第三話 はじまりの街
あれから、三日が経過した。
オレはと言うと、食料も武器ももちろんお金もない。
その中で、小川がある森にホストの神に放り出されてから、なんとか生きていた。
だが、それも限界が近い。
とりあえず、人里を探すために歩き回っていたせいで疲労もピークに達しているのだ。
もはや、朦朧とする意識の中でさらに歩く。
そして、オレはついに森を抜け出して──。
「や、やったぞー! 街があった!」
そう小さいながらにも、街を発見したのだ。
近くには看板が立っており『この先、はじまりの街』と書かれていた。
なんで、異世界なのに字が読めるんだ?
とも思ったが、それも自称ホストの神様の加護かなんかなんだろう。
そこまで考えて、オレは街を見つけたと言う安心のあまり全身の力が抜け、意識を失った。
………。
……。
…。
ツンツン、ツンツン
「やめろよぉ……ペス。くすぐったいなぁ……ねむにゃむ……」
あぁ、ペスとはオレの実家で飼っている犬の名前だ。
ツンツン、ツンツン
「だから……くすぐったいって……今、イベントシーンでいいとこ……」
ツンツン、ツンツン
「あぁ……もうちょい……で……終わりそうだから……いい子で……ってーー」
ハッ!
目を開けた瞬間、大きなトカゲと目があった。
人ならすぐにでも飲み込めそうな大きなトカゲだ。
しかも、あろうことかそのトカゲは口に木の棒を加えてオレを突いていたのである。
「……え、えっと……。パイセン……今日も……いい天気ですね?」
「…………」
「あ……ぼ、僕……そう言えば、よ、用事があったのでお先に失礼しますね……お、おつかれしーー」
「…………」
そう言って立ち上がった瞬間──。
「シャヤヤャャャャャャャャャァーッ!!」
「したあぁーいやああああああああぁぁぁぁーっ!!」
はしる、走るっ、ハシルッ!
自分の限界を超える脚力で走り抜く。
途中気になって後ろをチラ見すると、アーモンドの様に目がデカくキラキラしたトカゲが前脚を上げて追いかけていた。
人生でこんなにも走ったのは、初めてじゃないかと言う位走り倒す。
そして、気が付くと街の中に入っておりそこにはもう人食いトカゲの姿はなかったのであった。
「ぜぇーっ、ぜぇーっ……。し、死ぬかと……思ったぞ……」
いや、マジで異世界転生したばかりで死んだら洒落にならん。
次が、あるかもわからんし。
しかし、あれだ。
やっぱりここは異世界だ。
なぜなら人食いトカゲもそうだが、オレの目の前には美しい中世の街並みが広がっていたのである。
「これが……冒険者の街か……」
街の光景を見て、ついそんな言葉が口から漏れる。
オレの中で感無量と言うか、夢に見たファンタジー世界に来たと言う実感が湧いてきたからだ。
剣と魔法の世界に、夢の美少女ハーレム。
オレが、ずっと思い描いて来た世界がそこにはある。
そして、そんな余韻に浸っているとだ。
あろうことか突然……
ぐー……。
腹のむしがなった?
そうーなった? のである。
ようは、この音はオレのモノでは無いと言うことだ。
すると、どこから来たのかフラフラとした足取りの少女が目の前に現れた。
髪は長く艷やかで、高そうな髪飾りをしている。
肌の色は透き通る様に白く、背はそんなに高くないがスタイルはいい。
顔立ちもこっちの世界の事は分からないが、芸能人やタレントと言われても疑わない位に整っている。
簡単に言うと、美少女がそこにいたのだ。
「あのー……」
キターっ!!
これって、いわゆるゲームとかでよくあるイベントって言うやつだよな!
ただの現実ならそんな事も思わないが、この世界は異世界。
イベントがあってもおかしくない。
「私に何か用でしょうか? お嬢さん?」
出来る限りの決め顔と、イケボで返す。
いやー、ホストやっててよかったー。
中学校時代のオレならビビって声すら出せなかったはずだ。
「はひぃ……。用って程では無いのですが……」
なんだ?
この少女、よく見たら様子が変だぞ?
「お嬢さん、大丈夫で──」
そして、それはオレの言葉を遮る様に突如として起きた。
「ねぇ、あなた!? もしかして、こんがり焼いたアーモンドリザードだったりしない? てか、お肉でしょ? おひぃしそうなお肉の匂いがしますもん! ねぇーっ、お肉って!こんがり肉って言ってよおおおおおおおおぉぉぉぉーっ! お願いだからあああああぁぁぁぁぁぁーっ!!」
「なっ! おまえ……。それは……さっきトカゲに……おいっ、やめろ! 離せ、てか、俺の服でヨダレを垂らすな! ぐっ、ち、力が……つえー……」
「ご、ごめんなしゃい……つい、おひぃしそうなこんがり焼いたアーモンドリザードの様な、におひがしたから……。うぅ……。わたしぃ、これから……ぐす、どうしたら……」
「どうしたら……って……オレには。お、おい! 噛むな! それは、こんがり肉じゃねぇ! そこは俺の腕……って、そこは……ち、違う、そこはだめな所! うぅ、やめて……そこは、本じゃ書けない所だからっ! そ、それに……オレだって……腹がへって……」
そして、あっ! と思った時には既に遅く。
腹が減りすぎて倒れていた事を思い出したオレは、再び意識を失い暗闇に包まれた。
本日二回目の気絶である。