80話 時空魔法
〖レッドドラゴン〗ギルド指定ランクA 全身真っ赤な身体をしていて、口からは炎のブレスを吐く。身体が熱を帯びているので、下手な武器で攻撃をすると武器の方が溶けてしまう。
「シャァァァ!」
レッドドラゴンは口を開けるとその口から炎のブレスを吐き出した。
炎のブレスは真っ直ぐにサリアの方へと向かっていった。
「キャァァァ!」
レイはサリアを抱えて横へ飛んだ。
ブレスは2人の横を通り、そのまま迷宮の壁に直撃をした。ブレスが直撃した壁は深い穴が開き、プスプスと音を立てている。
「あんなのが当たったら私、死んじゃってました! レイさん。ありがとうございます」
「お前に死なれると困るからな」
「は、はい」
サリアは少し顔を赤くした。
「お前が死んだら帰りが困るからな」
「ですよねぇー!」
レイに抱えられていたサリアは身体を起こし、床に立った。表情は少し怒っているようだ。サリアは杖の先端をレッドドラゴンに向けた。
「水のマナよ。氷の刃となりて敵を貫け!」
『アイスニードル!』
サリアの放った氷の針は真っ直ぐにレッドドラゴンの顔目がけて飛んで行った。
氷の針はレッドドラゴンに近付くと、触れることなく蒸発してしまった。
「そ、そんな・・・だったら! 水のマナよ。氷の結晶となり吹雪を巻き起こせ!」
『ブリザード!』
〖ブリザード〗氷の結晶を大量に作り出し相手に吹雪を吹かせる。水属性中級魔法。
猛吹雪がレッドドラゴンを襲う。
しかし吹雪はレッドドラゴンに触れることなく、全て蒸発して消えてしまった。
「そ、そんな・・・弱点属性でもここまで効かないなんて・・・」
サリアはレッドドラゴンとの圧倒的なまでの実力差に絶望を感じている。
「サリア! お前は脱出の時の為にMPを温存しておくんだ! ドラゴンの攻撃範囲に入らないように通路の中に退避しておけ!」
「はっ、はい!」
サリアはレイに言われた通り、来た通路に逃げ込んだ。
「はぁっ!」
ザナックの剣がドラゴンの首を捉えた。しかしドラゴンの皮膚は硬く、剣は弾き返された。
「くっ、硬いな・・・!?剣が!?」
ドラゴンを切りつけたザナックの剣は、ドラゴンの熱により刃が少し溶けてしまっていた。
「安物の剣ではなかったのですがね・・・厄介な相手です」
「シャァァァ!」
ドラゴンは大きく口を開けるとザナックに炎のブレスを吐いた。
「くっ!」
ザナックは辛うじて横に飛び、ドラゴンのブレスを回避した。
「はぁ、はぁ、あんなのを食らったら骨も残らず燃え尽きそうですね・・・」
「ザナック。ここは俺に任せろ。コイツを殺る為に俺はここに来た」
レイは剣をドラゴンの方へ向け、ザナックの前に立った。
「申し訳ありません・・・お任せします・・・」
「ああ。任せろ」
レイは一気にドラゴンの方へ向かい走ると懐に入った。
ドラゴンは大きく口を開けるとレイにブレスを吐いた。
「シャァァァ!」
超至近距離でのブレスだったが、レイはワンステップ入れるだけでブレスを完全に回避した。
「キシャァァァ!」
ブレスを避けられたドラゴンが大きな右腕を振り上げると、その爪をレイに向けて振り下ろした。
キィィィン!
レイはドラゴンの爪を剣で受け止めた。かなりの力を持つドラゴンの攻撃を受け止めることなど、レイの身体では無理な筈なので、上手くドラゴンの力を受け流しているのだろう。
「はぁっ!」
ドラゴンの攻撃を受け止めていた剣を外すと同時に身体を回転させ、遠心力を乗せた一撃でドラゴンの腕に切りつけた。
「ギシャァァァ!」
レイの剣がドラゴンの右腕を切断し、右腕はドスンという音を立て床に落下した。
切られた部分からは血が噴き出し、血が触れた場所は熱で少しづつ溶け始めている。
「これで終わりだ。はぁっ!」
レイは大きく剣を振りかぶりドラゴンの右横腹に切りつけた。
「ギシャァァァ!」
剣は一気にドラゴンの内部に進入をすると左横腹から姿を現した。
胴体を切断されたドラゴンの上半身は大きな音を立てて床に落下した。
ドラゴンの下半身の切断面に赤く光る石が埋まっていることにレイが気付いた。
「これは・・・魔石か?」
レイはドラゴンの下半身に腕を入れ、埋まっている石を取り出した。
レイが石を取り出した瞬間に右腕を失い、上半身が離れていたレッドドラゴンの死体がミニドラゴンへと変化した。離れている右腕と上半身もミニドラゴンのそれへと変化した。
「この魔石がミニドラゴンをレッドドラゴンに変化させていたということか・・・」
「誰かが意図的にミニドラゴンに魔石を与えたのでしょうか?」
少し離れた所から戦いを見守っていたザナックが、レイの元へとやってきた。
通路から戦いを見守っていたサリアも戦いが終わるとレイの元へ走って来た。
「魔石にこんな力があるなんて・・・そもそも魔石ってなんなんですかね?」
「分からん。元々は魔大陸に存在する石らしいが、セレドニアでも普通に見掛ける機会はあるからな」
レイはミニドラゴンの死体と魔石をホール袋で回収した。
「ではサリア。迷宮の調査も終わったことだし、迷宮を脱出する為の時空魔法を頼んでも良いか?」
「分かりました。それではザナック様。レイさん。私の身体に触れて下さい」
2人はサリアに言われた通り、それぞれサリアの両肩に手を置いた。
「空間のマナよ。空間をねじ曲げ我に外の景色を見せよ!」
『デルタード!』
〖デルタード〗洞窟や迷宮などで、今自分が井る場所と入り口の空間を無理矢理繋げて、一瞬で入り口まで移動する中級時空魔法。時空魔法は時に干渉する魔法と空間に干渉する魔法に分かれるが、デルタードは空間に干渉する魔法にあたる。
3人の身体が歪んだかと思えば、3人の姿は迷宮から消えていた。気付くと3人は迷宮の入り口に立っていた。空には太陽が昇っている。3人が迷宮に入ってから70時間の時が流れていた。
「時空魔法と言うのは凄いものだな。俺は時間がないので、単独でレガイアに向かわせてもらっても構わないか?」
「ええ。調査の方は終わりましたので構いませんよ」
ザナックが笑顔でそう答えた。
「ごめんなさい・・・レガイアなら私の時空魔法で直ぐに送ってあげれるのですが、MPが足りないみたいです・・・」
サリアは申し訳なさそうにレイに謝った。
「気にするな。全速力で走れば余裕で間に合う筈だ。ザナック。モンスターの素材は後から国会議事堂まで持って行けば良いか?」
「はい。それで大丈夫です」
「じゃあ俺は行く。またな」
『疾風』
レイは2人に背を向けるとレガイアに向けて走り出した。
「ソードブレイブ頑張って下さいねー!」
サリアは走り去るレイに向け、姿が見えなくなるまで手を振っていた。