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4話 代償

 レイがマリアに、聞いておかなくてはいけない話があると発言した後、特に会話もないまま、3人は部屋へと戻って行った。


「私に聞いておきたい話とは、一体何の話でしょうか?」


「ホーリーライフを使えるということだったが、実際にホーリーライフを使ったことはあるのか?」


「いえ。実際に使ったことはありません」


「では、代償のことは知っているか?」


「・・・はい・・・」


 マリアは俯きながら返答をした。


「代償? ホーリーライフを使うのに何か代償が必要なんですか?」


 アルスがキョトンとした顔でそう言った。ホーリーライフという魔法自体はアルスも知っているようだが、その詳しい内容までは知らないようだ。


「ホーリーライフは特殊な魔法で、発動するのにマナの力以外に発動者の生命力も必要とする。強力な呪術などを打ち消そうとすれば、それなりの生命力を消費するし、場合によっては命の危険もある魔法だ」


「そんな! それじゃあホーリーライフを使ったら、マリアちゃんの命に危険があるってことですか!?」


「そういうことになるな」


「だったら使うことないよ! 人を助ける為に自分が死んでたら意味ないし止めときなよ!」


 アルスはマリアの肩を抱き、真剣な表情をしている。


「良いんです。もし私に何かあったとしてもそれで救える人がいるなら、私はホーリーライフを使いたいと思っています。父もそういう人でしたから。幼い頃から私も父のようになりたいと思っていました。ホーリーライフはその父から教わったものです」


 そう答えたマリアの顔には笑顔が浮かんでいた。


「父の名はサイラスという名じゃないか?」


「!? 何故レイさんが父の名前を?」


「やはりか・・・ホーリーライフを使える人間なんて、クロイツではサイラスくらいしかいなかった筈だ。奴がいなくなった今となっては、もう誰も使える者がいない筈だからな。マリアがサイラスの娘だとしたら、ホーリーライフを使えるのも頷ける」


「いなくなった?」


 アルスはレイの発言が気になったようだ。


「父は3年前に亡くなりました。ホーリーライフによって、全生命力を使い切ったと聞かされました・・・」


 先程は笑顔を見せていたマリアだったが、父の話になり表情は曇りだしている。


「ああ。アイツはホーリーライフで全生命力を使い切った後、満足そうな笑顔で逝ったよ」


「父の最後を知っているんですか!?」


「あれは3年前にクルイという村がカースドラゴンに襲われて、俺が討伐依頼を受けた時だった」


〖カースドラゴン〗竜属の中では比較的弱い部類には入るが、カースドラゴンの吐く呪いのブレスを受けると、抵抗力の低い人間は呪われ数日後には命を落としてしまう。


「ホーリーライフを使えるってことで、サイラスをお供につけられたんだが、俺達が村に着いた時にはかなりの人間がブレスを受けて呪われてしまった後だった。サイラスは村人全員を救うと言い出し、ホーリーライフを使って本当に村人全員を助けたんだ。その代わりに奴自身は命を落とすことになったがな・・・自分は死んだっていうのに満足そうな死に顔で、今も忘れられん・・・」


「そうだったんですね・・・」


「お前が使うと言うのなら俺は止めんが、サイラスのところに逝くにはお前はまだ若すぎるぞ?」


「はい大丈夫です。 今、父に会いに行っても追い返されそうですしね!」


 再びマリアの顔には笑顔が戻っていた。


「よし、話は終わった。お前は少しでも体力を回復させる為にもう寝るといい」


「お前は? ってことはレイさんは寝ないんですか?」


 マリアはキョトンとした顔をしながらレイに聞き返した。


「ああ。俺は少し手に入れたい物があるので出てくる。アルス! マリアを任せたぞ」


「任せて下さい!」


「手に入れたい物って一体・・・?」


「まぁ、その内にわかる。とにかくお前は少しでも早く寝て身体を休めておくんだ」


「わかりました・・・」


 マリアはレイが手に入れたい物というのが、何なのか気になっていたようだが、レイに早く寝るように促されて従うことにしたようだ。

 実際マリア自身も正直、体力の限界が来ていたのでその話に従うことに異存はなかった。


「では少し出て来る」


 そう言うとレイは部屋の扉から1人出て行った。


「じゃあマリアちゃんはもう寝ると良いよ。俺はレイさんが帰って来るまでは起きてるからさ」


「わかりました。お先に失礼します」


 マリアはベッドに入ると今日起きた出来事を色々振り返っていた。

 おそらく、自分の持つホーリーライフのせいで村が襲われたこと。

 村人全員が殺されて今後、自分はどうすれば良いのか。

 父の最期を看取ったというレイの存在。


 色々なことが頭の中を駆け巡っているが、疲れのせいもあり気が付くと、いつの間にか眠り中へと落ちていた。

 

 1時間くらいが経過しただろうか。レイが帰って来てアルスと話してるのが、眠りの中で微かに聞こえてくる。


「あー、マリアちゃんの為にそれを買って来てたんですね。レイさん優しいなぁー、マリアちゃんに惚れましたか? 確かにマリアちゃん可愛いもんなぁー!」


「バカなことを言ってないでお前も早く寝ろ!」


「はーい」


 アルスはベッドに入った。

 レイは入り口の扉に背中をつけながら座り込むと、そのまま目を閉じた。

 レイはここ数年ベッドに入り眠ることはなかった。眠っていても熟睡をすることはなく、殺気を感じれば即座に戦える状態を常に保っている。


 普通の人間なら、それで睡眠欲が満たされることはないだろうが、レイに取ってはこれが当たり前のことになっており、今となってはこの方法でも満足な睡眠を得ることが出来るようになっていた。


 そして数時間が経過し朝を迎える。


「う、うーん」


「起きたか?」


「あっ、レイさん。おはようございます」


 マリアは寝起きの目をこすりながら挨拶をした。


「マリアちゃん。おはよう! マリアちゃんの寝顔可愛かったよー」


「アルスさん。おはようございます。恥ずかしいから寝顔とか見ないで下さい」


 マリアは照れくさそうにしている。


「朝の食事を取ったら王都へと向かうぞ」


「はい」


 3人は朝食を取るべく部屋を出て、下の階へと向かった。

 受付には昨日レイ達の対応をしてくれた女性が立っていた。


「おはよう。朝の食事ならもう食べられるからね」


 3人は軽く女性に挨拶をすると食堂へと入って行った。


 昨日とは違い客は、カウンターに男女のカップルが1組座っているだけだった。

 酒場も兼用しているとのことなので、昨日の客は酒が目当てだった客が多く、今朝はまだ早い時間ということもあり、これが当たり前の光景なのかも知れない。


 3人がテーブルへ腰を掛けると、厨房の方から昨夜対応をしてくれた女の子が出て来た。


「おはようございます。朝食の方直ぐにお作りしますねー」


「ああ。頼むよ」


 女の子は厨房の方へと戻って行った。


「昨日の飯メッチャ美味しかったし、楽しみだなぁー」


 アルスは嬉しそうな顔をしながら朝食を楽しみにしている。

 

暫くすると厨房の奥から女の子が昨日と同じく、両手におぼんを1枚づつ持って出て来た。

 おぼんには、3人分のナイフ、フォーク、スプーン、パン、サラダ、スープ、目玉焼き、水が入ったコップが乗っている。


「お待たせしましたー」


 女の子は3人のテーブルに料理を置くと、厨房の方へと戻って行った。


「頂きまーす!」


 真っ先にアルスが料理に飛びついた。


「やっぱり美味しいなぁー! これからはこの辺りに来ることがあったら、この宿に泊まるって決めた!」


 アルスは満足そうな顔をしながら食事を進めた。


 昨日とは違い朝食なのでガッツリとした料理はなかったが、それでも食べる者を充分に満足させられる味だった。


 30分程の時間で、3人は全ての料理を完食した。


「ご馳走様です。美味しかったですね」


「そうだな」


 レイもマリアもアルス程ではないが、この宿の食事を気に入ったようだ。


「それでこの先はどうしますか?」

 

「状況は悪い方向に想定をして考えておいた方が良い。マリアを狙う奴らが、待ち伏せをしていると考えて動くことにしよう」


「わかりました。それで待ち伏せに対しての対応はどうしますか?」


「人数次第だな。マリアを守り切るのに不安な人数だった場合は俺が相手をするから、その間にアルスはマリアを王都まで連れて行ってくれ」


「了解です。そうなったらマリアちゃんは、俺が必ず守ってみせますよ!」


「そんな! それじゃあレイさんはどうなるんですか!?」


「大丈夫だよ、マリアちゃん。レイさんはマリアちゃんが思ってるよりも遥に強いんだ。俺がレイさんに出会ってから、レイさんが傷とか負ってるの一度も見たことないし・・・」


「で、でも・・・」


「その代わりレイさん。過小戦力だった時はマリアちゃんはレイさんが守って、敵は俺に任せてくれますよね?」


「ああ。その時は頼む」


 マリアは不安そうな顔をしながら2人の会話を聞いていた。それもそうだろう、レイが大陸最強の剣士と言われていることや、アルスがそれに並ぶ剣士と言われていることなど、マリアには知るよしもないのだから。

 マリアにとってレイは、ただの強い傭兵といったくらいの認識だろう。


「そろそろ出発をするか」


 3人は食堂を出て受付へと向かった。


「世話になったな」


 受付の女性に感謝を伝えた。


「もう行くのかい? 気を付けてね。またこの街に来ることがあれば月熊亭を宜しく」


「また必ず来ます! その時はこの店のソールを全部飲み干しますよ!」


 アルスが元気良く女性に伝えた。アルスの酒量が分からないが、流石に店にあるソールを全て飲み干すということは無理があるだろう。


「そりゃあ嬉しいねー、楽しみに待ってるよ」


 3人は女性に別れを告げて、街の入り口までやってきた。

 入り口にはレイ達に月熊亭を紹介した兵士達が立っていた。


「おー、昨日の3人じゃないか? 結局宿は月熊亭にしたのかい?」


「ああ、良い宿だった。感謝する」


「それは良かった。王都まで行くんだったな、この辺りにはジャンボラビットくらいのモンスターしか出現しないが、一応気を付けてな」


 3人は兵士たちにも分かれを告げて街の外へと出た。


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