第五話 偽ヒーローの戦い
「あらあら、役所のアクアスマイルちゃんが苦戦してるみたいね♪」
ビルの屋上で一休みしてる、パッチの偽ヒーロー達。
オックガールが、改造スマホでアクアスマイルが戦う様子を見て笑う。
「役所のヒーロー課、ヨモギマンを強くしてどうするだ?」
レッドオーガも呆れる、ドミノマスクに青のラバースーツ姿とアメコミ風の女性。
市役所のヒーロー、アクアスマイルが掌からバレーボール状の水弾を投げる。
ヨモギマンがその攻撃で弱るどころか元気になる様子が画面に映される。
植物の怪人であるヨモギマンに、水使いのアクアスマイルの攻撃は逆効果だ。
「他の人達は事務仕事らしいけど、間が悪いねえ」
変身していない幸之助が呟く。
「あらん♪ コウちゃんは、何で変身しないの?」
オックガールが素顔の幸之助に疑問を抱く。
「相手の目の前で変身する演出?」
レッドオーガ。
「そそ、演出♪ それよかレッドオーガは役所の方に行ってあげてよ♪」
レッドオーガにアクアスマイルの救援を頼む幸之助。
「わかったわ、任せて♪」
そんなレッドオーガが幸之助達と別れて飛び去って行く。
「お姉ちゃんは~♪」
オックガールが甘い声で聞いてくる。
「オックガールは、消防さんと消火してきて」
と指示を出す。
「オッケ~♪ お姉ちゃん、行ってくるわね~♪」
艶かしく体をくねらせてから、オックガールもどんな仕掛けか触手を
ヘリのプロペラ代わりに回して空を飛んで行った。
「俺も行くか、風向き良し! 方角良し! とうっ!」
幸之助も風向きと方向を確認して靴裏のブースターを点火!
人間ロケットとなって、ヨモギマンの下へ飛んで行く。
寄生したネイバーが彼を保護するので、無茶な動きも可能にしていた。
ドン! っと音を立てて、暴れていたヨモギマンの前に登場する幸之助。
「そこの怪人、遊びの時間はお終いだ♪」
ヨモギマンの製造過程を見ていた癖に、初めて見るように演じる幸之助。
突然だが、ヨモギマンと言う怪人の製造固定をお見せしよう。
場所はパッチのアジトにある、キャンディ博士の開発室。
「さ~て、今日も怪人を作るのだ~♪」
整頓された本棚や薬品棚、実験机、素材を補完する冷蔵庫。
きれいに整理された室内の中央に鎮座するのは巨大な釜。
炊飯に使う釜を巨大化したようなこの装置が怪人製造機。
この釜に材料を放り込む事で、怪人が誕生するのだ。
「博士、畑に生えてたヨモギ取って来たぜ?」
幸之助が収穫したヨモギの束を開発室に運び込む。
秘密結社パッチは、食糧調達や素材調達の為に農園を経営している。
幸之助は幹部ではあるが、小遣い稼ぎとして雑用を手伝わされていた。
「ありがとうなのだ♪ 装置にヨモギを投入して欲しいのだ」
キャンディ博士が幸之助に指示を出し、幸之助が従って釜の蓋を開けて
ヨモギの束を放り込む。
「では、ネイバー注入なのだ!」
博士がスイッチを押すと天井からホースが下りてきて銀色の液体
を怪人製造機へと放出する。
この銀色の液体こそが、宇宙からやって来た寄生生物ネイバー。
このネイバーあらゆる物に寄生する、人間や動植物に寄生すれば
宿主を超人やモンスターにする神秘の寄生生命体だ。
ネイバーが投入され釜の蓋が閉じて横回転を始める。
回転により素材とネイバーを混ぜる事でパッチの怪人が誕生するのだ。
怪人製造機の回転が止まり、釜の蓋が開く。
湯気と共に怪人製造機から飛び出して来たのは、頭にヨモギが生えた
愛らしいスライム状の生き物だった。
「モギ~♪」
産声を上げるスライムことヨモギマン、それを見たキャンディ博士が
「完成なのだ~♪」
と歓声を上げる。
「いやいや、これ幼生体だろ? 成長機で成長させようぜ?」
幸之助が巨大なシリンダーを指さしてツッコむ。
パッチの怪人は、合成された場合何故か幼生体の姿で誕生する。
この幼生体を専用の機械に入れて成長させる事で、怪人の調整が完了するのだ。
シリンダーの中にスライムを入れて、メロンソーダ色の液体を注ぐ。
すると、液体漬けになったスライムの体がボコボコと膨張して急激な速度で
液体を吸収しながら人間に似た姿に変化して行く。
シリンダー内の液体が消えて機械が開く。
その中から出て来たのが、緑色のヒーローもどきの怪人ヨモギマンだ。
そして時間は現在に戻る。
そろそろ帰るぞ、やられたふりして元に戻れよ?
わかったモギ。
ネイバー同士のテレパシーでヨモギマンと打ち合わせをする幸之助。
「行くぜ、変身!」
幸之助が変身装置であるベルトのバックルを臍の下にかざすと
彼の腰にベルトが巻かれる。
巻かれたベルトのバックルから、白いジェル状の液体が放出されて
幸之助の全身を覆い彼を守り強化する外骨格に変化する。
そうしたプロセスを経て誕生したのが額に青い宝石状の結晶が浮き上がる
白き鎧を纏った偽ヒーロー、ジ・エンダーだ!
「悪の野望を強制エンド! ジ・エンダー!」
正拳突きのポーズを取るジ・エンダー、変身中にヨモギマンが彼を襲わないのは
複雑な事情があるわけではなくテレパシーで打ち合わせ済みだからだ。
「出たなジ・エンダー! 覚悟するモギ~!」
ヨモギマンもノリノリで演技をしながら襲いかかる。
今ここに、スペックだけは本物のヒーローごっこが始まった。
互いに約束組手の様に、相手の動きに合わせて突き矢蹴りによる攻撃を
受けたり避けたりと攻防を行い距離を取る。
必殺技による決着の時間だ、ジ・エンダーが胸の前で両腕を十字に交差させる。
「くらえ、エンダービーム!」
ジ・エンダーの額の青い結晶が輝き、青色のビームがヨモギマンに放たれる。
ビームの直撃を受けたヨモギマンは、爆発炎上した。
炎が消えると、残った存在はジ・エンダーだけになった。
「よし、仕事完了!」
ヨモギマンを倒して変身を解く幸之助、戦いは終わった。
戦いを終えた幸之助、変身バックルが光り仲間達から連絡が入る。
「お姉ちゃんも、お仕事終わったわよ~♪ 帰りましょ~♪」
オックガールも戦いを終えたようだ。
「こっちも終わった、帰ろう」
レッドオーガからも連絡が入る。
「ああ、俺も終わった。ヨモギマンはバックルに回収したよ帰ろうぜ」
幸之助が二人に返事をしながらバックルの裏を見る、バックルの裏には
小さいシリンダーが付いておりその中で、飴玉サイズになったヨモギマンが
笑顔で泳いでいた。
こうして、パッチの作戦は成功したのだった。