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「そ、そんな……」
青褪めたシプリアン様とコランティーヌ様は、味方を探すように貴族達を見ました。
「宜しゅうございましたわね」
「おめでとう存じます」
「お似合いですな」
皮肉を込めた祝福の言葉が、お二人にかけられます。
「恐れながら、陛下。シプリアン様は、アランブール公爵家の跡取りとなるのでしょうか?」
私が気になった点を尋ねますと、陛下は厳しかった表情を皮肉気に緩められました。
「まさか。バンジャマンは、魔力量が1199でもアランブール公爵家の跡継ぎには足りないと言ったのだぞ。1050しかないシプリアンが跡継ぎになれる訳があるまい」
先程から一言も発せずにいたアランブール公爵を見れば、悔しそうな表情で床を睨んでおります。
従兄弟とは言え、流石に、公の場で陛下を睨まない分別はお持ちのようです。
「父上! そんなにも私を許せないのですか!?」
「魔力量が1000以上あれば公爵になれる筈です!」
陛下はシプリアン様達を面倒そうに一瞥し、アランブール公爵に顔を向けられました。
「文句が有れば、バンジャマンに言うが良い。余は、アランブール公爵家の仕来りに配慮しただけだ」
「陛下の仰る通り、シプリアン様をアランブール公爵家の跡継ぎとは認められません」
アランブール公爵は、娘可愛さに仕来りを曲げる事無く、陛下の決定に従われました。
「お父様?!」
コランティーヌ様は、父親に裏切られたと思われた様子です。
「私は、魔力量が1000しかなくとも変わらず其方を愛し、大切にして来た。それなのに、何故、私に恥をかかせるのだ」
陛下も、シプリアン様に対して同じように感じておられるでしょうか?
「そ、そんな。私は……」
父親に責められたコランティーヌ様は、助けを求めるように周囲を見回し、私に目を付けました。
「そうよ……。貴女の所為ですわ。ベネディクト様! 私がお父様に嫌われたのは、貴女の所為です!」
何を仰っているのでしょう?
私は、困惑して頬に手を添え首を傾げました。
「何故、私の所為なのでしょう? ……そう言えば、私が貴女にした嫌がらせとは、何なのです?」
「惚けないでください! 王妃様のお茶会に貴女が招待されているのに私が招待されないのは、貴女が妨害しているからでしょう!?」
妨害したと責められた私は、少々考え込んでしまいました。
何をしたら、王妃殿下の招待の妨害を出来るのでしょうか?
「王妃殿下がお茶会に招待されるのは、成人ばかりですよ。貴女は、つい先日まで未成年だったではありませんか。五年前のあのお茶会だけが、特別だったのです」
「え? え?」
コランティーヌ様は驚き、否定を求めるように辺りを見回します。
多くの貴族が、私の言葉を肯定する為に頷きました。
「で、でも、私が皆に、魔力量が1000しかないと嘲笑されるのは、貴女が命じたんでしょう?!」
「それは違う」
お父様が否定してくださいました。
「バンジャマンが、他の公爵家の者達を魔力量が1200に満たないと見下しているから、恨みを買っているのだ。恨むならば、無駄に敵を作ったバンジャマンを恨むが良い」
思い違いを全て否定されたコランティーヌ様は、反省したのか大人しく俯きました。
シプリアン様は不満そうな表情で、コランティーヌ様を支えるようにしています。
これからお世話になるアランブール公爵の心証を考えると、怒りをぶつける事は出来ないようです。
後日。
シプリアン様とコランティーヌ様が、アランブール公爵領の田舎の小さな城に軟禁されたと聞きました。
期限は分かりませんが、愛する配偶者と一緒なのですから、耐えられる事でしょう。
窓を塞がれた訳でも、使用人を入れる事を禁じられた訳でもないそうですし。
国王が代替わりすれば、許されるかもしれませんね。