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ひなこ先輩はかわいい

作者: 刻露清秀

 俺には好きな女の子がいる。


 大学の一学年上の先輩である、花京院ひなこ先輩。子どもたちに読み聞かせをしたり、人形劇をしたりする『(わらべ)っ子クラブ』という名前のサークルの、先輩である。


 仮にも先輩のことを女の『子』扱いするのもどうかと思うが、俺の心の中だけなので許してほしい。童顔で身長も140センチ代と小柄なので、成人どころか中学生くらいに見えるのは、本人は少し気にしているらしい。大人に見られたくて、髪を明るい茶色に染めてカールさせたり、ハイヒールを履いている先輩を、俺はすごく可愛いと思っている。


 ひなこ先輩はいわゆるお嬢様だ。ある雨の日、大学まで黒塗りの車が迎えに来たことがある。


「こういうの嫌なんだけど」


と口を尖らせるひなこ先輩はやっぱり可愛かった。


 そんな先輩が今、俺のバイト先に客として来ている。俺のバイト先は先輩のイメージとは正反対の牛丼屋。格安、小汚い、男くさい。三拍子揃ったバイト先で、ひなこ先輩は浮いていた。


 うちの常連さんの格好は、だいたいくたびれたスーツ、もしくはなんらかのシャツにジーパン。無精髭率高し。そんな感じ。黒いニット帽もよく見かける。


 先輩の出立ちはというと、ベージュのタータンチェックに白い大きな襟のついたブラウス。しかもフリル付き。黒い膝丈のスカート。真っ白い靴下。ピカピカの靴。ベージュのベレー帽、リボン付き。一人なのは常連さんと同じ。


 ひなこ先輩は最初、椅子に腰掛けて周りを伺っていた。ひなこ先輩、うちは店員が注文伺ったりしないんです。食券を買うんです……。


 声をかけようか迷っているうちに、後から来たお客様が食券機に向かった。ひなこ先輩はちょっと赤くなって食券機に向かう。かわいいなあ。


 が、タッチパネルが反応しなくて困っている。手に息を吹きかけている。もう一度挑戦。今度は反応したようだ。小さくガッツポーズをしている。


 食券をもう一人のバイトにドヤ顔で差し出し、足取りも軽く席へ。


 そのご注文は


「チーズ牛丼定食でお待ちの145番のお客様〜」


自分で用意しといてビックリした。何故そのチョイス。


 ひなこ先輩はチーズ牛丼定食を差し出した俺には気がつかず、またルンルンという擬音がピッタリの足取りで席へ。


「いただきます」


と小声で言って、まず味噌汁を一口。はらはらと箸からこぼれ落ちるキャベツを、やや苦戦しながらも一口。そしてアツアツのチーズののった牛丼を一口。見事な三角食べである。


「うま」


口に出てますよ、ひなこ先輩。すっと美しい所作で薄めのお茶を一口。さっきより大きめの一口でキャベツ。固めで乾燥気味のキャベツも、食べ方が分かれば大丈夫。さっと掴んで、さっと食べることである。さあチーズが冷める前に召し上がれ。


 ご飯は大盛りご自由に。ツユは多め。とろけるチーズ。キャベツは固め。味噌汁は少なめ。お茶は薄め。でも味良し、何より、コスパ良し。お嬢様とは無縁の定食。でも


「ごちそうさまでした! 」


ひなこ先輩はお気に召したようだ。満足げに口を拭い、食器を下げて笑顔で店を去るひなこ先輩は


「かわいい……」


ふと後ろを振り返るとバイト先の先輩が冷たい視線で俺を見ていた。


「仕事しろ」


「……ウス」


俺のバイトはまだ始まったばかりだ!

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