不愉快な手紙
私はそれなりに名の通った小説家である。
自分で言うのも可笑しなものだが、ベストセラーも何冊もあり、所謂「流行作家」の一人だ。
毎日いくつもの連載の締め切りに追われ、忙しく過ごしている。
そんな私を癒してくれるのが読者からの手紙だ。
何よりの励みになり、創作意欲を刺激してくれる、ありがたいものだ。
その中に一通辛辣な文面のものがあるのに気づき、目を通した。
初めてお便りいたします。
昨今の貴殿のご活躍、テレビや新聞、雑誌などでお見かけしております。
私には貴方の作品のどこにそれほどの魅力があるのか、全く理解不能です。
文章は稚拙、内容は二番煎じか、実際にあった事件の焼き直し。
読者の皆さんの知能を疑うほど、お粗末なものばかりです。
私なら、もっと面白くてドキドキする話が書けます。
貴方がプロの作家として生活できているのなら、私にもできますよ。
そのくらい貴方の小説は低レベルです。
ある意味同情します。
貴方は実力もないのに祭り上げられてしまった「神輿」ですからね。
非常にお気の毒です。
ではまた。
私は手紙を読み終えて溜息を吐いた。
後ろからその様子を見ていたある出版社の編集者が声をかけた。
「凄い内容ですね」
「ええ」
私は悲しい顔をして編集者を見た。
「あのですね」
編集者は何か言おうとして躊躇しているようだったので、私は、
「何か言いたい事があるのなら率直に言って下さい」
と真顔で言った。すると編集者は私を哀れむように見て、
「そんな手紙を自分に出して楽しいですか、先生?」