青年の生い立ち3
「「お疲れさん」」
海水運びの仕事を終え、疲れた表情で部屋に戻ってきたシュタットをロックとハノイの2人が出迎える。ルビスはぐっすりと寝てる。
「これ、お前の飯な!とっておいたやったぞ。腹へってるんだろ?早く食べなよ」
ハノイが机に置かれたスープとパンを指差す。
シュタットをハノイにお礼をいうと冷えた豆のスープを口に運ぶ。
「ルビスの具合はどうだ?良くなったか?」
「ああ、良くなったみたいだぜ。俺が見始めたときにはぐっすり寝てたぜ。夕飯前にハノイが買ってきたルル草をお湯で煮出して飲ませた。食欲もあるようだし、もう大丈夫だろ」
「そうか」と安心したシュタットは冷えたスープを一気に流しこんだ。
「ルビスも心配だか、お前の方どうなんだ。今日はいつもの2倍以上の海水を運んだんだ。体のどこかを痛めたりしてないか?」
ハノイがシュタットの体を心配するものの、シュタットは「問題ない」と笑顔を浮かべてみせる。
「相変わらず、すごい肉体だな。海水運ぶのも早いし。同じ14歳とは思えない筋肉だよな」
「そりゃあ、あんだけ毎日海水を運んでいればいやでも筋肉はつくよ。それにここの食事だって豆ばかりだけど具沢山のスープがしっかり出るんだ。しっかり食べてしっかり働けば丈夫な体なんてすぐできあがるさ。それにハノイやロックもすごい体つきだと思うよ」
「さすがに2年もやってればな、筋肉はつくさ。それでも、お前は俺たちより長く働いているし、身長があるから体つきが俺やハノイとは違うよ」
実際にロックとハノイの2人も、14歳とは思えないくらいの体つきをしていた。
ほとんど毎日、海水を運び、高たんぱく質の豆を摂取することによりできあがる肉体。
彼ら2人は2年の月日をかけてこの肉体を手に入れた。
ハノイとロックは、幼いころに病気と事故で両親をなくし、それから12歳まで孤児院で育った。12歳になると奉公先としてダストの営む製塩所で住みこみで働くことになった。
ダストの製塩所は、規模は小さいながらも従業員が20名ほどいる。
仕事は雨が降り、海が荒れる日以外は休みはない。それでも、食事はしっかりと朝、昼、晩と出してくれていた。豆ばかりのスープとパンという変わり映えないメニューだが、このご時世に3食が保障されているというのは待遇としては良い方である。
もっとも、体が資本である以上、食べなければ体が持たずに仕事にならない。生産性をあげるために食事を提供することは経営者からすれば当然の措置である。
「そうか、もう2年も経ったんだな。俺がハノイやロックと出会って」
感慨深くシュタットがつぶやいた。
ハノイとロックがダストの製塩所へ奉公前の挨拶に訪れた時には、赤髪の高身長の少年、シュタットは既に働いていた。
シュタットは10歳で両親を流行病でなくしていた。その後すぐにダストの製塩所で働きはじめていた。
ハノイとロックは同じ年ということもあり、働きはじめてすぐにシュタットと仲良くなった。
「俺はお前と出会えてよかったぜ。ダストは嫌な奴だが、お前と一緒に働いるおかげで、仕事を頑張ろうと思えるからな」
「ああ、同感だな」
ロックの愚痴にハノイが同意を示す。
はははと笑いつつもシュタットがバツが悪そうに口を開く。
「実はさ、俺、あと1年したら製塩所辞めようと思ってるんだ」
「「まじか!!!!!!」」
ロックとハノイの2人の驚きの声が重なり、夜の部屋に響くのであった。