魔法と不思議な動物
早速《悲願の結晶》を見つけ出す旅を始めたアルゴだったが、開始早々問題に直面していた。
「探すって言っても、どこを探せばいいんだ……?」
そう。世界のどこかにはある。だが、それがどこにあるのかは分からない。
闇雲に探しても見つかるわけがない。かと言って、どこか見つけ出せそうな場所に心当たりがあるかと思えば、そうでもない。
ならばどうするのが一番か。それを考えた時に導き出された答えは一つ。片っ端から情報を集める。これが一番早い方法だろう。
「なら、まずこの森から抜けないとなぁ……」
この森の中でずっと留まって人に遭遇する確率なんてたかが知れてる。
だからまず森を抜けて、人のいそうな集落などを見つけ出した方がいいだろう。
「よしっ、まずは集落を探そう」
そう言い、集中力を極限まで高める。
そして――
「――【示せ】」
〝奇跡の力〟――〝魔法〟を使用する。
アルゴの体は淡い灰色の光に包まれ、やがてその光は波のように広がる。
「北側に人の気配がする……。しかもこの反応、かなり人がいそうだな……」
どうやら北に進めば、人に会えるらしい。
因みに今のは、人がいたら、それがどの方角にいるのか分かる魔法である。
「よしっ、行ってみるか」
こうして、ようやく本格的に旅が始まった。
それからしばらく森の中を歩いていると、ある不思議なオオカミに遭遇した。
『グルルルルゥ……』
口元からよだれを垂らしながら、今にも襲い掛かってきそうなこの動物。
体は全体的に黒く、鋭い牙を持っているが、最も気になる部分はその背中である。
燃えているのだ。いや、正確に言えば、背中から赤い炎が噴き出ているのだ。
「どうなってんだ? あれ……」
炎が背中から出ているのに、オオカミは全く熱そうにしていない。むしろその炎が体の一部かのように動いている。
『グルルルルゥッ!』
唸り声を上げながら威嚇すると、その背中の炎も勢いを増す。
「どんな仕組みかは知らないが……、このまま通してはくれなさそうだな……」
このオオカミは自分を獲物としか見ていない様子である。
本当は無駄な戦闘は避けたいが、この先また同じような生物に出くわすかもしれないし、何より見た事が無い未知の生物だ。どんな戦い方をするのか、情報が欲しい。
『グゥララララァ――ッ‼』
オオカミが地を蹴り襲い掛かってきた。
口を大きく開けながら、真っ直ぐに突っ込んでくる。
「【現せ】」
それに対して、アルゴは魔法で創り出した『灰の剣』を構える。
決着は一瞬で付いた。
オオカミの突撃を横に躱し、そこから『灰の剣』で首を下から上にかけて斬る。
オオカミは斬られた断面から血を流し、ぼとりと落ちる。それと同時に、背中から吹き出ていた炎も消える。
「ふぅ……。これならこの先出てきても対処できそうだな」
取り敢えず、オオカミの遺体を見てみる。
ゴツゴツとした体に、一本一本が硬そうな毛。
「これは、食べれそうだな」
そう言ったアルゴは血抜きを済ませ、背中に背負って再び歩き出した。
――――
「ふぅ、ようやく森から抜け出せた……」
丸三日。
森を抜け出すのに、丸三日かかった。
時々オオカミに襲われながらも、不眠不休で歩き続け、ようやく森を抜け出せた。
遠くには城壁のようなものが見える。
どうやら、進む方角は間違っていなかったらしい。
「……それにしても、オオカミの中に入ってたこの石って、何なんだ?」
そう言いながら、もうすっかり見慣れた青い空に向かってその石を掲げてみる。
赤い半透明をした結晶のようなもの。
歩きながら食べていると、心臓の中から出てきた。
「まいっか。今はあの集落に行くのが最優先だ」
そう言い、足を進めた。