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2話 ホーリーライフ

〖聖属性魔法〗主に傷を癒したり、状態異常を治したり、邪悪な力を払うのに使われることが多い魔法で、神官や巫女など、神に使える者に使い手が多い魔法である。


 その中でもホーリーライフは呪術により傷を負った者や、身体に影響を受けている者に対して特化してい治療魔法で〖下級〗〖中級〗〖上級〗〖特級〗と四段階ある魔法の中でも、最上級の特級聖魔法に当たる。


「なるほど、何故今回、俺たちがお前の護衛に付くことになったのか、わかったかも知れん」


「レイさん。何か知ってるんですか?」


「クロイツ王には息子が2人いて、兄の方がここ数ヶ月表舞台に姿を現してないという話だ。原因は重い病を患っているからという話だったが・・・」


「まさか!?」


 レイに言われてアルスも何かに勘づいたようだ。


 バルーザには2人の息子が居た。

 兄の名は〖メルン〗その性格は穏やかで誰に対しても優しく、家臣からの人望も厚く民からも慕われていた。


 弟の名は〖リデウス〗兄とは反対に残忍で容赦なく、自分に従わない者や民には一切の情けを掛けない男だった。


 その人望や長男ということもあり国中の誰もが、メルンが時期クロイツ王になるであろうと確信していた。


「はい。数日前にバルーザ様からの使者が来て、治療をして欲しい人間がいるとのことでした。治療をする人物が何方かは聞いていませんでしたが、近い内に人を寄越すから一緒に来て欲しいと言われました」


「やはりか・・・おそらくメルン王子の病というのは、呪術による類いの物だろう。それでクロイツ王としては息子を助ける為に、マリアの力を借りようと思ったが、マリアが狙われることも予想出来ていた。まぁ呪術を掛けるくらいだから解呪出来る人間がいれば、狙われるのが分かるのは当たり前だがな。そして、この村を襲ったのがクロイツの兵士ということは?」


「メルン王子に生きてられちゃ困る奴が、国内の人間にいるってことですね?」


「ああ。恐らくそうだろうな・・・あくまでも予想の範囲だがな」


「そんな・・・」


 マリアは自分が国家に関わる事に、巻き込まれているかも知れないと聞かされると、震えてその場にへたり込んでしまった。

 自分のせいで村が襲われて村人達が殺されたこと、そのショックは余程強いものだったに違いない。


「とにかく王都まで行きクロイツ王に会えば、全てわかるだろう。出発するぞ」


「出発する前に村の皆を弔ってあげる時間を作ってもらえませんか?」


 マリアからすれば自分のせいで犠牲になった人々を、せめて弔ってから村を発ちたいという気持ちがあったのだろう。


「悪いが、そんな時間はない。こうしてる間に増援が来ないとも限らないし、流石に数千という相手と戦闘になったら、俺達でもお前を守り切れる自信がないからな」


「俺とレイさんが全力でやったら、千人くらいなら余裕で倒せると思いますけど、マリアちゃんを守りながらってなると、確かにチョイと厳しいかも知れないですね・・・」


「・・・わかりました・・・」


 こうして、レイ、アルス、マリアの3人はマリアを王都まで送り届ける為、アース村を旅立った。

 アース村から王都までの距離は約80キロ程、レイ達なら歩いても半日と掛からずに到着出来る距離だが、マリアのことを考えて、途中にあるバミリスという街で一泊するということになった。


 アース村は王都の南西に位置しており、バミリスは王都とアース村の丁度中間地点に位置している街で、ジャンボラビットと呼ばれる、街の周辺に出没するモンスターの肉を調理した料理を名物としている。


 ジャンボラビット自体は草食モンスターで、特に人を襲うこともないことから、子供でも倒せる弱いモンスターとして知られている。


「いやー、ジャンボラビットのステーキ楽しみだなぁー。あの焼きたてを、酒と一緒にやるのがたまらないんですよねー」


 アルスは嬉しそうな顔をしながら先頭を歩く。


 丁度4時間程経っただろうか。普段こんな距離を歩いたことがないだろうマリアに、明らかに疲労の色が見える。それでもマリアが自分から何か言い出すことはなかった。


「おい。お前もう限界なんだろ?」


「お前って言うの止めてもらって良いですか。私にはマリアって名前があるんです!」


 マリアは少し怒りながら言ったが、まだ幼さもあるせいか逆にそれも可愛く見えてしまう。


「わかったマリア。俺のことはレイと呼んでくれ。こっちはアルスだ」


「マリアちゃん宜しくねー」


「わかりました。レイさん。アルスさん」


 マリアはペコっとお辞儀をした。


「私はまだ大丈夫です。今日中には街に着けるように頑張りますから」


 マリアはそう言ったが、誰が見ても大丈夫そうには見えなかった。


「いやマリア。俺の背中に乗ってくれ」


「えっ!?」


「俺がお前を背負ってスキルを使えば、直ぐに街に到着出来るだろう。戦闘になった時の為に極力SPの消費を抑えようと思っていたが、お前がそんなに消耗していては何かあった時に困るからな」

 

 この世界では魔法を使う時にはMPと呼ばれる力を、スキルを使う時にはSPと呼ばれる力を使う。SPは基本的には休んでいれば自然に回復するし、余程の消耗でなければ睡眠を取った時に全回復する。


「でっ・・でも・・・」


 マリアは戸惑っていた。シスターをしていたのだったら、当然男性との触れ合いなどもなかっただろう。それを今日会ったばかりの男の背中に乗れと言われて、戸惑わない筈がない。


「もういい。ちょっと担ぐぞ」


「えっ? え!?」


 レイはマリアをお姫様抱っこの格好で抱えると、スキルを発動させた。


『疾風』


 〖疾風〗自らの身体に風の力を宿して、その風の力で加速するスキル。移動だけではなく、一瞬で相手に近付き攻撃をしたりすることも出来る。


 スキルは使う者の技量によって効果が増す。レイが全力で疾風を使うと誰よりも速く動けるようになり、その風の強い勢いにより足が地面から離れ浮き上がり、宙を駆けているような状態になる。


「アルス! 7割くらいの速さで走るから付いて来いよ!」


 そう言うとレイはマリアを抱いたまま走り出した。


「キャァァァァ!」


 レイは7割くらいの速さで走ると言っても、そのスピードは常人を遥かに超える速度で走っている。

 これ程の速さで景色が変わっていく様など初めての経験で、マリアは驚きを通り越して何も言葉が出て来なかった。


「う~ん・・・7割って言ってもレイさんの7割じゃ、俺が全力で疾風を使っても追い付けないんですが・・・? 仕方ない。魔法でドーピングもしますか・・・風のマナよ! 風のように速く動ける力を我の身体に宿せ!」

『ウィンドピード』


 〖ウィンドピード〗風属性の初級魔法。風のマナの力を使い、自らの身体に風の力を宿し速さを高める。

 魔法を発動させるには詠唱が必要となるが、実力のある魔法の使い手になると、頭に思い描くだけで無詠唱のまま魔法を発動させることが出来る。


 アルスは雷属性の魔法なら、自分が使える魔法は全て無詠唱で発動させることが出来るが、それ以外の属性の魔法は詠唱を必要とする魔法がほとんどだ。


 また、魔法とスキルは同じ様なものに捉えがちだが、実際は全く違うもので、スキルは自らの力のみで発動させるのに対して、魔法はこの世に生きる全ての生物や植物などから発生するマナという力を借りて行使するものになる。


 魔法もスキルと同様に使い手の魔力量により、その効力は増加するが、マナの力を借りるという根本的なことが必ず必要となるため、仮に何も存在しない空間などで発動させることがあれば、使用者自身が発するマナの力しか使えないことになり、どれ程強力な魔法を発動させても、下級魔法よりも弱い魔法となってしまう。


「よし! 魔法でのドーピング完了!」

『疾風』


 ウィンドピードと疾風を重ねて使ったことにより、アルスのスピードもレイと同程度のものになり、レイたちの後ろをしっかりと付いて行くことが出来た。


 20分程経過したところでバミリスに到着したのだった。


「レッ、レイさん。 はっ、速すぎます! これなら、このまま王都まで行ってしまった方が良いんじゃ?」


「いや、お前の身体の消耗を回復させなくちゃならんし、王都までに何も起こらないとは思えないからな。この依頼の期限は3日間で今日はまだ初日だ。ここで1日潰しても問題はないだろう」


 レイは考えていた。マリアを狙った何者かが、レイやアルスがマリアの護衛に付いたという情報を得ている可能性は充分にある。何が何でもマリアを消したいのであれば、王都までのどこかに兵を集めて待ち構えている可能性もあり得ると。

 

いくらレイやアルスが強かろうと、結局はマリアを守れなければ、この依頼を達成することは出来ないのだ。


 またレイはマリアに自分の妹を重ねていた。妹の存在がなければ今、傭兵としてのレイは存在しなかっただろう。


 依頼や敵に対しては容赦なく厳しく、一切の慈悲など持たない男だが、それ以外では紅い死神と呼ばれるのに相応しいような心の持ち主ではなく、優しさを見せる一面もあるのだ。


「またお前って言った! でも私のことを心配してくれてるんですか? 意外と優しい人だったりするんですね」


 マリアはニコッと微笑んだ。


「勘違いするな。俺たちはお前の護衛が仕事なんだ。お前に何かあったら困るからな。だから、体調だけは常に万全にしておけ!」


「あれ? レイさん照れてませんか~?」


 アルスがニタニタしながらレイを冷やかす。


「うるさい! まずは街に入って宿を取るぞ」


街の入り口には、兵士が2人警備をしているようだ。

2人とも歳は20代後半くらいだろうか、見た目は如何にも新兵と言った感じだ。


「お兄さんたち傭兵さんかい? そんな可愛い娘連れてこの街へは何をしに?」


「ああ。王都へ向かおうと思ってるんだが、この街で一泊してから向かおうと思ってな。どこか良い宿があったら教えてくれ」

 

「ああ。それなら月熊亭が良いんじゃないかな。看板に熊の絵が書いてあるから直ぐにわかると思うぞ」


「ありがとう。では、そこに行くことにしよう。ところで、この街では入場の際に身分の確認はしていないのか?」


「ああ。この街では特にそういうことはしていないよ。見るからに不審な者には確認を求めることもあるけどな」


「そうなんだな」


 レイ達は兵士達に軽く頭を下げると、月熊亭に向かうべく街の中へと足を踏み入れた。


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