第一話 来世で巡り逢いましょう
とある国で、今朝悲しみに包まれた家があった
その世界には魔法があり、治癒魔法もある
だが、生まれつきは治せない、病気は種類によって治せるのも薬で治すのもある
生れつきが治せないのはそれが正しい姿とされるからだ
「リル様、おはようございます」
私はそう言って、隣に眠る旦那様にいつも通り話しかけた
そしてそのまだ起きない旦那様の顔を見ていつも通り眺めようと、旦那様のサラサラな髪撫でようと・・・した
「リル、リル様?起きてください、起きてください!」
あぁ、返事かない
嘘だ
目を開けない
嘘だ
肌が冷たい
嘘だ
「だってこんなに穏やかな顔なのよ?寝てるだけでしょう?」
しかし、現実は残酷で
「リル様は魔法が得意ですものね。騙されませんよっ」
ほんとは気づいてるはずなのに
「イタズラはほどほどにしてくださいねっ」
でも、でも、待ち望んだ声はない
「嘘っ、嘘、よ、病気だっ、たけど、昨っ日まで」
・・・元気だったじゃない
声にならない
涙が溢れてくる
嗚咽が漏れる
私は旦那様、リル様抱きついて、泣いた
「うっ、ぐすっ、うわ~~ん!」
泣き止んだのは侍女たちが時間になっても来ない私たちを心配してきた頃だった
最近は旦那様の病気が酷く、寝室にはストレスにならないように侍女や執事は置かなかったのだ
朝食は遅く始まった
「お母様、大丈夫ですか?」
年の近い息子が私を見て心配そうに話しかける
あぁ、この子にも迷惑をかけた
この子は私の前の旦那様の奥様の子
前の奥様は派手な暮らしが好きらしく、けれども貴族の暮らしは合わず、旦那様とは離婚してしまった
私はあとから母親になったが、この子は母親として見てくれた
私と旦那様は歳がかなり離れている
それはもう結婚できるの?的な差である
それはそれは他の貴族たちは私のことを家の財産狙いと言っていた
けれども、私と旦那様は本当に愛し合っていた
息子とも歳が近かったが家族としてなんとかなった
息子には結婚を賛成してもらえ、喜んでくれた
外でいろいろ言われただろうけど、それでも私を母として認めてくれた
私は足が不自由で動かせなかったりといろいろ体が弱い
それでも支えてくれたリル様や息子にはとても感謝し、同時に愛してもいる
「大丈夫よ、ゼンは大丈夫?」
私はそう聞いた
「お父様とはしっかり話したしね。最後にはお母様を守れって言われたよ」
それを聞いて嬉しくなった
旦那様は最後まで私のことを、と思えたのだ
「私、ここにいていいの?」
「なにいってるんだよ。お母様はお母様だよ。他の貴族は責めるかもしれないけど、ここの領民や侍女、執事、そして俺もけしてそんなことは言わないよ」
「そう?」
そう聞くと、にこっと笑って
「それにミリもいるじゃないか」
ミリ、それは私と旦那様の子
可愛い娘だ
ゼンもすっかりお兄ちゃんらしくなったものだ
「そうね!ゼンやミリ、みんなのためにもくよくよしてらんないわね!」
「それこそお母様だよ」
「ねぇ、こんなことを言うのもなんだけどリル様がいなくなった今、ゼンに爵位を継いでもらいます」
これは遺書には書いていなかった
決めなさい、としか書いてなかったのだ
信頼してくれるからこそだと思う
「騎士団で忙しいと思うけど、私には継げないし」
「大丈夫だよ」
「もちろん。補佐として手伝うわよ。」
「ありがとう。お母様」
「ふふ、じゃあ行ってらっしゃい」
「あぁわ今日も仕事だからね。行ってきます」
「いってらっしゃいましぇ!おにいしゃま!」
「あら、今起きたの?間に合って良かったわね」
「ミリ、行ってくるね」
私はこの光景が大好きだ
リル様、私頑張りますわ!
リル様の愛した領地と領民を私も愛しています
頑張って守りますわ!
おまかせください!
そして安らかにお眠りください
また来世で巡り逢えることを祈っています