力がわかる。下級ごとき、修行した俺ひとりでも余裕だ!

 クルスには描いているストーリーがあった。

 ここで戦士たちを先に行かせる。

 この魔族をクルスひとりで倒す。

 倒した後、クルスは村へと戻る。騎士たちは魔族たちとの戦いで疲弊していることだろう。

 そこへ華麗に現れる勇者クルス。

 形勢は大逆転、感動した村人たちは村中に轟くクルスコールで救世主を讃える――

 完璧なシナリオだ。

 ルーファスや戦士たちによって傷つけられたプライドもきっと回復するだろう。いや、回復するにはこれしかないのだ。


「ここは俺に任せて先にいけ、お前たち!」


 戦士は辛そうな顔をした後、自分の剣をクルスに差し出した。


「……わかった。せめて、このルーファスの付与した剣を使って――」


「うるせぇ! 邪魔だからさっさといけ!」


 クルスは戦士をどんと突き飛ばした。

 よりによってルーファスの剣を使えとは! 本当に何もわかっていない。後からのこのことやってきたルーファスに言われてしまうではないか。

 ――俺の剣を使ったから勝てたんだよな? 追放した俺の剣を使うなんて、どんな気分だ?

 そんなことだけは絶対にあってはならない。

 戦士はため息をついた。


「クルス、死ぬなよ!」


 そう言うと、戦士たちは腰の抜けた少女をかついで村へと戻っていった。

 デパイスが口を開く。


「ほぅ、お前が俺を止める、と? お前だけで大丈夫なのか?」



「ったく……どいつもこいつも舐めた口をききやがってよお……」


 クルスはデパイスへと斬りかかる。


「下級魔族ごときが、そんなことを言っていいと思っているのか!」


「はあ?」


 デパイスはクルスの繰り出した剣をあっさりと払う。


「悪いけど、俺は中級だよ」


 ごん!

 腹を殴られた。あまりの激痛にクルスは顔を歪める。そのまま後方へと吹っ飛んだ。


「う、うおお、お……そ、そんなはず、ない、だろ? お前から感じられる力は下級で――」


「あ? 隠密行動中なんだ。自分の力くらい抑えるだろ?」


 はははは、とデパイスが笑ってから続けた。


「しょーもない手に騙されたな? まともな勇者なら気づく程度の隠蔽だってのにな?」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] クルスは剣を魔族に向かって剣を向ける。     ↑ 剣が二重に使われてますので報告します! [一言] クルス皆が応援している。 俺も応援する。 だから死ぬな・・・。
[良い点] 自己顕示欲のためでも、敵の力量を読めなくても、『それでも勇者として名乗り、立つ』。クルス君、それでいい、それでいいんだ。 [気になる点] 果たして、クルスは救援が来るまで持つのか? [一言…
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