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第二話 はじめての異世界

──ザッバーン



冷たい。



それもそのはずだ。オレは今、絶賛川の中に居る。

もちろん、川の中と言っても水深は、膝のちょい上位の小さな小川だ。



何でオレがこんな所に服を着たまま、川の中で嘆いているかって?

いやむしろ、その理由はオレが聞きたい位だ。



分からないが、こういう展開って言うのはそれこそ寂れた神の遺跡でとか、誰かの召喚魔法で呼び出されたとか、そうじゃなくても普通は地面の上とかで目覚めるとかが普通じゃないの?



そんな事を考えながら、のそのそと小川から這い上がる。

服を着たままなので、全身びしょ濡れで気持ち悪い。



とりあえずは、上だけでも乾かすか。

そう思って、スーツのジャケットを脱ぐとポケットの中に、小さな本が入ってる事に気づいた。



不思議に思いながら、ジャケットのポケットに手を入れて本を取り出す。

するとそのなかには、文庫本位の大きさでタイトルに──。



『売れないホストの楽しい異世界生活! 決定版! コレを読めばキミも明日からは、楽しい異世界ライフが待ってるよー!!』



と、言う何やら怪しげな本が入っていた。

もうこれはアレだ。

絶対に、あの自称ホストの神様とかが用意した本だ。



そもそも、転移させられる前になんの説明もなく飛ばされたのだから、こんなのがあって当たり前と言えば当たり前だが。



そんな事を考えながら、小川のほとりに座りながら本を開く。



『どぅーもーホストの神様だよー! この本を読んでいると言うことは無事に転移できたって事だよね? わかんないけど、転移ってどんな場所に出るかは分からないからさー! 空の上とか魔物の巣窟とかね? 運悪くいきなり死亡フラグがビンビンとか、オレはイヤだなー! 笑』



おい! なんだよ、『笑』って!

そっちの事情は知らないけど、こっちからしたら笑い事じゃ無いからな!



まぁ、でも。そうやって言われると小川の上はある意味当たりくじを引いたのかもしれない。

そう、自分に言い聞かせて続きを読む。




『ハイ! じゃー面倒な事はささっと行くよー! やっぱり、異世界って言ったらスキルだよねー! けど、ボクはホストの神様だからホストにちなんだスキルしか授けられないんだよね! ごめんねー! ちなみにスキルは「条件」を達成した時に勝手に覚えるよー! スキルを覚えたら通知と音声がながれるよん!』



スキルかー。オレも良くは分からないが、そういうモノがあるって言う事はこの世界はゲームとかであるファンタジー世界に近いのかもしれないな。

そんな事を考えてると、突然──。




チャラ、チャーララ♪ チャラ、チャラ、チャ、ラー♪




と言う、ラーメン屋のチャルメラのメロディーが流れた。

そして、メロディーの後に機械音声が流れる。



(ホスト・スキル習得! 鋼の心──アイアン・メンタル──を覚えました。)



おー、さっそくスキルを覚えたぞ。

と言う事は、どっかで条件を達成したみたいだな。

しかし、スキルってどうやって使うんだ?

そう思ってさらに、本を読み進める。



『あっ! スキルを覚えたら、ホストスキル発動!って言ってスキル名を叫んだら使えるよん! 頑張って、いっぱいスキルを覚えて使ってねー!』



なるほどなー。

アニメとかゲームである、魔法詠唱見たいなもんだな。

やっぱり、この世界にも魔法や魔獣みたいなファンタジー要素はあるのだろうか。



実際問題、この世界の事は何もわからない。

しかし、チート能力じゃないけどこういう能力があるのは心強いってもんだ。

けどまぁ、とりあえず一回スキルとやらを試しに使って見るか。



「ホスト・スキル発動!! 鋼の心──アイアン・メンタル──!!」




だが、何も起こらない。

やり方でも間違ったか?

すると今度は、ダンディーな漢の声で音声が流れ出した。



では、説明しよう!! 鋼の心──アイアン・メンタル──とは、光あれば闇もあり。



そんなホストの厳しい社会で生き残る為に、「はー。俺、もうホスト向いてないわー辞めようかなー」とか。



「エース(一番支えてくれるお客様)が切れて、今月のバースデーがー」とか、そんな弱音を吐くホストくん達の為のスキルだ!



このスキルを使えば、な、なんと! !



何事にも同時ない不屈の精神を、一回につき最大三分間得ることが出来る!



ちなみに、このスキルは一日一回しか使えないので気をつけてくれ!



さぁー君も、このスキルを使って楽しい異世界ライフを楽しもう!!





「楽しめるかあああああぁぁぁぁ───っ!!!!」




ブォーンと全力投球で、本を川に投げ捨てる!

あっ! と思ったがもう遅い。

勢い任せに、遠くに投げたせいで流れの速い所に流されしまって。

気付いた時にはもう手遅れ状態だった。



「やっち、まったかー! けど、まぁなんとかなるよな! 人間死ぬこと以外かすり傷って──」



そこまで言ってハッと気付く。

辛くない。

全然辛くないのだ。

何も知らない異世界で、生きて行く為に必要なバイブルを無くしたのにまったく辛くないのだ。



そして、オレは笑い出す。



「は、ははははっ! こ、これが! スキル、ホストスキル! 鋼の心──アイアン・メンタル──かああああああああぁぁぁぁ───っ!!!!」




と、天の空高く笑いながら叫ぶオレがいた。



オレが異世界に転移して、はじめて得たスキル。



それは、とんでもないごみスキルだったわけで──。



と言う事で。



『ホス盛!』異世界転生したので、残念な仲間と一緒に無双したいと思います!?



はじまります!



……もう泣きたい。



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