ルーファス一行vsミノタウロス(瞬殺)
ずぱぱっ。
やたらとキレのいい音がして、ミノタウロスの巨体が3分割された。
俺の付与がかかった双剣でミッシェルがミノタウロスを切ったのだ。
エクスボーンとの激闘の後、ミンツの街の近くにミノタウロスが出没するので倒してくれと頼まれた俺たちは、林に入って哀れなるミノタウロスを蹴散らすことにした。
「ひええええ! この剣、斬れ味マシマシすぎぃ!?」
ミッシェルが2本のショートソードを眺めながら驚愕の声を上げた。
「何これ!? 紙を切るみたいにスッパーン! だったけど!?」
「そんなに驚くことか? お前ならミノタウロスなんて、もともとスパスパだろ?」
「いやー、まーそうですけどー。ミノタウロスごときに苦労するとか、人生で一度もないですけどー。苦労する人たちの苦悩が理解できないアタクシですけどー」
ミッシェルが剣をぶんぶん振った。
「切れ味がマジで違うんだって! 前は腕力と技でおりゃー! って斬る感じだけど、もうほんと、柔らかく口の中でとろける牛ヒレ肉を新品のナイフで切ったときみたいな!」
「面白い例えだが――イメージだけで言われてもな……」
「え?」
「山猿のお前が『柔らかく口の中でとろける牛ヒレ肉』なんて食べたことないだろう?」
「ありますー! あーりーまーすー!」
「……えーとですね、これは本当にあるんですよ、ルーファスさん」
「本当に、ある?」
「はい。わたしがお嬢さま呼ばわりしているのは伊達ではなくてですね、ミッシェルさまは公爵令嬢であらせられます」
「え、うそ!?」
威厳のかけらもないんだが!?
令嬢って言葉がこれほど似合わない人物もいないと思うんだが!?
「わたしのフルネームはミッシェル・ハーバライトだよ!」
ハーバライト公爵家!
王国でも最高峰の名家である。
「……本当なのか?」
「はい、本当です。前にお話しした『黎明』という組織を覚えていますか?」
「覚えている」
確か魔王討伐のスペシャルチームを作り、膠着した王国軍と魔王軍の戦いに終止符を打とうとする組織だったか。
有力貴族が集まって作った有志連合と言っていたが――
「その盟主がハーバライト公爵家です」
「……なるほど」
で、その盟主の娘が剣聖ランカスターの名を継いで最前線に出てきたわけか。
……金を持っているのか……。
今後、付与術をかけた回数は覚えておこう。魔王を倒し終わったら実家に請求書を送ろう。1回あたりどれくらいの値段にするのが妥当だろうか……。
「何か悪いことを考えていそう……性格が悪いもんね」
「何か悪いことを考えている顔ですねえ……性格が悪いですし」
「そんなこと考えているはずがないじゃないか、はははは」
「……ま、わたしの出自はともかく――」
ミッシェルが自分の双剣に目を落とし、話題を戻した。
「ルーファスの付与術って攻撃力めっちゃ上がるんだね。これが攻撃力+999の世界なんだー」
「いや、違う。それは攻撃力+600だな」
「ええ!? ちょっと、手を抜かないでよ!」
「手を抜いているわけじゃない。俺の付与術は『対象によって限界』があるんだ」
かけられる付与術の強さは『対象となる人物の能力+武器のランク』で決まる。
もう少し詳細に説明すると――
ミッシェルの場合、対象となる人物の能力が10段階のうち9。
持っている剣が10段階のうち6。
足し合わせると15となる。なので、15段階に相当する強化が可能となる。
これが人類最強を目指す偉大なる勇者クルスの場合、本人スペックは10段階で2、持っている剣がただのブロードソードだったので10段階のうち1。
たった3段階の強化しかできない。
「――という理由で今のミッシェルには攻撃力+600が限界だ」
ぷしゅー。
ミッシェルの口から湯気が溢れていた。
リノが割って入る。
「数字が出てくる話ですが、お嬢さまには控えていただきたく」
……この程度でも無理なのか。
数字を理解できるリノが話を続ける。
「少し気になるのですが、その計算式だとルーファスさんはお嬢さま以下になるのではないですか?」
「ほう、鋭いな」
俺のスペック値が10段階の10だとしても、使っているブロードソードが1だと――
わずか11。
難しい話でないが、よくそこに気づいたものだ。
「実はな、俺は付与術師だから、付与術に対してボーナスがあるんだよ」
付与術師ボーナスにより+10。
結果21。
「なので、俺は攻撃力+999の付与術ができるんだ。わかったよな、ミッシェル?」
「うぴ?」
ミッシェルは妙な言葉を口にして目をパチパチするだけだった。
リノが口を開く。
「そういうことですか……もうひとつ質問です。エクスボーンとの戦いで、どうして、わたしたちの武器に付与術をおこなわかったのですか?」
「事前に深く『解析』しておかなきゃいけないんだよ」
どんな武器でもいきなり「はい! 付与術どーん!」とできるわけではない。
事前に、その武器を『解析』しておく必要がある。
武器そのものを手に取って、しげしげと『解析』するわけだ。あるいは、意識下に封印している間に自動で行うこともできる。
そういう事前の手続きが必要になる。
「エクスボーン戦では解析する暇がなかったからな。お前たちへの付与はできなかった」
ミッシェルの双剣は「わたしにも付与術かけてよー」と言ってきたときに解析したので、今は付与できるようになったのだ。
「へえ、そうなんですね。では、わたしの武器もお願いしていいですか?」
「もちろんだ」
などと話していると、魂の抜けていたミッシェルが声を上げた。
「お!?」
持っていた剣を向けた先に、のしのしと新しいミノタウロスが歩いている。
「街の人の安全を守るためだ! うおー、死ねー!」
ミッシェルがミノタウロスに襲いかかり、またしても、スパパン! とミノタウロスをぶった斬った。
「この切れ味、クセになるゥ!」
興奮しているミッシェル、その声が、うん? と途切れた。
しげしげと、自分の剣を眺める。
「あれ? なんか変な効果がついているんだけど?」
おそらくミッシェルは武器のステータスを眺めているのだろう。自分の所有物については装備のスペックを確認できる。
俺はさらっと調べてみた。
俺の場合、武器であれば他人のものでも詳細なデータがわかる。
--------------------------------------------------
ランカスターの剣(陰)
ランク:6
攻撃力+150(付与により+600)
--------------------------------------------------
かしこさ+1
--------------------------------------------------
「……ああ、これは――俺の付与術をつけた武器で戦うと、武器が育つことがあってな。こういう感じで効果がつくんだよ」
「へー」
「ほー」
そう2人は応じた後、
「「ええええええええええええええええええええ!?」」
大声で叫んだ。
「それ、すごいよ!?」
「それ、すごいじゃないですか!?」
ランキング挑戦中です!
面白いよ!
頑張れよ!
という方は画面下部にある「☆☆☆☆☆」から評価していただけると嬉しいです!
応援ありがとうございます!