21話 御者なのに
「貴方には本当になんとお礼を言って良いのやら。本当にありがとうございます」
ガスターは涙を流しながら何度も何度もレイに頭を下げた。
「もう良いから気にしないでくれ」
「いえ。時間は掛かってしまうかも知れませんが、薬代は少しづつでも返していきたいと思います」
「俺が勝手に使ったことだ。気にする必要はない。それにエクスキュアポーション1個くらい、イエロードラゴンの素材を売れば、余裕でお釣りが来るから問題はない」
「しかし、それでは私の気が済みません!」
「だから食事をご馳走してくれるだけで良いと言っている。シーラスで一番美味い飯屋を頼む」
「本当にありがとうございます・・・貴方のような傭兵には初めて出会いました」
ガスターはフィンナを抱き抱えると、改めて深く頭を下げた。
話を聞いていたジェイクが、凄い剣幕でレイに迫ってきた。
「いや、まてまて! アンタ今、イエロードラゴンって言ったよな!? イエロードラゴンって南西の谷にいるやつか?」
「ああ。そうだが、それがどうかしたか?」
「どうかしたじゃないよ! ハッキリは確認出来なかったが、見たところアンタ達は4人だよな? 4人でイエロードラゴンを倒したって言うのか?」
「いや違うな」
「やっぱりか!? だよなー? 4人でイエロードラゴンを倒せる人間なんて、Sランク以外にいる筈がないもんなぁー」
「俺が1人で倒したんだが?」
「はははは! アンタ。嘘をつくならもう少し上手い嘘をつきなよ」
ジェイクは腹を抱えながら笑っているが、別にレイは気にすることなく平然としていた。そんな話をしている時にレイの視界に御者の姿が入った。
御者はレイが倒したモンスターの死体から、必死に素材を集めていた。
「おい。馬車の方はどうなったんだ?」
「あー、あれなら1つ部品が壊れていただけだったので、一瞬で直りましたよ」
御者は会話をしながらでも手の動きは止めずに、解体したモンスターの素材を次々と袋の中へと詰めている。
今回レイが倒したモンスターは素材として価値がある部分が少ないのに、かなり袋が大きくなっているので、金になる素材だけを取っては次のモンスターを解体しているのだろう。
「アンタ達の馬車は動くようになったみたいだが、誰か馬車を動かせる人間はいるのか? そこで死んでいる人間が馬車の御者だろう?」
そう言うとレイは、モンスターに殺されていた人間の死体を指差した。
「大丈夫です。私が運転出来ます。馬車くらいは運転出来ないと、商人はやっていけませんから」
「そうか。一応もう大丈夫だとは思うが、シーラスに着いたら娘を治療師に見せておくと良い」
「はい、そうします。貴方達もシーラスへ行くんですか? そう言えばお名前もお聞きしていませんでしたね。お聞きしても宜しいでしょうか?」
「俺の名前はレイ。レイ・アストラルだ。俺達もこのままシーラスに行く予定だが、肝心の御者があんなんだからな。出発にはもう少しかかりそうだ」
御者は必死にモンスターの素材を集めている。どうやら売却出来る素材は全て集める気のようだ。
「わかりました。私はフィンナのこともあるし、御者の遺体と私を守る為に戦って、亡くなった傭兵2人の遺体を馬車へ運んだら先にシーラスへと向かいますね。夜になったらガスター商会という商会まで来て頂いて宜しいでしょうか? 宜しければお仲間さんも全員でどうぞ。私がご馳走させて頂きます」
「わかった。他の皆にも伝えておこう」
ガスターはフィンナを馬車まで運び寝かせると、次は御者や傭兵2人の遺体の方へと向かった。
「ジェイクー、遺体を馬車に運ぶのを手伝ってもらっても良いかー?」
どうも先程レイが自分の名前を名乗った時から、ジェイクの様子がおかしい。蒼い顔をして、ブルブルと震えながら冷や汗をかいている。
「ジェイク。どうしたの? ガスターさんが手伝ってほしいって呼んでるよ」
ミラの話し掛けている声が、ジェイクの耳には入っていないようだ。何かに怯えるようにずっと震えている。
「ねぇ。ジェイクってばぁ!」
「うわぁぁぁ! なんだミラか・・・驚かせるなよ・・・」
「ジェイクってば、一体どうしたって言うのよ?」
「お前・・・さっきの傭兵の名前を聞いたか?」
「ああ。レイさんね! 私のタイプの美形な顔立ちだし、それでいてAランクなんて最高よね! さっきは軽くあしらわれたけど、必ず私に興味を持たせてみせるんだから!」
そう言うとミラは少し大きめの胸をアピールしてみせた。
「バカ! アイツはAランクなんかじゃねーよ!」
「そうなのー? あんなに強いのにAランクじゃないんだね」
ミラは少しガッカリしたような素振りを見せた。
「アイツは紅い死神・・・レイ・アストラル。セレドニアに3人しかいないSSSランクの傭兵だ・・・」
「そうなのー!? Aランクなんて目じゃないじゃない! 益々やる気が出て来たわ! で? なんでアンタはそんなに怯えてるのよ?」
「バカ! 俺はアイツを嘘つき呼ばわりした上に、かなり失礼なことも言っちまった・・・確実に殺される・・・」
「えー? そんな人じゃないと思うけどなぁー?」
「傭兵になって日が浅いお前は、アイツを知らないんだよ! 気に食わない相手なら無抵抗な子供ですら、簡単に殺すって噂だ」
「でもそれってただの噂でしょ? そんな人には見えないわよ?」
一向にガスターの呼びかけに応じないジェイクにレイが声を掛けた。
「おい。お前の主人が呼んでいるぞ?」
「はっ、はい。今すぐに行きます!」
ジェイクはレイの近くから逃げるように、全力でガスターのところへと向かって行った。
「ねぇ、レイさんってSSSランクなんですか?」
ミラは胸元をアピールしつつレイに話し掛けた。
「ああ。そうだが」
「凄ーい! 今度私に戦い方を教えて下さい!」
「お前の武器は槍だろ? 悪いが槍は専門外だ」
「じゃあ私も剣を武器にします! だからレイさんが教えて下さい!」
レイはギロっとした目つきでミラを睨んだ。
「そんな考えで傭兵をしていたら死ぬぞ?」
「・・・」
レイに睨まれたミラは何も言葉を発することが出来なかった。
「おーい! ミラー!」
ガスターが馬車を操りこちらの方へ向かって来る。どうやら遺体の積み込みが終わったようだ。
ジェイクの姿が全く見えないのは、箱の奥に隠れているからだろう。
「シーラスへ出発するから馬車に乗ってくれ」
「わかりました」
そう言うとレイの方をチラリと見ながら、ミラは馬車へと乗り込んだ。
「それでは私達はシーラスへ発ちますね。本当にありがとうございました。夜に商会でお待ちしております」
「ああ。楽しみにしておくよ」
ガスターは馬車をシーラスの方向へと向けて出発させた。
ガスターは出発したが、御者の方は相変わらず素材を集めていた。
「おい! いい加減にしろ。折角谷を抜けて、早くシーラスに着けるようになったというのに、無駄な時間を使っていたら意味がないだろう? シーラスで早めに休めば、その分明日は早く出発が出来るんだからな」
「すみません! 今終わりました!」
どうやら、御者は全てのモンスターの解体を終わらせたらしい。殆どのモンスターが一部だけとはいえ、そのスピードには目を見張るものがある。
小さなナイフ1本のみで行っているようだが、解体の技術だけなら下手な傭兵よりもかなり上だろう。
「メルン王子のところへ戻るぞ」
「わかりました」
レイとモンスターの解体を終わらせた御者は、メルン王子の待つ馬車へと向かった。




