付与術師vs勇者ダイン
「ふむ、ランカスターが隣に立つことを許した男か。面白い、いいだろう」
「ありがたい」
ダインが差し向けた聖剣に俺は視線を落とす。
「先に言っておくが、俺の攻撃力は+999だ」
「……ほう?」
「前科があってね――聖剣を斬ったことがあるんだ。気をつけてもらいたい」
クルスは自業自得なので1ミリも罪悪感を覚えないが、さすがに野良試合で胸を貸してくれた人間の聖剣をバッサリすると胸が痛む。
ダインが首をひねった。
「聖剣を斬った? 何を言っているのか理解できない。ありえない話だ。勘違いでは?」
「いや、本当だって」
「なら、試してみよう。お前の剣が、この俺の聖剣を断てるのか――剣を構えろ」
「おいおい! 待て、どうなっても知らな――」
ダインがあっという間に間合いを詰めて、ぶんと剣を振るう。
俺の剣聖アシストが動く。
ばちぃん!
攻撃力+999の剣と聖剣が激突した。
すっぱあああああああああああああああん!
とは、ならなかった。
俺の剣と聖剣は刃を噛み合わせて拮抗していた。
ダインがふっと笑う。
「勇者が持つ聖剣には理力が宿る。聖剣とは勇者の誇りだ。決して砕くことなどできない」
「うーん、だけど、できたんだよなあ。どうして斬れたんだろう?」
「偽物の聖剣か……あるいは、その勇者がよほど未熟かだな。低質な理力だと聖剣を保護する力も弱くなる。そいつは理力のまともな使い方ができてないのだろう」
「ああ、なるほど」
俺はくくくくと笑った。
「未熟なのは間違いないな。元仲間として保証しよう」
剣から伝わってくるダインの圧力は間違いなく一級品のそれ。未来の偉大なる大勇者クルスさまとは格が違う。
これが勇者の中の選ばれしもの、一等勇者の到達点か!
ダインが静かに言葉を吐く。
「この聖剣を折ることなど決してできない。さあ、思う存分に力を示してみろ!」
言うなり、ダインが攻勢に移る。
とんでもない速さの斬撃。
さすがにやるな! 剣聖アシストがなければ反応が間に合わないところだ。
俺の剣は正確にダインの攻撃を弾き返すが――
「くっ!?」
明らかに斬撃が予想よりも重い。
普通の攻撃を超えているもの――
「理力か……?」
「その通り。聖剣に込めた理力が攻撃を強化している。ランカスターは技でうまくさばいていたが、さて、お前はどうかな?」
うーむ、ミッシェル、さすがだな……。
日頃の言動は完全にアホの子だが、涼しい顔でこれをさばいていたとは――
終わったら褒めてやろう、と思ったが、褒めると絶対にドヤ顔するから、やっぱりスルーだな。
剣の強さだけではない。ダインには理力による『技』もある。
右手の聖剣にばかり注意を向けると、青白い理力をまとった左手が襲い掛かってくる。
「はっ!」
ダインの掛け声と同時、青白い理力が不意に爆ぜる。
もちろん、危機を察した俺はすでに距離を置いているが。衝撃の余波が身体に届く。そんな動きが止まった瞬間を狙ってダインが猛然と間合いを詰める。
その聖剣を、俺のブロードソードが受け止める。
一対の刃が動きを止めた瞬間――
「はあっ!」
踏み込んだダインの理力をまとった手刀が、俺の剣の腹を薙ぎ払う。
その瞬間、ばきん! と俺のブロードソードが真っ二つにへし折れた。
「うおっと!?」
俺は慌てて後退、ダインから距離をとる。
おいおい、理力ってとんでもないな……。
「普通の剣のように見えたのでへし折ってみたが――悪かったか?」
「普通の剣だから、別にいいさ。あんたらの聖剣と違って、これは俺の誇りじゃあない」
俺は折れた剣を手放す。
そして『展開』の術式を発動して意識化から新しい剣を取り出した。
ぴくっとダインの眉が動く。
俺はにやりと笑った。
「武器を折ることは、俺の心を折ることにはならない。さて、勇者ダイン、続きを始めようか?」
再び俺とダインは切り結んだ。
だが、結局のところ、何も変わらない。ダインの圧倒的な攻勢を前に、俺は防御に徹するしかない。
これが差なのだ。
俺は剣聖の力をエミュレートできるが、その力は本物であるミッシェルやダインのような一級品には遠く及ばない。
だが――
問題ない。
俺は剣の道でダインやミッシェルを『正面から』打ち破るつもりなど毛頭ない。
勝てばいい。
俺は付与術師だから。付与術師らしく勝つだけ。相手の得意フィールドを殺して、俺の得意フィールドを活かす。
勝つことこそが最強を証明する道なのだ。
ようは、勝てばよかろう! ――なのだ!
きぃん!
俺に剣を弾かれたダインの動きが止まった。いつもならすぐに次の斬撃を繰り出してくるのに。その顔に違和感が浮かぶ。
「……何か、しているな?」
「ああ、もちろん」
俺は楽しげに応じる。
「もちろん、何かしている――なぜ、そう思った?」
「……お前の剣と撃ち合うたびに、全身の理力が乱れる感じがする。今までにはなかった感じだ」
「ふふふ、そうか。そりゃよかった。狙い通りだ」
俺は剣の切先をダインに向けた。
「俺の剣に『理力発散』の付与術をかけた。こいつで攻撃を受けると、相手の理力を発散する」
結果、ダイン本人の理力による能力向上が減少する。俺でも手足が出る程度には。
「ありがとう、勇者ダイン。この付与術は今まさに生まれた。お前が俺を攻撃してくれた理力を戦闘中に解析してな――」
全ては俺の計算どおりだ。
それが、この戦いを挑んだ本当の目的だった。
脳筋ミッシェルのように100%純度の戦闘願望ではない。俺の場合は50%くらいで――残り50%の理由は『良質な理力のサンプル』が欲しかったから。
もともと勇者クルスの下に入ったのも理力を解析したかったからだ。クルスの理力はカスみたいなものだったので少しも役には立たなかったが……。
理力が対魔王の決戦兵器になるのはわかりきった事実だ。
だが、俺は理力を扱えない。
扱えないから、できない?
違う。
扱えないのなら、扱えるようにするだけ。
武器という領域であれば、それを付与するという形であれば――
俺に不可能はない。
そのためにどうしても理力のメカニズムを解析が必要だった。とても良質で膨大な。
一等勇者のダイン――
その力はまぎれもなく、俺が探し求めていたものだ。
ダインが息を呑む。
「この戦闘中に、付与術を作り出しただと!?」
「お前のおかげだ。お前が俺に理力を見せてくれたから。ようやく理力に干渉する手段を手に入れた」
まだまだ小さな一歩だ。
理力を揺らすだけの効果。お世辞にも自慢できるほどのものでもない。それでも、今までは理力に関する積み重ねはゼロだった。
そのゼロが、今ようやく1になった。
ここから俺の理力に関する研究は進んでいくだろう。
「いずれは理力そのものを付与してみせよう。この力はやがて俺が魔王を倒すときの礎となる。そのときは誇るといい、勇者ダイン。付与術師ルーファスに理力を教えたのは俺だとな」
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