王女、隠居の準備をする。
黄泉の国へ到着して1日が経った。
あれから私は何も食べ物を口に出来ていない。
そう、冒険者が口にしていたことをすっかり忘れていたのだ。魔素が充満した結果呼吸ができなくなることを。食べ物はあるのに、呼吸出来るかが心配で、結局何も食べれないというなんとも間抜けな状態になってしまったのである。
「私は何をやってるのでしょう」
うなだれたせいで、ヘルメットによる頭への負荷が強まる。結果、首が軋むような痛みが走ってしまった。
「いたい・・・」
魔素対策として強固な金属をヘルメットの材料に使ってしまったのだ。最低限動ける分の能力しか保証していない、それ以上の行動をしてしまうと体に重みを感じてしまう。
せっかく理想の地へ到着したというのに、今度は生命の危機に晒されてしまった。少し考えれば解ることだというのに、黄泉の国で活動することしか考えてなかった。
「何か手段を考えないと・・・」
まずは、あの冒険者が言っていたことが事実なのか。もしも、魔素による影響で人の体に影響を与えたなら、食品だってすぐに痛むのではないか? そう思った私は、バックパックから携帯食料を取り出した。・・・使用するものは干し肉、試すなら人体になるべく近いものが良い筈だ。
私は、携帯食料の缶詰を開け、干し肉を取り出した。最低1時間様子を見て、肉がどうなるか試してみるとしよう。その間はどうしようか・・・
ふと周りを見渡してみると、ガレキが大量に散らばっている事に気づいた。始めてここに来た時の感動のせいですっかり特別視してなかったけど、普通に考えたら人が住んでいた痕跡があるくらいだ。このガレキ、ひょっとして私が住んでいた国に近いものじゃないだろうか。
「よし、ガレキを集めましょう」
最低限拾えるガレキ、そしてガレキ探しの間に見つけた乾燥しきった木材を見つけた。そろそろ一時間になるが、干し肉の方を除いてみても余り変わった所はなさそうだ。後は実際に食べてみてどうか・・・となるが、やはり呼吸するのはヘルメット内じゃないと怖い。
酸素がなかったら、死んでしまう。
酸素?
「・・・そうか、木材を燃やしてみましょう。そうすれば酸素があるか位は解るかもしれない」
私は火属性の魔法が苦手だが、軽く燃やす程度なら使える。
よし、物は試しだ。
「顕現せよ、ファイア」
木材に向かって魔法を放つ、すると木材はゆっくりと燃え始めた。
「よし、酸素はあるらしいわね」
ひょっとしてここは、人が住める場所なのでは? 確かに砂嵐でとても生物が侵入できる場所ではないかもしれない。しかし、一つ問題が起きてしまう。
「燃えてはいる、しかし燃えすぎよね・・・」
可燃性が外界よりも高かったのだ、燃やして僅か数分で木材は炭になってしまった。酸素濃度が高い性か、それとも木材の水分がほぼ枯渇していたからなのか。しかし、これが酸素や魔素による影響だと考えると、黄泉の国で食事を取るのは不可能かもしれない。
「ちょっと心配ね。酸素濃度が高い気がするわ」
となると、人間が生活するには少し厳しい環境というのは事実かもしれない。だが、これで目下の目標は決まった。
1.黄泉の国での空気の確保。
2.外界とのルートを確保
3.黄泉の国でも栽培できる食材を探すこと、もしくは作成すること。
4.家の確保。
なるほど、数にしてみると意外と少ない。ただ、一つ一つの課題が大きすぎるので果たしてクリアできるかが心配になってしまう。
しかし、私はこの環境を手放したくはない。誰ともかかわらない、私独りだけの世界。
夢のような世界が私を待っているのだから。
「やってみせるのよ、私だけの世界を作るために」
もう、誰かに振り回されるのは嫌だから。