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46話 御免こうむる

「そうですね、私も父上を早く安心させてあげたいと思います」


「メルン様。お帰りになる前に朝のお食事だけでもしていって下さい」


 ハーランドにそう言われると、メルンはあることを思い出した。


「しまった! 昨日からずっと御者を馬車に待たせたままだった! ハーランド侯爵。城の外に馬車が止まっていますので、その中にいる男に何か食べ物を届けて頂くことは出来ますか?」


「わかりました。そう手配しましょう。誰かいるか!?」


 ハーランドがそう言うと、部屋の外で待機をしていた使用人が部屋の中へと入って来た。


「何か御用でしょうか? ハーランド様」


「この部屋に朝食と、外に止まっている馬車の中にいる男に食事を届けてくれ」


「かしこまりました。直ぐに手配致します。」


 そう言うと使用人は部屋から出て行った。


「では私達は朝食を食べてから、ここを発つとしますか」


 大広間には朝食を取るべくハーランド、マリッサ、メルン、ディアス、セリーヌ、レイの6人が集まっている。

 

 少し遅れてクルトもやって来た。クルトはまだ寝起きなのか、髪はボサボサで服も寝間着のまま眠たそうにあくびをしている。名門貴族の子息だというのに世話をする侍従はいないのだろうか。


 クルトが部屋に入ってから少し経つと、侍従らしき男が息を切らしながら部屋の中に入って来た。


「はぁ、はぁ、いけませんクルト様! まだ身仕度が終わってないのにお部屋をお出になられるなんて!」


「いやだ! いやだ! 僕もレイやお姉様と一緒に食事をするんだー!」


「そんなわがままを言うものではありません」


 クルトは追い掛けて来る侍従から部屋中を逃げ回っている。


「クルト!」


 ハーランドがクルトの名前を大きく叫んだ。


「はいっ! お父様!」


 逃げ回っていたクルトだったが、ハーランドに名前を呼ばれ、ピタリと足を止めた。


「メルン様もおられるのだ。みっともない姿を見せるな! それに朝食までにはまだ少し時間がある。マリッサやレイ達と食事がしたいのであれば、急いで部屋に向かい、ちゃんと着替えてから来なさい」


 そう言ったハーランドの顔は最後には笑顔になっていた。


「はい! わかりました。おい。急いで部屋へ戻るそ!」


「あ、お待ち下さい。クルト様!」


 クルトはそう言うと自分の部屋へと走って行った。侍従はオロオロしながら、走っていくクルトの後ろを追い掛けて行った。


「メルン様。お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」


 そう言うとハーランドはメルンに頭を下げた。


「いえ。気にしないで下さい。それにしてもあのクルトが気に入るなんて、レイさんはクルトと何かあったんですか?」


「いえ。何も・・・強いて言えば私が何度か叩かれたくらいです」


「プッ、なんですかそれはー」


 メルンはレイの話を聞き笑った。昨日マリッサの話があってから、あまり笑顔を見せていなかったメルンには久し振りの笑顔だろう。


 暫くするとテーブルに料理が運ばれて来た。朝食なので昨日とは系統の違う料理が多いが、やはりどれもが高級そうなものばかりだ。


「セーフ!!! はぁ、はぁ、はぁ」


 クルトが部屋の中へ走り込んで来た。余程急いで来たのか、かなり息を切らしている。服装は貴族の正装をしていて髪の方も整えられたようだが、ここに来るまでに走って来たせいで崩れてしまっていた。


「クルト。丁度今から朝食を始めるところだ。お前もどこか好きなところへ座りなさい」


 部屋の机を挟み左側にはハーランドとマリッサが並んで座っていて、右側にメルン、ディアス、セリーヌが並んで座っており、その少し手前の椅子にレイが座っていた。


 クルトは真っ直ぐに右側の椅子へ向かいレイの隣に腰を掛けた。


「それでは食事を始めるとしようか?」


 ハーランドがそう言うと各自はおもむろに食事を食べ始めた。

 

「なぁー、レイー」


 他の人間がおもむろに食事を取る中、クルトだけがひたすらレイに話し掛けている。レイはクルトの話には殆ど答えず黙々と料理を口へ運んでいた。


 30分と少しの時間が経過すると皆料理の方を食べ終わっていた。

 全員が食べ終わったのを確認するとメルンは席を立った。


「それでは私達は出発しようか? ハーランド侯爵。色々とお世話になりました」


「こちらこそ。メルン様達に来て頂けなければ、クルトは今ここにいなかったことでしょう」


 ハーランドはメルンに深く頭を下げた。

 

「マリッサまた会おう!」


「メルン様・・・王都までメルン様のご無事をお祈りしています」


 メルンがハーランドとマリッサに分かれの挨拶を済ませ、部屋から出ようとしたが、レイだけがメルンについて来ていなかった。


「レイさん? どうしたんですか?」


「申し訳ありません。少しハーランド侯爵とお話ししたいことがあるので、先に向かって頂いてもよろしいですか?」


「わかりました」


 そう言うとメルン、ディアス、セリーヌの3人は部屋の外へと出て行った。


「私に話したいこととはなんだ?」


「実は・・・・・」


「なんと!?」


 レイがハーランド侯爵に何かを伝えると侯爵はかなりの驚きを見せた。


「わかった。お主の忠告無駄にせぬようにしよう」


「俺の杞憂に終われば、それで良いのだが・・・一応気には止めておいてくれ。では俺はメルン王子のところへと行くことにするよ」


 レイがメルン達のところへ行こうと、部屋の扉へ向かうとクルトが走って来た。


「レイ! また必ず来いよ! 僕を抱いて走るって約束を忘れるなよ!」


 クルトはレイとの別れが悲しいのか、うっすらと涙を浮かべている。


「お前なら僕のお兄様にしてやっても良いぞ!?」


「お前のような弟は御免こうむる」


 レイは少しだけ笑顔でそう言うとクルトから離れ扉へ向かった。扉の前にはマリッサが立っていた。


「レイ。また会えるだろうな?」


「わからん。仮に会ったとしても、その時はお互いに敵同士かも知れないしな」


「その時は私が必ずお前を止める! だから私はその為にも強くなると決めた!」


「そうか」


「ああ、そうだ。次こそは必ずお前から1本取れるようになっておくぞ」


「楽しみにしておくよ」


 レイはそう言って、軽く手を振りながら部屋を出て行った。


「マリッサよ。お前が好きになった男と言うのはレイのことだな?」


「な、なぜ、それを!?」


 マリッサはかなり動揺している。


「お前を見ていれば誰でも気付く。むろんメルン様もな・・・」


「・・・・・」


「後悔はないのだな?」


「はい! お父様! 私は自分の気持ちに正直に生きようと決めました」


「だったら私はもう何も言うまい。お前の生きたいように生きなさい」


「はい! お父様! ありがとうございます」


 父の理解を得られたマリッサは嬉しそうに微笑んでいた。一方その頃、メルンの元へ向かったレイは城の外でメルンと合流を果たしていた。


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