俺の付与術には隠し効果がある
俺の付与術で戦うと、武器に特殊効果がつくことがある――
その事実を知って、ミッシェルとリノが興奮した。
「どどど、どうしてそんなことが!? 付与術ってそんな効果があるの!?」
「いや、最上位の付与術師だけなので、普通は無理だ」
確か、戦っているうちに『高品質な魔力の残滓』が武器に残ることがあって、その結果、こんなことが起こるらしい。
ちなみに、この効果があるのは一定以上のランクを持つ武器だけだ。
なので、低ランク武器のブロードソードを振り回していたクルスたちは知らない。
「でもさ、すごいよ! 武器を使い込めば強くなるんだよね!?」
「まあ、そうだが――」
一方、俺の反応は薄い。
「言っておくが、あまり発現頻度は高くないぞ? おまけに効果も微妙だし」
「そんなことないよ! だって『かしこさ+1』だよ!?」
「うう……お嬢さまにも、ついに叡智の煌めきが……文明開花が……」
ミッシェルは興奮し、リノは目を拭っている。
そんな2人に俺は残酷な事実を告げた。
「いや、かしこさ+1って、誤差だぞ。ほぼ違いはない、というか……その、ミッシェル、頭が良くなった実感、ある?」
「……ない、かな……」
寂しげな様子でミッシェルがつぶやいた。
リノが慌てて首を振る。
「そ、そんなことありませんよ、お嬢さま! もっと、こう、小さな違いを感じ取れるように明鏡止水の気持ちで――!」
「……何も、感じないよ……?」
本当の本当に、心の底から悲しそうな様子でミッシェルが言った。
よし、助け舟を出そう。
「ミッシェル、3+2は?」
「5だよ!」
「すごい! かしこさ+1の効果があった!?」
「前から答えらーれまーしーたー! うがぁ!」
「そうだったのか……!?」
びっくりした。
「いえ、まだ諦めるには早いです!」
リノはキッパリと言い切った。
「なぜなら『かしこさ+1』ですから! これ、繰り返したら『かしこさ+99』くらいまでいくんじゃないでしょうか!? 王国一の名宰相の誕生ですよ!」
「え、わたしが名宰相!?」
「まあ、理論上はな……」
+99がどれほどか知らないが、確かにそれくらいは賢くなれるかもしれない。
「でも、無理だと思うぞ?」
「な、なぜですか!? ハーバライト公爵家の危機なんですが!?」
「それ、いろんな特殊効果がランダムに出るからな。かしこさ+99まで積み上がるなんて机上の空論だよ」
「……うーむ、そうですか……惜しいですね……」
リノは心底からがっかりしたような息を吐いた。
俺は話題を変えた。
「……それよりは武器のランク上昇を期待したほうがいいかもな」
「武器の――」
「ランク上昇!?」
驚きの声を上げる2人に、俺は話を続けた。
「……ああ。魔力が違った残り方をすることもあってな。特殊効果の付与ではなく、武器のランクを押し上げることもある」
「え、ちょっと待ってください」
リノが考え事をしながら言葉を吐き出す。
「付与術の効果って『対象となる人物の能力+武器のランク』で決まると言っていませんでした?」
「言っていたな」
「ということは……武器のランクが上がると、付与術で上昇できる攻撃力も上がる、ということですか!?」
「そうなるな」
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
ミッシェルが興奮気味に言う。
「あのさ、じゃあ、しばらく武器のランクを鍛えようよ!」
「そうですね! ついでに『かしこさ+3』くらいまで成長できるかもしれません!」
「なるほど」
確かに武器のランクを鍛えるのは悪くない話だ。全員の攻撃力を+999にできたほうが強いに決まっているからな。
俺個人にはメリットのない話だが――
打倒魔王は俺ひとりでは不可能。仲間の実力アップは必要不可欠だ。勇者クルスのように鍛えても意味がないやつだと徒労だが、この2人なら投資する価値はある。
「いいだろう。付き合ってやろう」
そう言って、俺は視線を西へと向けた。
「なら、グリア山に寄り道するか」
「グリア山?」
問うミッシェルに、俺は応えた。
「……モンスターが多い場所でな。なんとかっていう一等勇者も修行しているらしい」
「へえ! 面白いね!」
というわけで、次の俺たちの目的が決まった。
そこでミッシェルが別の話をしてくる。
「じゃあ、次の目的地も決まったし――ルーファスのとっておきを見せてよ!」
「……俺のとっておき?」
「武器を使い込めば使い込むほど強化されるんでしょ? じゃあさ、秘蔵のむっちゃ鍛えた武器を持っているんじゃないの? なんかすごくヤバい感じの!」
なんかすごくヤバい感じの。
かしこさ+1だと、まだ語彙力に問題があるなあ……。
俺は端的に答えた。
「ない」
「え?」
「そもそも、俺の基本武器はランク1ブロードソードだ。さっきも言った通り、ランク1に特殊効果はつかない。ランクも上がらない」
「ええ、でもさ、それなりの武器なら鍛えられるんでしょ? 何か持ってるでしょ?」
「持っていない。確かに鍛えられるが、特に鍛えていないな」
「……どうして?」
「武器なんて、しょせん使い捨てだ。鍛えようとは思わない」
「ええ!? 薄情だなー」
「合理的と言ってもらおうか」
武器に関して言えば、俺は愛着を持たないようにしている。愛着がある武器は簡単に捨てられないからだ。その迷いが、1秒の戸惑いが俺自身の運命をわかつ可能性もある。
武器なんて無機物は、簡単に使い捨てられるほうがいいのだ。
「どうでもいいことだ。さっさと依頼をこなして、グリア山を目指すぞ」
そう言うと、俺は林の奥へと歩き出した。
ランキング挑戦中です!
面白いよ!
頑張れよ!
という方は画面下部にある「☆☆☆☆☆」から評価していただけると嬉しいです!
応援ありがとうございます!