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王女、陰キャにジョブチェンジしました。  作者: ぼくさつにんじんソード
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王女、辞めますので探さないでください。

「貴様から、王位継承権を剥奪する」


 王と呼ばれる男、私の父親は侮蔑を込めた睨みを私に向けた。いや、父親だけではないか。今この場にいる私以外の人間全てが私を睨み付けていた。

 昨日まではあんなに親しく夢や希望を語り合った友が、これまで愛情を持って接してくれた両親が、家臣が。


 私のことをゴミを見るような目で見つめるのだ。


 これは私の過去。夢となって、今私の前に姿を現しているのだ。

 私は友人にハメられた。ありもしない犯罪行為、国家転覆、殺人など数々の所業を私一人の仕業として押し付けられた。知っている、全てあいつらが犯してきた行為のスケープゴートに私は選ばれてしまったのだ。


 私は必死に弁解した。いくら証拠を持ってこようとも、穴があればそこを突き、矛盾が生じていればそこを指摘することで私の無実を証明しようとした。

 しかし、両親はついに私を信じてはくれなかった。

冷たい瞳と、汚い罵りが、無実を主張した私に対する最後の手向けだった。


 憎かった、他人を信じ実の娘である私を信用しない両親が、友人の面をして私を罠にはめた人間共、これまで媚に媚を売ってきた癖に立場が変われば、家畜のように扱ってくるクソのような家臣。

 この十五年、私が感じていた暖かさ、温もりは全てゴミの上に成り立っていたのだ。

 何よりも、そんな奴らの下に生まれ、仮面を被ったクズ共を慕っていた間抜けな私こそが、一番許せなかった。


 全てを失った私は、一人ふらふらと知らない土地を彷徨った。魔物にだって遭遇したし、温室では知りえない国の闇という闇を全て見てきた。人が目の前で死ぬことだって腐る程あった。


 それでも私は、ふらふらと歩き続けた。安寧の地を求めて。


 私が目指した場所は、人という人がよりつかず、魔物だって満足に生息できない環境。いわゆる死地。道行く冒険者はこう語る。


「あそこには生物の一人だって住めやしない。大気が魔素に満ち過ぎて呼吸だけで肺はただれる。一時間もいれば肌も焼ける。いるとすればアンデットくらいだろうな。まさに、伝承通りの場所だよ」


 そういう世界があると知った時、私は歓喜した。私の知る者は誰もいない、嫌いな人間だっていやしない。もし、私がそこに住むことが出来れば、誰よりも自由になれるはずだと。


 こうして二年。国を追われ、ひたすら歩き続けて


 この世界の中でも最も大きな砂漠、レーム砂漠の最深部。砂嵐がどこもかしこも起きていて、実際目の前には高さが数十メートルにも上るであろう巨大な砂嵐が私の前で荒れ狂っていた。この砂嵐を超えれば、私の知る安寧の地へたどり着く。


 事前に着ていた防護服に、さらに防護服を重ね着する。全てを飲み込もうとする砂嵐に、肝を冷やす思いをしながら私は中へと入っていった。


 吹き飛ばされないよう全体に障壁を張り続けて、体感では一時間以上だろうか。ひたすら前へと進み続けていたら、いつの間にか嵐は止んでいた。気づかなかったのは防護服により音を遮断していたせいだろう。


「・・・ようやくたどり着いた」


 ヘルメットからわずかに見える光景が、目的地へとたどり着いたことを教えてくれる。


 冒険者が言っていた通りだ、人っ子一人いやしない。魔物だって、何かしらの生物だっていやしない。そこに広がるのは、夜のように光が殆ど閉ざされた世界。ボロボロになってしまった廃墟を埋める砂。重ね着しているはずの防護服越しに感じる冷えた空気。まさに、死者の世界だった。


 地面にへたりこみ、ヘルメットの中で涙した。


 黄泉の国、人がそう呼ぶ死地の世界こそ、私にとっての天国なのだから。

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