第十五話 漢になる為に②
ギルド酒場】
「……なんでこうなった」
不意にそんな言葉が口から漏れた。
オレの目の前のテーブルには、豪華な食事が並んでいる。
そして、テーブルを挟んで向こうには美人のシスターが、オレの思惑通りに酔っ払っていた。
ここまではいい。
そう……ここまでは。
「うー……ひっく。私はだな……十歳の時に剣を片手にオークキングと立ち会い奴を切り伏せた。いやー奴は強かったぞー。仲間の騎士が……。駆けつけた時にはーー」
こんな調子でかれこれ数時間、騎士時代の武勇伝を聞かされている。
外はもうすっかり日が暮れて、夜になっている時間だ。
ちなみに、たくさんの酒を飲んだ様に見えるだろうが。
飲んだ酒は一杯だけだ。それも一口だけ。
そう……このシスターはとんでもない酒の弱さと、酒癖の悪さだったのである。
オレも最初は漢になる為に黙って聞いていたが、流石に同じ様な話しを永遠に聞かされるのはうんざりしていた。
もちろん、何回も話しを切り上げて重要な目的を遂行しようと試みたが、その都度……。
『まてっ! 私の話しはまだ終わっていない! ハルト席に着けっ!』
と、話しを聞かされる始末だった。
そのせいか、いつの間にかオレの淡い期待は綺麗さっぱり消え去りむしろ完全に疲れていた。
そして、このまま捨てて帰ろうかと思っていた時だった。
「ぐじゅ……は、ハルトーっ!たいしぇんなの……。 た、助けてよーっ! わ、わたしぃ……このままじゃ……。 う、うわあぁぁぁぁーん! いやだよおおおおおおおぉぉぉぉーっ!」
と、泣き叫びながらリリスがオレの元にやってきた。
「な、なんだ!? どうした? 泣いててもわからないだろ?」
リリスは泣き叫ぶばかりで、全く話しにならない。
「うー……。むっ。は、ハルト! この人は誰だ?」
「あぁ……オレの冒険者パーティでリリスって言うんだが。職業は……勇者をしている」
泣いているリリスに追い打ちをかけるのも、かわいいそうなので『ひよっこ』と言う名称は伏せておいた。
ちなみに、途中で完全に心が折れたオレはとっくの昔に敬語を辞めてタメ口で喋っている。
そして、そうやって酔っ払った聖職者に言うと、いきなりガタンと音をたてて立ち上がった。
「 こ、これは勇者様だったとは! も、もしパーティーに空きがあるのなら……。ぜ、是非、私をこのパーティーに入れてはくれまいか?
私はただのシスターに見えるかもしれないが……。これでも…… 昔はパラディンをやっていて、ワケあって転職したのだが……。
今は、プリーストをやっている! 回復魔法や補助魔法もある程度使えるし……。 も、もちろん後衛職だが前衛も任せて欲しい!
この杖でモンスターを叩き潰せるし……。 なんなら、回復よりもそっちの方が得意だ! そ、それに最低限の報酬と、モンスターさえ叩き潰させてくれたらわがままは言わない……」
いや、もう色々とおかしいだろ。
回復魔法より、杖でモンスターを潰す方が得意なシスターとか聞いた事がないぞ?
それに、リリスやリコピンだけでもヤバイのに。
これ以上、パーティーに変なヤツが入るのはごめんだ。
オレは、異世界に転生した時から金持ちになって優雅な堕落した生活を送り、美少女ハーレムを作ると言う野望を密かに抱いているのだからな。
だから、悪いがここは断らせて貰おう。
「いや、実はうちのパーティーはもうーー」
すると、さっきまで泣き叫んでいたリリスがオレの言葉を遮った。
「ぐしゅ……じゅ、じゅぴー! そ、それよっ! どこのどなたか知らないけど! プリーストって行ったらシスターの上級職よね? それに、パラディンの経験者って言うのも心強いわっ! そして、極めつけは最低限の報酬で良いって所よ! わたしには、どうしても直ぐにいっぱいお金がいるのっ!」
「ほ、本当かっ!? 私の名前は、気安くシルビアと呼んでくれ! それで……私は……なんと呼んだらいい? 」
「わたしも、気安くリリスでいいわよ! 後は、もう一人リコピンって言うメイジが居るわ! そっちの方は、後で紹介するわね! それじゃあ、シルビアこれからよろしくね!」
「あぁ、リリス! こちらこそ……よろしく頼む! 」
そう言って、リリスとシルビアは握手を交わした。
いや……こうなる事はなんとなく分かってたけど。
まぁ、もう言うまい。
人生なる様にしかならないしな……。




