13話 砕け散る命
「カイル。俺を見ろ!」
「なんだよ、レイさん。今からメルン王子を殺すところなんだ! 何かあるなら後にしてくれないかな!」
『蛇眼』
レイの燃えるような真っ赤な瞳がカイルを見つめ、レイの方を向いたカイルと視線が交わる。
「じゃあね! メルン王子! 王子なんかに生まれてきたことを後悔しながら死んでいくと良いよ!」
カイルは首に刺している剣を一気に奥へと差し込もうとした。
「えっ!? かっ、身体が動かない・・・・ど、どうして!?」
「お前には蛇眼を使った。人質を取らなければ戦えないような男には効果抜群だろ?」
〖蛇眼〗その眼を見た相手の動きを鈍らせるスキル。蛇に睨まれた蛙状態になる。
実力差があればある程、効力は増し、圧倒的な実力差がある相手にかけた場合には相手の身動きを完全に止めることが出来る。逆に、実力差が殆どない場合には、多少動きを鈍くさせる程度の効力しか発揮しないし、自分よりも実力が上の者に対して使っても効力は発揮しない。
「マリア。メルン王子を頼む」
「はい!」
マリアはメルンに近付き首に刺さっていた剣を抜いた。
「聖なるマナよ。癒しの力を持って傷付いた身体を癒せ」
『ヒール』
マリアのヒールにより、メルンの傷は完全に塞がり痛みも直ぐになくなった。
「ありがとう。助かったよ」
「いえメルン様。動けますか? 今は早くこの場所を離れましょう」
「あぁ。そうだね」
そう言うと2人はカイルから離れ、クロイツ王とレイの近くへと退避した。
「くっ、くっそぉ。卑怯だぞ! 剣士ならこんなスキルに頼らずに正々堂々と戦うべきだ!」
「正々堂々と? メルン王子を人質に取り、王印を手に入れようとした男の言葉とは思えんな」
「うるさい! スキルを解除して僕と戦え!」
「まぁ良いだろう」
レイが強く瞬きをすると同時に、カイルにかかっていた蛇眼の効力は無くなった。
「身体が動く。じゃあ僕と勝負しようよ! レイさん」
カイルは剣を構えた。
「ちなみに1つ言っておくがエスケープを使って、逃げようと考えてるなら無駄だぞ。お前がエスケープの詠唱を始めた瞬間に俺が切り捨てる」
「な!? 何故、僕がエスケープを使うつもりだったと分かったんだ!?」
〖エスケープ〗風属性初級魔法。風のマナの力を使い、一瞬にして戦闘エリア外まで飛ぶことが出来る。
「この状況でメルン王子を殺したとして、お前が無事にいることが出来る方法と言えば、エスケープを使って逃走くらいしか考えられないからな。もし無詠唱でエスケープが使えるなら試してみると良い。俺がお前に追い付くのが先か、お前が逃げ切るのが先かをな」
「そ、そんな・・・何でもするから命だけは見逃して下さい!」
カイルは急に気弱になったかと思えば、レイに命乞いを始めた。
「見苦しいな・・・お前もかつて傭兵を目指していた男なら、その命を懸けて戦ってみてはどうなんだ?」
「いや、僕なんかがレイさんと戦っても、話にならないのは充分わかっているんで!」
そう言うとカイルはレイの足にしがみつき、レイの足へ頬ずりをしだした。
そして背中から隠し持っていたナイフを取り出し、レイの胸元へ突き立てようとした。
「油断したな。レイ・アストラル。その命貰ったぁぁぁ!!」
カイルが胸を狙ったナイフは、レイの右手の人指し指と中指の2本によって止められた。
「そんなバカな!?」
「それ程殺意を剥き出しにしていては、とても俺を油断させることなど出来んぞ?」
レイはカイルのナイフをそのまま反対に向けて、カイルの胸へと突き刺した。
「うあっ! ぐっ・・・うっ・・・かっ、母さん・・・・」
カイルはその場に崩れ落ち動かなくなった。
「陛下。やはり何が仕掛けられているか分かりません。早急に身辺を固めるべきかと思われます」
「そうだな。誰か!? 誰かおらぬか!?」
王がそう叫ぶと2人の兵士が現れた。
「陛下! 如何致しましたか? な!? この自体は!?」
兵士は地面に倒れているジェリドとカイルの死体を見て、ただならぬことが起きていると直ぐに察知することとなった。
「この2人の死人は反逆者に当たる。それ相応の扱いをしてくれ。そしてメルンの部屋でロゴスが意識を失って倒れておる。魔法の影響で正気ではない可能性があるので、意識を取り戻すまでは牢へと入れておいてくれ。また私の自室に親衛隊を集めて、身辺の警護にあたらせるように」
「かしこまりました!」
「では私達は私の部屋へ行くとしよう」
レイ達はクロイツ王の案内で、部屋へと向かった。
部屋に着き部屋の中へ招かれ入ると、そこはまたメルンの部屋とは違い大量の本が所狭しと本棚に並んでいた。ゆうに1000冊以上はあるだろう。国の歴史の本や戦略家が書いた本、研究書などが大量に並んでいるが娯楽に関係する本などは一切ないようだ。
「2人ともそこに座ってくれ」
クロイツ王が手を向けた先には4人くらいが座れるソファーが置かれていた。
レイとマリアをそのソファーに座らせると、自らとメルンは反対側に置いてある同じ大きさのソファーへと腰掛けた。
4人が椅子に座るとマリアが話し出した。
「さっきは聞けなかったんですけど、レイさんが言ってたライフストーンって、もしかしてレイさんが私にくれたネックレスに付いてた石のことですか? 何故かホーリーライフを使った時に、砕け散ってしまいましたが・・・」
「ああ、そうだ。あのネックレスに付いてた石はライフストーンという石で、持ち主の生命力が低下して危機に陥った時に身代わりに砕け散ると同時に、ある程度の生命力を回復してくれる石になる」
「そうだったんですね・・・意識を失いそうになった時にあの石が砕けて、その後に意識がハッキリとしてきたのを覚えています。私はあの石がなかったら、ホーリーライフを成功させることが出来なかったということですね・・・そんな貴重な石を、私なんかの為にありがとうございます」
そう言うとマリアはレイに頭を下げた。
「折角レイさんに頂いたのに、壊すようなことになってしまいすみませんでした」
「気にするな、あの石がお前の命の代わりに砕けたと考えれば安い物だ。それより陛下。私に依頼をしたいとは個人依頼ということでしょうか?」
「ああ。今回のリデウスの行為は完全なる反逆行為だ。ここまで堂々と行動を起こしたとなると、フェルークに来るように呼びかけたとしてもとても来るとは思えぬ。むしろフェルークに対して兵を起こす可能性が高いかと思われる。バタールには30000の兵が駐留している。それに比べてフェルークには18000の兵しかおらぬ」
「父上。ハーランド侯爵を頼っては如何でしょうか?」
「うむ。私もそれを考えておる」
〖ハーランド侯爵〗代々クロイツ王家に仕える名門貴族。ハーランド侯爵はフェルークの北の一定の地を領地として与えられており、領地にはクロイツ王国兵10000人と、ハーランド侯爵の私兵5000人が駐留している。
「ハーランド侯爵が私兵を出してくれれば、数の上ではリデウスより優位に立てる。逆にハーランド侯爵がリデウスに付くようなことがあれば、2方向から攻められることになり勝利は絶望的なものになる。そこでメルンよ。お前にはハーランド侯爵の元へ行ってもらいたいのだ」




