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私が王族となって、三ヶ月が経ちました。
「お帰りなさいませ。お父様」
「ただいま。ベネディクト」
陛下のお呼び出しを受けて王城に行ってらっしゃったお父様が、帰宅されました。
「話があるので来なさい」
「はい」
場所を移すと、お父様は陛下のお話を教えてくださいました。
「其方の婚約が決まった」
「まあ。何方の方でしょう?」
「兄上の長男のシプリアンだ。其方とは同い年で、先日十歳になったばかりだ」
その後の説明に依りますと、基本的に、子供達の中で最も魔力が高い者が跡継ぎになるそうです。
シプリアン様は跡継ぎにはなれないので、ヴォーボワール公爵家に婿入りするのだそうです。
「シプリアンは、前例に倣い、結婚式まで王家で養育される」
「解りました」
それから一年ほどして、私は初めてシプリアン様にお会いしました。
王妃殿下主催のガーデンパーティーで、シプリアン様の年齢に近い子供とその親が招かれたのです。
「義母上。私の養女のベネディクトです」
「お初にお目にかかります。お会い出来て光栄に存じます」
「私も会いたかったわ。アデライドです。此方は息子のシプリアン。宜しくお願いね」
「フン」
シプリアン様は、不愉快気にそっぽを向かれました。
「シプリアン! 挨拶をなさい!」
「チッ。……シプリアンだ」
「シプリアン!」
王妃殿下がお叱りになっても、シプリアン様は態度を改めませんでした。
「ごめんなさい。オーレリアン。ベネディクト。後で叱っておきます」
パーティーが始まって暫くすると、シプリアン様は男の子達と遊びに行かれました。
私は、近くのテーブルのアランブール公爵一家が気になって見ています。
何時も自信に満ちた態度だった三人が、身の置き所が無いように縮こまっているのです。
「そう言えば、皆様ご存じ?」
私の視線を辿ったように彼等を見た某公爵夫人が、同じテーブルの私達に尋ねました。
「あのアランブール公爵家のコランティーヌ様の魔力量……1000しかなかったのですって!」
「まあ! あのアランブール公爵の?!」
もしかして、アランブール公爵は他の公爵家の方々に、魔力量が1200無いのかと嘲っていらっしゃたのでしょうか?
「魔力量が1000しかない方を追い出さないだなんて、アランブール公爵らしくありませんわね」
「魔力量が1035しかない方を後妻に娶ったのですもの。ご自分の代で、魔力量1200以上の当主連続記録を終わらせるおつもりなのでしょう」
「あら。あれほどご自慢になさってらっしゃったのに」
自慢と言う言葉にある事を思い出した私は、思わず溜息を吐いてしまいました。
「ベネディクト様を傷付けてしまう話題でしたかしら?」
「いいえ」
お話を始められたご婦人が心配そうに尋ねられたのを否定し、私は理由を説明します。
「アランブール公爵は、コランティーヌ様を王族に嫁がせるつもりでいて、コランティーヌ様もそれを楽しみにされていましたから……。魔力量が1000では無理ですわよね?」
それが聞こえたのか、コランティーヌ様が私を睨まれました。
「まあ。魔力量も判らない内から……。気が早い事」
「シプリアンは、ベネディクトの魔力量が妬ましいのだろう」
帰宅すると、お父様はそう仰いました。
「それは、どうしようもありませんね。折り合いを付けてくださると良いのですが」
「そうだな」
ですが、結局シプリアン様の私への感情が好転する事は無く、私達は16歳を迎えました。