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勇者スレイヤー 勇者絶対殺すマン  作者: ランタン丸
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南門跡にて



太陽が天高く昇っている。空には雲一つなく青一色だ。


廃墟と化した都ナルカの南門があった場所に1人の人間の青年と50人ほどの魔族が集まっていた。

魔族は30人ほどが女性と子供であり、残り20人はボロボロの鎧を身に纏い、包帯を腕や頭などに巻いている男たちだった。



昨夜、焚火の側で青年と話をした白髪の魔族の女性が魔族の一団の前に立ち、青年に頭を下げる。

「我らが同胞の弔いを無事終えることができました。あなたが手伝ってくれたおかげです。ありがとうございます。魔族を代表してお礼を言います」


白髪の魔族の女性に続くように残りの女性と子供が一斉に頭を下げた。この女性と子供たちは、勇者の軍隊が攻めて来たときに、たまたま都の外で薬草採集を行なっていたため戦火に巻きこまれずに済んだ一団だった。


「魔王の臣下として当然のことをしたまでだ。別に礼を言う必要などない。それよりも今回のことは、本当に申し訳なかった。俺と同じ人間族が大迷惑をかけてしまった。すまない」


青年は魔族の一団に頭を下げ詫びる。

頭を下げた青年を見て、魔族の男たちがざわついた。

「頭を上げてください。魔王様の側近として名高いあなた様が一市民にすぎない者たちに頭を下げられるなどあってはなりません。それよりも、今回のことは、都を、市民を、そして魔王様を守れなかった我らの兵士の責任でございます」


包帯を巻いた男の魔族たちは、ナルカ軍の兵士の生き残りであった。

その中でも一際、背が高く、スキンヘッドの男が青年に頭を上げるように言うのであった。


「いや、お前たちはよく戦ってくれた。そして、生きてここにいることを俺は誇りに思う。ここら先は、避難する森林地帯の村までしっかりとこの者たちを送り届けてくれ。村に着いたらそこでお前たちも傷を癒せ」


青年の言葉にスキンヘッドの兵士が、涙を浮かべる。

「もったいなきお言葉。我ら一同必ずやその命を果たしてみせます」

そして、兵士たちは一斉に右手を胸にあてるのであった。ナスカ式敬礼である。


青年の言葉を魔族の女性が聞き、不思議な表情で青年に尋ねる。

「あなた様は一緒に行かれないのですか?」

その問いに「ああ」と答え、青年はさらに言葉をつづける。

「俺はこれから北に向かう。勇者を殺し、皆の仇をとらねばならない。それに魔王様を取り返さなければならない」


青年は何千という魔族の死体を埋めたが魔王の死体を埋めることはなかった。いや埋めることができなかった。

勇者の軍隊は今回の遠征の戦果として魔王の死体をもって行ったからだ。おそらくは、その死体を人間の都にて晒すつもりなのだろう。


勇者を殺すと言う青年に白髪の魔族の女性に不安げな表情なる。

「無茶です!!敵の軍隊は2万はいました。それにそれを率いる勇者の力をあなた様も見たでしょうに。まさに人外。それにお一人で行かれるつもりですか?ここにいる兵士の方々は連れて行かれないのですか?」


白髪の魔族の女性はが青年にそうまくし立てるが、青年は覚悟を決めた顔つきで魔族の一団に語ってみせる。

「よいか、皆よく聞け!人間の兵士、そして勇者を殺すことは復讐となる。我らが王、魔王様は復讐をすることをよしとしなかった。曰く、復讐に取り憑かれた者は最後に自分を殺すことになるとな。魔王様の忠実な配下である、お前たち兵士はこの教えを知っているだろう」


魔族の兵士が全員頷いてみせる。

さらに青年は語る。

「しかし、俺は魔王様の教えに背く。勇者を、必ず討つ。これは逆臣となる行為だ。お前たち兵士は最後まで魔王様の忠実な配下でいてくれ。ゆえにお前たち兵士を連れて行くつもりはない。1人で行く。そして、俺は勇者が許せない。勇者の力は巨大だ。だが俺は勇者を討ち、魔王様の遺体をこの地に帰すことをここに誓う」

語り終えた青年の表情はとても険しかった。

「決意は固いのですね。わかりました。もう止めはいたしません。私たちはウルスの森林地帯の村にいます。もし何か困ったことがございましたら、いつでも立ち寄ってください。必ず力を貸しましょう」

「ありがとう。その気持ちだけで十分だ。道中気をつけるのだぞ」


白髪魔族の女性の言葉に青年は少しだけ表情を柔らかくする。

それから青年は兵士たちの方を見る。

「お前たち、くどいようだがこの者たちを頼んだぞ。戦い前にナルカから逃げ出した市民も多い。道中もしその者たちを見つけたら可能な限り保護するのだ。わかったな?」

兵士たちは一斉に勢いよく「ハッ」と答え、胸に右手をあてる。

そんな兵士の姿を頼もしく思いながら、青年は懐から小さな袋を取り出しスキンヘッドの兵士に渡す。


「こ、これは・・・まさか!マジックバックですか⁉︎」

袋を受け取った兵士は驚いた声を出す。

「ああ、そうだ、魔王様に仕える配下の中でも幹部のみに支給されるものだ」


「こんな貴重なもの我らに渡してもよろしいのですか?あなた様がもっておられた方がよろしいのではないですか?」

袋の正体を知り、スキンヘッドの兵士は恐縮する。


「俺のはある。それは死んだ同僚のものだ。気にするな!容量は小さいが、その中に、パンや干し肉、芋類といった食糧が入っている。この集団なら3、4日はもつはずだ。貴重な食糧だ。管理はお前に任せるぞ」


「はっ!!、必ずや」

スキンヘッドの兵士は再び、右手を胸をあて青年に敬礼するのであった。

「よし、では、早く出発するがよい。少しでも早く村に着いた方がいいからな」


その青年の言葉に魔族の一団は全員、頭を下げてお礼をいうと南門跡からつながる南路を進みはじめた。



青年は一団を見送る。

すると一団の最後尾から白髪の魔族の女性が青年のもとへ走ってきた。

青年は不思議に思いながら、口を開く。

「どうした?何をしてる?早く行け」


白髪の魔族の女性ははぁはぁと少し息を切らしながら青年の顔を見る。そして息が整ったところで口を開く。


「私の名前はメリアと言います。いつか必ずウルスの村に寄ってください。必ずです」

白髪の魔族の女性、メリアの突然の言葉に青年は笑みを浮かべる。

「ふふ、ああ、わかったよメリア、必ず村を訪れよう。だから早く戻るんだ」


「約束ですよ。ハノイ様‼︎」

青年の言葉に満足したのか、メリアは微笑みながらそう告げると、歩く集団のもとへ急いで駆けていくのだった。


ハノイと呼ばれた青年は、その白が点となり、やがて見えなくなるまで南門跡にたたずむのであった。


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