ep.2 僕(ep1俺 より面白くないです。すみません。)
ベットに僕らは横たわり、今日の記憶を保存して、眠らされる。そして、目を覚める。
あんま寝れなかったなー。と心の内でつぶやきながらも、今日も僕はこの村の暮らしを、画面ごしの彼らの操作によって進めていく。そう、僕が暮らしているのはゲームの中。プレイヤーさんの操作によって僕が動いているうちは、ただの人形のような、絵だ。僕は空っぽになる。それが仕事だから。
では、この世界のどの部分で僕らが自らの意思によって動くのかということを簡単に説明すると、それはゲーム機が電源を切られた瞬間。僕らは一応ゲームの設定上では”眠っている”という状態。僕らには眠くなるというHPの概念が設定では存在しないため、どんなに1日中動かされたとしても眠くはならない。電源が切られた世界で、僕は1度入ったベットから体を起こし、自由に体を動かす。また外に出て、本当は話したかった仲間に会いにいく。
この村には僕以外にも人は住んでいる。しかし彼らは僕と違って、操作されることはないからいつも自由に動いている。いいなあと羨ましく思いながらも、僕は僕でこのゲームの立派な主人公であるからそこはWIN-WINと受け止めている。この村に住む僕らも姿や形は画面の外側にいる”人間”と似たような形で、暮らしぶりもそこまで変わらないらしい。僕は画面の外側に立ったことがないからわからないけどその変わらない感じが、どうやらこのゲームの謳い文句とのこと。
僕を操作しているプレイヤーさんと、僕の好みは全く合わないらしい。僕が苦手と思う人にばかり話しかけている。ゲーム機の電源が入っているとはいえ、みんなも自由とはいえ、キャラ設定に適した口調や、話をしている。仕事のオン・オフということになる。僕の苦手なジュンは、オンである仕事の時は明るく笑顔で話してくれる。よってゲームの外側の世界では評価は高いらしい。しかし、オフになるといつも怒っているような態度で狭い道などでは、道を譲り合うことなくぶつかってきたりする。村人全員に対してではないから厄介で、完全なる嫌われ者ではない。そんな僕たちの裏生活をプレイヤーさんはわからないからしょうがないのだが、息苦しくなってしまう。
また、女性の好みも全く違う。僕が好みなのはお節介焼きでおしゃべり好きなのマサエさんのような少し年上の女性。マサエさんはすごく明るくて面白い。おかあさん味があってすごくほっこりして、あったかい。彼女のオン・オフはあまり差は感じられない、その感じも素敵だなと思う。一方プレイヤーさんの好みはあんまりおしゃべりをしないサレン。綺麗な人だけど、あんまりこの村の人と関わりを持ちたくないような顔をしている。ゲームプレイ中でもそんな感じなんだ。でもプレイヤーさんは、彼女にしつこく話しかける。このように理想と現実が目に見えてしまう世界。
只今の日時は4月7日、時刻は13時。
こんな明るいうちに解き放たれるのはすごくありがたい。でも画面の向こう側の世界とは違い、ここでは日時・時刻は変えられないものではない。ここが厄介である。
この世界では時間を進められたり、戻されたりを操作によって変えられる。言ってしまえば『昨日』『今日』『明日』という概念がないように考えたほうが良いとされる。例えば『今日』が4月7日としても、僕たちが暮らした『昨日』は4月8日だったりする。そう、訳が分からなくなるのだ。なので僕たちは『この前』とか『今度』という言葉を使う。僕に至ってはいつ操作される時間が来るのかは、プレイヤーさんの気まぐれによるので友達となんかは約束ができない。忙しい仕事ランキング、僕の中では断然1位なんだよなぁ。
僕は家を出た。今日は早番のようなもんなんで、そうだ、誰かに会いに行こう。
僕はキョン君のお家へ向かう。最近はプレイヤーさんがなぜかわからないけど、ずーっとこのゲームをプレイしてて、自分の時間が欲しくてあんまり他の人と遊んでなかったから、少し久しぶりな気分だなあ。
キョン君の家は少し遠いけど、キョン君といるとなんも考えずに楽しめて大好きだ。キョン君と僕は多分年齢的には同じくらいなんだと思う。そこらへんはわかんないけれども同じテンションで楽しめるから大好きだ。
キョン君の家の周りには、キョン君が植えたであろうチューリップが咲いている。きれいだなあ〜。それとキョン君のものであろう、自転車が止まっている。
ベルを鳴らすと少し遅れてエプロンをつけたキョン君が出てきた。相変わらずぽっちゃりしてて頼もしい。
「やあ、ルオ。遅くなってごめんね。」
「遊びに来たよ!」
「いまね、夏に向けてあるものをつくってたんだよ。一緒にやるかい?」
「たのしいもの?」
「君もきっとたのしんで作ってくれるさ。」
「じゃあやる!!」
「そうか!まあとりあえず上がってよ」
キョン君はいつも楽しいことを提案してくれる。そして彼はモノを作ったり、直したりするのが得意なんだ。家の中にある家具なんかは自分で作ってて、このお家自体も前の住居人のお家を、自分でリノベーションしたんだってさ。すごいなあ。ワクワクしながら、キョン君の作業場がある地下室へ降りていった。
地下室にはいろんな工具や部品がたくさんあってここでもワクワクしていた。ついて早々にキョン君は僕に
「目つぶって!」
と目隠ししてきた。
「何を作ってたでしょーか?」
「あ、予想するの忘れてたよ〜」
「せっかく答え出し惜しみしてたのに〜。なんでもいいから当ててみて。」
「いつもの感じで、夏のものというと、、、扇風機とか!?」
「あ〜。確かに作ったことあるけども。違いまーす。まあ雰囲気は似てるかな。」
「え!?作ったことあんの!?すごすぎるよー。全然わかんない、降参!!」
「諦め早いなあー。正解は、、、」
キョン君が手を離すと、目の前に鮮やかな水色と青が溶けるように混ざった”風鈴”があった。
「、、、風鈴??」
「そう!綺麗だろう〜。」
「風鈴なんて家で作れるの!?」
「おいらも初めて作ったんだ。2軒隣の狐じじいに教えてもらってな。風鈴なんて飾らないたちだけども、作るのは思った以上に楽しいんだぜー。」
「すごすぎて、、、。なんも言えないよ、、、。」
「とりあえず、やってみようぜ!」
「うん!!」
「とりあえずちょっと汚いけど、このエプロンをつけろ!うん、似合うじゃないか。」
「ねえ、これ一応つけといてもいい?」
僕が指差したのは使い込んでいるようなゴーグルだった。
「はは。火花とか全然飛ぶような作業じゃないぞ?」
「、、、なんかかっこいいじゃん。」
「、、んまあ、つけたらつければいいさ」
と笑いながらも貸してくれた。
「じゃあ、まずこの竿を持って、この入ってるいかにも熱くて危険そうなとこに竿突っ込んで。こんなかにはなあ、ドッロドロの溶けたガラスがあるから、それをすこーしだけすくうんだ。
「怖いなあ、、、。」
「最初は怖いよな。大丈夫だ、なんかあったら俺がいるから大丈夫だ。ゆっくり頑張れ。」
「うん。」
全身が震える。汗が止まらない。手が滑ったらどうしよう。余計なことを考えてしまう。おそるおそる、何度なのか想像できないマグマから少しすくいだす僕。
その瞬間、少量のマグマを中心に放射線状に光線が飛び出す。え?風鈴てこんな作り方なの!?こんな魔法みたいな作り方なの?
「これでいいの?」
ってキョン君の方を向きながら話しかけた。キョン君は横に確かにいて、僕のことを見守っててくれてたのにいない!!
「キョンくーん!!」
何度も呼んでいるのに全然出てこないキョン君。
「いったいどうなってるんだよ、、、キョン君いなくなるなんてひどいよ、、、。」
「ティロン」
返事をしたかのように、メールが来たときのような電子音がした。信じたくなかったけど、周りに置いてある工具や部品からの音ではなく、僕が持っていたマグマみたいなガラス玉からだった。たしかにそうだった。
ガラス玉の方を見ると、光は出続けているまま、ガラス玉の真上のなんもない空間になんか、なんか白い文字が書かれている。
【お見事です。Thanks.このまま製作してゆきましょう。】
【Ready? 】
キョン君がいなくても作れるように、キョン君が僕に用意してくれていたのかな?面白い風鈴キットなんだなあ。でも、『このまま製作してゆきましょう』って、あれ?「僕この続きまだ教えてもらってないんだけどー!!」『Ready?』から全然進まないじゃん。「お〜い、先生!風鈴の先生さん!」全っ然だめだ。風鈴をとにかく作り進めればいいんだよね、そうだよね。
このガラス玉からどうやったら風鈴になるんだ?手で持ったら熱いしなあ。いろいろ見てたら棒の手前の先端に空間に文字が出たみたいに【◯】で囲まれている。なんかわかんないけど、ここからなんかすればいいんだよね!そこから僕は何個か試してみることに。
この竿は筒のように穴が空いてるから、全ての指を入れてみたり。先端の穴を手のひらで塞いでみたり。穴をのぞいてみたり。耳で塞いでみたり。僕の髪の毛を1本抜いて入れてみたり、、、。その他いろいろ試した。
ぜんぜ〜んだめだ。もう無理だよ僕には、、、。プレイヤーが来てくれないと終わらない気がする、、、。
「クロ君来てーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」
穴に向かって叫んでみた。
「よくできました。」
風が去っていくような澄んだ声が聞こえた。
僕は不安を抱えつつもそこから記憶が途切れた。
いま、僕は見覚えのある自分の家でいつも通りの”僕”といた。