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軟禁されたコランティーヌ達。
どうして、こんな事になったの?
軟禁されたコランティーヌは、不幸のどん底にいた。
彼女が幸せだったのは、10歳になるまでだったかもしれない。
愛し合う両親の間に割り込み、魔力量の為に父と結婚した女が産んだベネディクトを、両親は嫌っていた。
事情を知らない内から、コランティーヌは両親の影響でベネディクトを見下していた。
ベネディクトの魔力量が1200に足りず、激怒した父に追い出された時は、ざまあみろと喜んだ事を、コランティーヌは今でも覚えている。
同時に、ベネディクトを産む為に両親が引き離されたのに、魔力量が足りないなんて意味が無いと腹が立った事も。
しかし、ベネディクトは王弟の養女となって王族に加わった。
見下していた相手が格上になり、コランティーヌは嫉妬と怒りを感じた。
前から望んでいたが、王太子妃になってベネディクトの上に立ってやると言う思いを強くした。
だが、翌年、10歳になったコランティーヌは、自身の魔力量がベネディクトを大幅に下回り、公爵家としてギリギリしかない事を知った。
見下していた人間より自分が下だと知った時の衝撃は、計り知れない。
彼女が立ち直れたのは、王太子だと思っていたシプリアンに気に入られた時だ。
ベネディクトの婚約者を奪って王太子妃になると言うのは、とても甘美な夢だった。
幼い頃からの夢が叶い、ベネディクトに屈辱を味わわせ、彼女の上に立てるのだから。
それなのに、シプリアンは王太子ではなかった。
魔力量が足りないから、ベネディクトとの婚約を破棄すれば王族ですらないと。
魔力量、魔力量、魔力量!
どいつもこいつも! 何なのよ!?
魔力が何の役に立つって言うの!
コランティーヌは、数年前に街を守る魔法陣の事を教わっていたが、すっかり忘れていた。
魔力量が重要視される世界を恨むが、しっくりしない。
世界なんて漠然とした大きなもの、コランティーヌの手には負えない。
無意識にそう思い、解り易い敵を探す。
直ぐに思い浮かんだのは、やはり、ベネディクトだった。
ベネディクトが生まれていなければ、魔力量を比較される事は無かった。
ベネディクトがシプリアンの婚約者でなければ、陛下主催の宴で婚約破棄なんてせずに済んだ。
此処に軟禁されたのも、きっと、ベネディクトの差し金だ。
どうにかして思い知らせてやりたいのに、軟禁されては何も出来ない。
自分以外の所為にして安心し、ベネディクトを恨む事で気力は回復したが、使い所は無かった。
軟禁が解かれてからベネディクトをどんな目に遭わせるか考えても、コランティーヌには計画とも言えない願望しか浮かばない。
「コランティーヌ様。夕食のお時間です」
食堂に向かうと、シプリアンが席に着いていた。
最近、彼とは夕飯の時しか顔を合わせない。
お互い、恋心が冷めたのだ。
軟禁前に思っていた性格と違うと感じた。
コランティーヌは、シプリアンを自分を引っ張ってくれる頼もしい人だと思っていた。
しかし、彼は、自分の事ばかり。
シプリアンは、コランティーヌを自分を支えてくれるしっかり者だと思っていた。
しかし、彼女は、自分の事ばかり。
逃げ場の無い軟禁生活の中で、不満だけが育まれて行く。
膨れ上がった不満が何を生むのか、今はまだ誰にも分からない。