表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/37

vs爆撃のエクスボーン(下)

 さっきまでの余裕から一転――


「お、が、あ、あ、ああ……」


 双刃に切り裂かれたエクスボーンが盛大に血を吹き出している。


「こ、この、下等種ど――ガァッ!?」


 ミッシェルの刃が走り、再びエクスボーンの身体を薙ぎ払った。


「おおおおお! 許さん、許さんぞおおおお!」


 アストラル・シフト!

 ぶん、とエクスボーンの身体がダブり、傷が消える。


「はっ、そんなことしても意味ないだろ?」


 俺は笑う。

 俺の言葉の通りになった。

 ミッシェルの刃が三度エクスボーンの身体を切り刻む。慌てたエクスボーンがさらにアストラル・シフト。距離を取ろうとするが――


「逃さないよ!」


 ミッシェルは離さない。あっという間にエクスボーンの動きを封じ、無慈悲な刃を振るう。


「ギィィィヤアアアアアアア!」


 エクスボーンの絶叫が響き渡った。

 そう、無駄なのだ。ゼロ距離は剣聖の間合い。戦士として最強最速の使い手、剣聖ランカスターの眼前で無傷になっても意味などない。新品になった身体があっという間にボロボロになるだけ。

 生命力が枯れ果てるまで、切り刻まれるのがあいつに残された運命だ。

 ……簡単に死ねないタフさも困りものだな……。

 ビシッ、ビシッ。

 エクスボーンの身体が石灰化を始めた。


「もう、終わりだな」


 俺はそう思ったが――

 エクスボーンにはまだ手札が残っていた。


「なめるなァッ!」


 エクスボーンはミッシェルの刃に腹を貫かれながらも、ためらうことなく前へと進み、ミッシェルの身体を抱きしめた。


「にゃ!?」


 驚いたミッシェルが暴れようとするが、身体が動かない。

 崩壊しつつあったエクスボーンの身体がものすごい勢いで金属のように硬質化していくからだ。おそらく強度もまた、見た目の通りなのだろう。


「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」


 ミッシェルが力を込めるが、ぴくりとも動けない。


「ひひひ、ひへははははははあはははは!」


 エクスボーンの大笑いが響き渡る。

 瞬間、エクスボーンの身体が変形した。ぼこぼこと背中が膨らみ、丸まった人くらいの大きなこぶが出現する。

 その中央には大きな赤い宝玉が埋め込まれていて、ゆっくりと明滅していた。


「ひひひひひひ! 俺の能力は『爆弾化』! 俺はもう助からないから、俺自身を爆弾にしてやった! 特大の爆弾だ! この街ごと吹っ飛んでしまえ! もう止まることはない! このコアを破壊しない限りなああああああ!」


「やれやれ……本当に性格の悪いやつだ……」


 おとなしくくたばっておけばいいものを。


「にゃろおおおお!」


 ミッシェルが身じろぎするが、完全に動けないようだ。

 つまり、命運は俺とリノに託されたわけだが――

 リノがハンドガンをエクスボーンのコアに向かって連射する。

 ギギギギギギン!

 硬質な音がするだけ。コアには傷ひとつついていなかった。


「くっ、硬い!」


「いひひひひひひ! ほぅら、ぼんやりしている暇はないぞ! あと15、14――!」


「……一点射撃は得意かな?」


 リノにそう言いつつ、俺は右手を差し出した。

 攻撃力+999ブロードソード、射出!

 俺の撃ち放った剣が空を切り裂き、エクスボーンの背中にあるコアへと一直線に飛んでいく。

 そして――

 がりっ!

 と硬い音を響かせて、その先端をコアに突き刺した。


「ぬああああにいいいいいい!?」


 エクスボーンは絶叫するが、まだ浅い。

 刺さったのは剣の切先だけ。

 攻撃力+999を持ってしても、一撃で貫くことは難しいのか。

 だが、何も問題はない。

 ガァン!

 刺さったままの剣の柄尻を、リノの銃撃が叩く。連射する青い光が同じ場所で輝き続ける。その勢いに押されてブロードソードが少しずつコアの奥へと進んでいく。


「おおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 エクスボーンが驚愕の声を吐き出す中、涼しげにリノが口を開く。


「得意ですよ。1ミリだって外しません」


「素晴らしい」


 言うなり、俺はエクスボーンに向かって走り出した。

 なぜなら――

 あいつの性格が悪いからだ。

 その間もリノの精密射撃が続く。ブロードソードはズグズグとその刀身を赤いコアへと沈めていく。

 やがて、大きな音が響いた。

 赤いコアに刃の半ばまでが沈み、耐えきれなくなったコア全体にひび割れが走る。そして――

 轟音とともにコアが割れ砕けた。

 7秒前――


「アアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 己の命を賭した爆弾を破壊されて、エクスボーンが絶叫する。


「アヒャヒャヒャ! なーんてな! 嘘だよ!」


 だが、その絶叫はやがて、大笑いになった。


「言うはずないだろ、ここを壊したら爆弾が止められまーす、なんて? ほぉら、ラスト2秒、どーん!」


 ああ、もう本当に――性格が悪い。

 まあ、だけどさ。

 だからこそ、思考が読めるんだよな。

 瞬間、エクスボーンの身体がバラバラになった。ゼロ距離まで近づいていた俺が攻撃力+999ブロードソードでなで斬りにしたからだ。

 ……偽物のコア以外はそこまで硬くなくて助かったよ。


「ぶえっ?」


 状況が理解できないエクスボーンが間抜けな声を漏らす。

 俺は口を開いた。


「そいつが本当のコアじゃなくても、身体のどこかに爆発を制御するコアはあるんだろ? なら、全身をバラバラにしてしまえばいい、違うか?」

「……そ、そんな……どうして、お前は迷いなく、そんなことが……?」


 エクスボーンの顔の一部、口がぱくぱくと音を吐き出す。

 ……やれやれ。首から下もないのに口だけで喋るなんて魔族は器用だな。

 俺はふっと笑って、死にゆくエクスボーンの問いに応えてやった。


「……悪いな、お前の性格が悪いように――俺も性格が悪くてな。コアの話がフェイクだってことはすぐわかったんだよ」


「ちくしょう……」


「ああ、そうそう。俺だったら、カウントダウンは30秒から始めるね。で、残15秒の時点で、どーん! だ。相手を油断させるいい手だろ?」


「はっ、ははははは!」


 石灰化でボロボロと崩れていく中、エクスボーンは笑い最後にこう言った。


「最低のクソ野郎だな、お前は……!」


「最高の褒め言葉だよ」


 エクスボーンの身体は塵となって消えた。

 静寂。

 俺たちの戦いを遠くから見ていた街の人たちが、おおおおおおおおおおおお! と声を上げた。

 いやはや、すまないね。いきなり街中でドンパチしちゃって。


「ほわあああ、助かったああ……」


 開放されたミッシェルが両腕を上げて叫ぶ。


「助かったあああああああああ!」


「よかったな」


 言いつつ、俺はミッシェルにビシッと指を向ける。


「減点10だ」


「え、えええええ!? わたしだって活躍したよ!?」


「人質になった時点でダメだ」


「あ、あひいいいいいいいいいい! リノ! リノ! フォロー、フォロー!」


 近くまでやってきたリノが冷たい言葉を口にする。


「減点10は優しいですよ、さらに倍でお願いします」


「き、厳しい!?」


「何度も言っているじゃないですか、お嬢さま。お嬢さまは粗忽者だと。油断しすぎだと。適当すぎると。大雑把すぎると。注意が散漫だと。考えがなさすぎると。そんなんだから、あれだけ圧倒している相手に人質に取られるんですよ」


 親切な俺は気を利かせて補足する。


「しかも、2回な、2回」


「……どこまで気を抜いていれば、1度の戦闘中に2回も人質にとられるんですか? アホですか?」


「う、ううう、うううううううううう!」


 悔しがりながら、ミッシェルは俺に向かっていきなり右手を差し出した。


「ま、まあ! と、ともかく! 勝てたから! 追試は合格、合格だから! 仲間としてよろしくね!」


 強引な展開で全てを有耶無耶にする作戦だった。

 俺は冷静に指摘する。


「不合格だが?」


「ひいいいいいい!? ……ダ、ダメ、ですか?」


「だが、そうだな……俺は意外と優しい。定員数が足りないので補欠合格くらいならいいだろう」


「おおおおおおおおおおおお! やったああああああ!」


 喜びの声をあげるミッシェルの横で、うっすらとリノが涙目を手で押さえている。


「……ありがとうございます……! お嬢さまの面倒をひとりで見るのが正直辛かったので嬉しいです……! 一緒に頑張りましょう!」


 お前、苦労しているなあ……。

 まあ、いい。

 クルスのように才能がないのは困りものだが、ミッシェルのおつむの弱さは俺次第でなんとかなる。

 白兵戦なら上位魔族とも渡り合う腕前は貴重だ。

 うまく使ってやるさ。

 俺は付与術師――パーティーをサポートするのが仕事。きらめくものを持つのなら、この俺がうまく導くだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 仲間が増えたよ。 [一言] それは、あまりに大雑把すぎた! ちっちゃく、軽く、薄っぺら! それは、まさにぺったんだった……!
[一言] たしかに、才能が無いのはどうしようも無いけどおバカなのは躾ければ済むもんなあ。 ……ペットかなにかかな?w(≧▽≦;)
[良い点] >「最低のクソ野郎だな、お前は……!」 「最高の褒め言葉だよ」 >>性格悪いヤツには最高の賛辞。 [気になる点] ルーファスは褒め殺しに弱いのか [一言] リノさんの一点射撃あ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ