ないた
あぁ………
私は寝ていた……
何というか……
とても長い夢を、見ていたような気がする。
長い長い夢……
しかし夢の内容は思い出せない……
なにか大切な夢だったような気がするが、どうしても思い出せないのだ。
私はハッとして窓の外を見た。
時刻は午前6時。すでに日が昇っていた。
東の空に微かに見える太陽の輝きを見て、私はなぜだか安心の念を抱いた。
一階から物音が聞こえる。母が朝食を作っているのだろう。
そして私はベッドから立ち上がり、一階へ降りようとした。
床を踏む感覚……毎日迎える朝なのに、今日はとても久しぶりのような気がした。
そして私はまたあることに気が付く。
部屋の床の中央。絨毯の上に、一冊のノートがあった。
それは落ちていたというより、置かれていたと言ったほうが正しいような…………そんな気がした。
私はまだ夢の内容は思い出せない。
そしてそのノートに近づくと、腰をかがめ、右手でノートを拾い上げた。
表紙には、『さんすう』と書いている上からマジックペンで消したような跡があり、その隣には鉛筆で弱々しく、『プルトゥールルのたび』と書かれていた。
私は全身に鳥肌が立った。
そしてゆっくりと表紙をめくると、一ページ目の一行目から物語は始まっていた。
幼い字が縦向きにあどけなく並ぶ……私はそれを読んだ。
その物語は実に単純明快で、勧善懲悪な主人公もまたわかりやすい性格の持ち主だった。
それに加えて登場人物は実に個性豊かで、美しい世界観が読者である私の脳内に鮮明に映し出された。
物語が単純なだけあって、考えさせられるものも膨大だった。
そして正義と悪を題材にしたこの物語は、決してわかることのない謎を残したまま最後のページを迎えた。
物語は結末を迎えずに、何もない白紙のページへと辿り着いた。
そして残った白紙のページをパラパラとめくると、最後のページには子供が描いたような絵があった。
その線はすべて震えていて、どことなく今の自分の絵に似ていた。
絵の中心には一人の少年の後ろ姿が描かれており、その周りを地平線を挟んだ空と大地で上下に分断されていた。
そして私はすべてを読み終わるとノートを閉じ、机の上にあった鏡を手にとった。
私は泣いていた。
窓から淡い光が差し込み、風がカーテンを揺らす。
部屋全体はそれらにより、幻想的なな光と影に包まれた。
頬を濡らした涙は、私に思い出させた。
遥か昔に思い描いた夢。
鉛筆の手触り。
物語を創る喜び。そして、
紙に文字を紡ぐ情熱を。
全部読んでくれた方、ありがとうございました。




