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98話 長距離魔法

「私にダークネスパワーまで使わせて! 貴方はただでは殺さないわ! 死ぬより苦しい思いをさせてあげる」


 ドゥーラは口を開けるとその口から炎のブレスが吐き出された。

 レイは光の剣でブレスを切り裂いた。


「無駄だ。ブレスを吐こうが俺の剣に切れないものはない」


「だったらこういうのはどうかしら?」


 ドゥーラは右手を振り上げると、手のひらをメルン達のいる方向へと向けた。既に退却を開始している筈なので正確な距離は分からないが、少なくとも5キロ以上は確実に離れている筈だ。


「ここから貴方のお仲間のいる場所まで、長距離の魔法を打ち込んであげるわ。さて、貴方はどうするかしら?」


 ドゥーラの右手に魔力が集中していく。5キロ以上も離れた場所に打ち込める魔法があるとすれば、相当な脅威になるだろう。


「好きにすれば良い。俺が受けた依頼はお前の捕縛。もしくは殺害だ。クロイツの兵士が何人死んだところで俺には関係がない」


「あら。冷たいのね? じゃあお望み通りに私の取って置きを見せてあげるわ!」

『ダークノヴァ!』


〖ダークノヴァ〗闇属性上級魔法。闇のマナの力をエネルギーに変換して、長距離まで闇のエネルギー砲を放つ。距離だけではなく攻撃範囲もそれなりに広く、ダークノヴァにまともに触れた者は消滅してしまう。


 ドゥーラから放たれた大きな闇のエネルギーは、砦に触れると触れた場所全てを消滅させつつ、メルン達の方角へ飛んで行った。 


「ぐっ、くううっ・・・」


 ダークノヴァが放たれた方向はメルン達のいる方角とは少しズレていたようだ。メルン達を捉えた感覚はなかった。その原因を作り出したのはレイだった。


「好きにすれば良いとか言っておいて・・・酷いじゃない・・・」


 魔法を放つと同時にレイの剣がドゥーラの右腕を切り裂いていた。


「悪いな・・・あまりにも隙だらけだったのでな」


 レイがメルン達を助ける為にドゥーラの右腕を切ったのか、ドゥーラの隙をつき右腕を切ったのかは分からない。もしくは両方なのかも知れない。だが、ドゥーラが右腕に傷を負った今が好機なのは間違えなかった。


 好機を逃さず透かさず連撃を繰り出した。


 ウィンドバリアで光の剣を防げないと分かっているドゥーラは、レイの剣をひたすら避けることに努めるが、魔法以外の能力が別段飛び抜けている訳でもなく、何撃か攻撃を食らうことになった。


「ぐっ! ううっ!」


「魔法師がこんなに接近されている様ではな」


 レイは攻撃の手を休めることなく、ひたすら切りつけていく。ドゥーラの身体には次々と傷が付けられ、血が流れていく。


「これで終わりだ」


 剣がドゥーラの頭部を捉えた。


「ギャァァァァ!!」


 ドゥーラはその場に倒れて動かなくなった。


 同時に砦の外から大勢の声が聞こえてくる。


「さっきの魔法はこの砦から放たれたようだったが、一体誰が?」


「砦が一部分なくなっちまってるじゃないか!? 何が起きたらこんな事になるんだ?」


 どうやら、メルン達が引き付けていた兵士達が砦に戻ってきたようだ。先程のレイの一撃はメルン達だけではなく、リデウスの兵士達を救う一撃にもなっていた。


「誰かがいるぞ?」


「あそこに倒れているのはドゥーラ様じゃないか!?」


 兵士達はレイとドゥーラに気付き、倒れているドゥーラの身体を起こした。


「ドゥーラ様? ドゥーラ・・・うわぁぁぁ!」


 兵士はドゥーラの姿をマジマジと見て腰を抜かしている。髪や肌の色はドゥーラそのものだが、背中からは翼が生え、明らかに姿が人間のそれではなかった。


「ま、魔族だ! ドゥーラ様は魔族だったんだ!」


 兵士の一言は全体へと影響を及ぼした。

 皆、それぞれが動揺して、現状何をすれば良いのか分からない状況になっている。


 その時、突如倒れていたドゥーラの目が開いた。


「頂きまーす!」


 大きく口を開くと、口が裂け、兵士の身体を丸呑みしていく。

 兵士は足をばたつかせながら抵抗をしているが、身体の全てがドゥーラの身体の中へと吸い込まれていった。


 更にドゥーラは周りの兵士を次々と丸呑みしていった。

 兵士達を身体に取り込む度にドゥーラの傷が消えていく。


 兵士達の反応は恐怖に脅え、その場から動けなくなる者や、逃げ回る者など様々だ。


「うーん。もうお腹一杯! 後の人間は邪魔だからいらないわ」

『デスウィンド!』


「あっ・・あがっ・・・」

「ぐっ・・ぐあっ・・・」


 死の風を受けた兵士達は全員その場に崩れ落ちた。


 再び、砦の中で生きている者はレイとドゥーラの2人のみとなった。


「お前は魔族と言うよりはまるでモンスターだな・・・」


「レディに向かってモンスターとは失礼ね! さぁ、それでは戦いを再開しましょうか?」


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