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私の個人的な読書ノート  作者: すふぶ
2/2

銃・病原菌・鉄 ジャレド・ダイヤモンド

 本作は、現在においても存在する先進国と後進国の格差がどのようなものを理由に生まれたか、科学的な視点を持って解説したのもである。


 結論から述べると、人の文明の進み度合いを決定づけるものは総じて環境であり、人種の優劣ではない。では、何が原因で各文明はその進歩に差が生まれるのだろうか。本書ではそれは大きく4つにわけて論じられる。

一つ目が「栽培化や家畜化の候補となり得る動植物の分布状況」、二つ目が「技術の伝播や拡散の速度」、三つ目が「異なる大陸間で伝播に影響を与えたもの」、四つ目が「それぞれの大陸の大きさや総人口の違い」である。


・「栽培化や家畜化の候補となり得る動植物の分布状況」

 これは、食糧生産の実践が余剰作物の蓄積を可能にした点が重要となる。余剰作物の蓄積により、非生産者階級(政治家や職人)などを養うゆとりが生まれ、文明が進化する土壌が生まれるのである。また、文明の進歩により効率化された、食糧生産によりさらに余剰作物が生まれ人口と人口密度の高い大規模集団が形成される。これは、そのまま軍事面での有利に直結し、他の狩猟採集民族を呑み込むことを可能にしたのである。

 動物は、この余剰作物の栽培をするにあたって素晴らしい動力源となった。人力のみに頼った農業ではその生産能力はいつか頭打ちに終わるのである。

 栽培化・家畜化可能な動植物も大陸ごとにかなり異なっていた。大陸ごとに環境が違っていたり、候補になり得る大型哺乳類が更新世後期には借りつくされて絶滅していたことが原因である。特にオーストラリア大陸や南北アメリカ大陸は他の大陸と比べて大型哺乳類の絶滅は深刻であった。一方、もっとも大型哺乳類の数が多かったのはユーラシア大陸であった。


・「技術の伝播や拡散の速度」

 これは大陸の伸びる方向が強く影響する。東西に長く伸びるユーラシア大陸が最も早く、南北に延びるアフリカ大陸や南北アメリカ大陸は遅かったのである。東西に延びる場合は、緯度が同じなため気候の違いもそれほどなく、これまで技術をそのまま使うことが可能であった。これまで育てることが可能な植物は新天地においても育てることができた場合が多かったのである。一方南北に延びる大陸では、緯度が異なるため、気候も異なるのである。熱帯で育つ植物は温帯では育たず、温帯で育つ植物は冷帯・寒帯では育たないのである。加えて、アフリカ大陸やアメリカ大陸は砂漠や山脈などの地形も技術の伝播にブレーキをかけたのである。これが政治や言語といった様々なものの伝播を止め、集団が大規模化するための障害となったのである。


・「異なる大陸間で伝播に影響を与えたもの」

 これは特定の大陸に栽培種や技術をもたらした要因である。技術は伝播するため、たとえ一時的に進歩が遅れたとしてもそれが伝わった時点で通常、急速に追いついていくものである。(アメリカ合衆国が現在世界の覇権を握っているのがいい例)しかし、飛行機や船などの現在の技術を使用しない場合、どうしても地理的に孤立する大陸が存在した。

 それがオーストラリア大陸や南北アメリカ大陸である。逆に、ユーラシア大陸とアフリカ大陸の北部は極めて簡単に技術を伝えることが可能であった。事実として、アフリカ大陸で家畜化された動物はほとんどがユーラシア大陸へと持ち込まれているのである。

 オーストラリア大陸はインドネシア海域によって、南北アメリカ大陸は北部のツンドラ地帯とタイへようによって孤立していたのである。


・「それぞれの大陸の大きさや総人口の違い」

 総人口が多いとそれだけ、大きな公共事業が可能であるため人はよてり発展していく事が可能である。また、誰かが何か革新的な技術を思いつく可能性も格段に上昇していくのである。加えて、大陸が大きいとそれぞれの民族集団の数も多くなる。民族集団は得てして保守化し新しい技術を受け入れることを拒むことがあるが、他の民族が存在しお互いに生存をかけて競争している状況においては、新技術を受け入れるいやおうなしに出来上がるのである。さもなければ、その民族は絶滅か衰退する。

 この観点からとらえた時、もっとも面積が多きかったのがユーラシア大陸であり、集団の数が最も大きかったのもユーラシア大陸であった。一方、アフリカ大陸やオーストラリア大陸は小さかったのである。アメリカ大陸は面積は十分に大きかったものの、険しい地形が影響して実質的に分断されており、競争する集団の数が小さくなってしまったのである。

 競争する集団の数は、同じユーラシア大陸で中国とヨーロッパでなぜ差がついたかを説明することができる。ヨーロッパでは複数の国が群雄割拠しており、常に技術を競いあっていた。一方中国では、一つの巨大帝国の支配が長らく続いたのである。これが影響し、ヨーロッパは常に技術革新を取り入れる地域となったのに対し、中国は保守的で手にした技術を放棄する地域にさえなってしまったのである。


 以上4つの大きな原因から、タイトルにもなっている銃・病原菌・鉄に加えて、政治や言語、農業や畜産など様々な発展が説明できるのである。しかし、どの要因も結局は4つの原因に回帰するのである。そして。4つの原因は全て、大陸の形の違いを説明しているという点に注目である。


 つまり、現在の様々な違いの原因はすべて元をたどれば、「この地球上の大陸がこの大きさ、この形、この配置で存在したからである」と結論づけることが可能なのである。

 

観想

 本書は、ただすべて環境によって決まり人の活動など意味はないと言っているものではない。どの時代にも人間は一生懸命に生きていることに違いはないのだ。農業を始めるために必要な環境は人間にはどうすることもできないが、農業をしようと志す最初の一歩は人間にしか踏み出せないのである。そして、本書はその一歩を決めて尊敬していることが伝わってくる。

 また、いわゆる人種間の優劣を文明の差に求める流れにも強力な否を突き付けている。どの人種であっても、優劣はなくその環境がただ恵まれていただけだと主張するのである。アフリカ人の先祖の居住地がユーラシア大陸であったならば、現在覇権を握っているのは黒人であったと主張しているのである。

 この本から学ぶことは多い、「環境という絶対的な背景の中で優劣を競う人間の愚かさ」、「どんな社会でも件名に順応し発展する人間の尊さ」の両方が学べるのである。

 また、近年大学などで盛んに叫ばれる学際的研究というものの理想形であるともいえる。そういった身からもこの本間違いなく名著であった。



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