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3話 ジャンボラビットのステーキとソールと

 街の中へ入ると街は人で賑わっていた。


 現在の時刻は19時を少し回った頃だ。傭兵のような身なりをした者、狩りから帰って来たであろう者、今から食事にでも行くんだろうと思える夫婦と娘の家族、腰を曲げながら歩いている老婆など、パッと見ただけでも30人程の人間が見える。


 そこには屋台の出店のような露店も何店舗かあり、看板にはジャンボラビット料理の文字が多く、この街がジャンボラビットを名物としているのが伺える。


「腹も減ったしここで飯にしていきませんか?」


「待て。まずは宿を取ってからだ。もう少し我慢していろ」


「わかりましたー」


 街の入り口から少し進んだ所に、露店などが並ぶ大きく開けた場所があり、そこから東、北、西と三カ所に通りが分かれている。レイは東の通りから順番に見渡すと、西の通りを50メートル程行った場所に、大きな熊の看板が掛かっている建物を見付けた。


「あったぞ。多分あそこだと思う」


 レイは西の通りの先にある熊の看板が掛かった家を指差した。


「じゃあ向かうとしますか。マリアちゃん。もう着くからねー」


「あっ、はい」


 3人は西の通りへ入り建物へと向かった。

 建物へ着くと建物の看板には月熊亭と書かれていた。

 どうやら兵士達の言っていた宿屋はここで間違いないようだ。


 それ程大きな建物という訳ではないが、10部屋くらいはありそうだ。


 建物は昔に建てられたようで、かなり古い建物の筈だが掃除などが行き届いているのだろう。清潔感があり建物の古さを感じることはなかった。

 中からは食べ物の良い匂いが、外まで流れ出ていて食欲をそそられる。


 中へ入ると直ぐ目の前に受け付けがあり、受け付けには歳は40代前半くらいだろうか。身長は160㎝前後で、黒髪のショートカット、少し肉付きが良く、力がありそうな体付きの女性が立っていた。


「いらっしゃい!」


 女性はニッコリとした笑顔で3人に声を掛けた。


「泊まりかい? それとも食事かい?」


「ああ。1泊したいので3人部屋を1部屋頼みたい」


 レイがそう言うと、マリアが驚いた顔をしながら言った。


「3人一緒の部屋ですか・・・一応私、女なんですが・・・」


「当たり前だろ? 俺たちは護衛だぞ? お前を一人にして何かあったらどうするんだ?」


「わかりました・・・・」


 マリアは渋々納得したようだ。


「それで泊まりだけだと1人6コルド、夕食付きなら7コルド、夕食に明日の朝の食事も付けると7コルドと500コルになるけど、どうするかい?」


 この世界のお金の単位はコルとコルド。1コル=1円 1コルド=1万円 全て貨幣で最大10000コルド(1億円)貨幣まで存在する。


「明日の朝の食事も頼む。3人で21コルドと1500コルだな?」


 そう言うとレイは腰に付けてある袋を手に取った。


『ホールアウト』


 レイがそう唱えると10コルド貨幣2枚、1コルド貨幣1枚、1000コル貨幣1枚、100コル貨幣5枚が袋から出て来た。


「驚いた! あんたホール袋持ちなのかい!? 見たところ傭兵さんのように見えるけど、実はどこか貴族の偉いさんか何かなのかい?」


 〖ホール袋〗特殊な作りをしているこの袋は、袋内に異空間を存在させ、どれだけでも物を収納することが出来る。

 金だけに関わらず生物などを収納することも可能で、袋内では時間という概念が存在しないため、どれだけ時間が経過しようと、入れた時の状態を保つことが出来る。


 ホール袋に収納する時は袋の口を開けて、入れたい対象物に向けて、ホールインと唱えることで収納することが出来る。逆に収納してある物を取り出したい時は、取り出したい物を頭に思い浮かべて、ホールアウトと唱えると取り出すことが出来る。


 この原理は未だに解明されておらず、ホール袋を作れる人物も世界に1人しかいないと言われている。

 その利便性と貴重さからホール袋の価値はとてつもなく高騰し、今では10万コルド(10億円)出しても買えないとまで言われている。


「いや。俺は見た目通りのただの傭兵だよ。この袋は昔に知り合いから貰った物なんだ」


「へぇー、ホール袋をくれるなんて気前の良い人も居るもんだねぇー。部屋はこの後ろの階段から2階に上がって、一番奥にある205号室だよ」


 女性は受付の後ろにある階段を指差しながら言った。


「食事はそこを真っ直ぐ行ったところに、食堂があるからそこで食べとくれ。酒場も兼用してるから夜中の2時まで営業してて、何時行っても食べれるようになってるから」


 今度は受付の右を指差しながら言った。どうやら指を差した先に食堂があるらしい。


「ああ、わかった。明日ここを発つまで世話になる。取り敢えず先ずは部屋に行ってみるよ」


「レイさん・・・すみません・・・私、お金を全く持ってなくて・・・」


 マリアは申し訳なさそうにしている。


「気にするな。ここでの宿泊費も依頼料の一部に含まれているようなものだ」


「ありがとうございます」


 マリアはニッコリ微笑みながらそう言った。


「レイさん。俺は自分の分は出しますよ」


「いや、お前も今回はいい。おそらく明日はバンバン働いてもらうことになるからな」


「了解しました。任せといて下さい!」


 会話をしながら3人は階段から2階へと上がった。2階に上がり、奥へと進むと突き当たりの部屋に205と書かれているのを確認することが出来た。


「ここのようだな」


 レイが扉を開けて3人が中へ入ると、そこには部屋の両サイドにベッドが2つづつ、ベッドとベッドの間には物を入れられる棚が2つ置いてあり、部屋の中央には大きめな机が1つと椅子が4脚置いてあった。本来この部屋は4人部屋のようだ。


「一休みしたら飯にするか?」


「良いですねー。ジャンボラビット料理が出てくると良いなぁー。美味い料理と美味い酒! 自分が生きてるって実感する瞬間です!」


「一応護衛任務中だぞ? 酒を飲むなら一杯までにしとけよ。流石にこの街にマリアを狙っている奴が、兵を派遣してくることはないとは思うが、それ以外のトラブルに巻き込まれる可能性だってあるんだからな」


「わかってますって!」


 そんな会話をしている内に30分程経過し、3人はお腹も空いたことだし、食堂に行こうという話になった。

 女性に教えられた場所に行くと、10人掛けのカウンター、4人掛けのテーブルが4つ、6人掛けのテーブルが2つある大きな食堂があった。


 食堂にはカウンターに男女のカップル、2人組の傭兵風の男達、テーブルには3人組の老人、4人組の兵士が座り飲食をしていた。


 レイたちが4人掛けのテーブルへ座ると、食堂の奥にある厨房の方から、まだ10代前半くらいの年齢の女の子が歩いて来た。


「いらっしゃいませー、宿にお泊まりのお客様ですね?」


 話し掛けてきた少女は身長140㎝前後で、黒髪のポニーテールをしている。


「ああ、そうだ。食事をとりたいので頼むよ」


「わかりましたぁー。今日の料理はジャンボラビットのステーキなんで期待してて下さいね!」


 少女は笑顔でそう言った。


「ジャンボラビットのステーキ!? ラッキー! ステーキと一緒に酒を飲みたいんで、この宿で一番美味しい酒を持って来てもらっても良いかな?」


 アルスは嬉しそうに少女に言った。


「お酒は別料金になりますけど大丈夫ですか?」


「ああ。大丈夫だよ」


「わかりました。それじゃあソールって言って結構高いけど、ジャンボラビットのステーキに凄く合うお酒をお持ちしますねー」


「それで頼むよ」


 アルスがそう言うと少女は厨房の方へと戻って行った。


「お父さん! ジャンボラビットのステーキ3つとソールを1杯ね」


「あいよ!」


 少女がそう言うと、厨房にいる男は威勢の良い返事をして料理を作り始めた。

 少女がお父さんと呼んだことから、少女の父親がコックで、おそらく母親が受付の女性だと思われる。

 家族で経営してる宿屋といった所だろう。


「いやー、ジャンボラビットのステーキとか運が良いなぁー。マリアちゃんはジャンボラビットは食べたことある?」


「いえ・・・私は幼い頃から教会でシスターとして暮らしてたんですけど、教会ではモンスターを料理として食べることはなかったので・・・」


「そっかー、じゃあ楽しみにしてると良いよ。ビックリするくらい美味いからね!」


「はい!」


 少女が厨房に戻ってから20分くらい経過した頃だろうか、厨房から少女が3人分の料理を乗せた、2枚のおぼんを片手で1枚づつ持ちながら3人のところにやってきた。

 おぼんの上には3人分のナイフ、フォーク、スプーン、ジャンボラビットのステーキ、サラダ、スープ、コップに入った水とソールが1杯乗っている。


「お待たせ致しました。ソールの代金8000コルになります」


 そう言って少女は机の上に料理を並べていった。


 アルスは腰に付けてある袋から、お金を取り出すと少女に手渡した。


「はい。これ1コルド渡すからお釣りは君のお小遣いにでもしなよ」


「わぁー! ありがとうございます!」


 少女はお礼を言うと嬉しそうに厨房の方へと去って行った。


「さっそくジャンボラビットステーキから頂きまーす!」


 アルスはナイフでステーキを切るとフォークを刺し、肉を口の中へと運んだ。


ガブリ


 噛んだ瞬間に肉汁が口の中いっぱいに広がり満たされる。

 ただジャンボラビットを焼いて塩胡椒を振り掛けただけの料理なのに、これ程美味いとは不思議な物である。


「美味い! やっぱりジャンボラビットのステーキは最高だ!」

「そして酒を飲むと」


ゴクゴク


「プハァー! これもメチャメチャ美味い! 確かにジャンボラビットのステーキにピッタリだ。あー、幸せだなぁ!」


「初めて食べたけど本当に美味しいですね。最初はモンスターを食べるとか抵抗があったんですけど・・・」


 正直マリアはモンスターを食べるという行為に抵抗があったが、いざ食べてみると今まで食べたどんな料理よりも美味しく、一口食べてからは、どんどん食が進んでいった。


 30分程経つと3人は料理を全て食べ終わっていた。

 サラダ、スープ、料理はどれを取っても他で食べるよりも美味しく、コックの腕の良さが単純な料理にすら影響を与えることを証明するかのようだった。


「さぁ、食事も終わったことだし部屋に戻るとするか。部屋に戻ったらマリア、お前に聞いておかなければいけないことがある」


「私にですか?」


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