エロゲの世界に転生したけど、僕はどこまで行っても平凡だった。
もし自分がこんな転生をしたら、こうなっちゃうだろうなぁ、なんて思います。
もしかしたら連載に続くかもしれません。
目を覚ました。
雨降る中、1人ポツンと立っている僕。
ここがどこなのか、一瞬わからなかった。だって僕はついさっきまで自室でパソコンでゲームをしていたのだ。
いきなり知らない道に立っているとか物凄くホラーだよ。
だけど、それも一瞬だった。
あれ?と思う暇もなくドッーと訳も分からない記憶が僕の頭に流れ込んでくる。
それは思わず地面に倒れ込んでしまうほどに強烈で、僕はそのまま意識を失った。
次に目が覚めたのは病院のベッドだった。
目を覚ますとそこには知らない男女・・・いや、“僕”のお父さんとお母さんが心配そうに僕を見ていた。
僕、そう、“僕”を。“月空 玲”を。
僕が好きだった主人公最強系のエロゲの主人公、“月空 玲”を。
どうやら僕は月空 玲に転生したらしい。
初めは夢だと思ったし、あり得ないと思って僕は頬をつねったり僕が知らないことを誰かに聞いてみたりと色々としてみた。あと、これが夢なら明晰無、夢だと知ればなんでもできる、そんな風に考えて壁を殴ってみた。これが夢ならこれで壁が吹き飛ぶはず。
そう思ったけど痛いだけだった。ちなみに、親や病院の人に痛い子に見られた。
そんなこんなを数日こなしてもこの夢は覚めなかった。いな、つまるところ、これは夢ではない。
僕は、エロゲの主人公に転生した!
このゲームは現代が舞台で、そこで起こる不可思議な事件。それをチートな主人公が力業で解決していく話だ。
その時おりでヒロインが現れ、各事件ごとにヒロインとのエロシーンがある。
五人ヒロインがいて四つの事件がある。このゲームは最近よくある誰かのルートに入ったわけではないけど、取り敢えずはエロ行為はするというオレオレな展開で進んで、結局誰かのルートに入る前に五人中四人とはエッチをしている状態なのだ。
さすが主人公最強系。これから僕の歩む道。
ヒロインもみんな可愛くてこのゲームをやるときもだれから攻略しようか本気で悩んだからなぁ。
1人だけ全員攻略しないと攻略できないヒロインもいたけど。ちなみに、僕が初めに攻略しようとしたヒロインです。
このヒロインルートに入った、と思ったのに中途半端なところでバットエンド。
結局全員攻略してから再び挑戦したのも良い思い出だ。
これが現実に起こることだとしたら、僕はそのヒロインは選べないのかなぁ。一番好きなヒロインなんだけど・・・。
病院のベットで僕はこれからどうすれば良いのか考え初めた。
いまの僕は小学6年生くらいだと思う。あの手のゲームは例え小学6年生でも具体的な年齢は出さないからくよわからない。明らかに小学生だろ?っていうキャラでも「この物語の登場人物は全員18歳以上です」と神様の一声だ。
まあ、それは置いておいて、このゲームが本格的に始まるのはたぶん高校一年生からだ。またしても世界ルールにより高校という単語は出てこないけど。
高校入学から始まって直ぐに最初事件が起こる。
そこで出会う女の子。黒髪ロングのクーデレな同級生。彼女の友達が事件に巻き込まれたとかでそれを解決するために1人で動いている彼女を助けるところから始まる。
取り敢えず、いま12才くらいだから高校一年生まであと四年くらい。
僕はその間にどうすれば良いのか。
もちろん、決まっている!
鍛える。この主人公は最強系。油断して最強になれなかったら折角この世界に転生した意味がないっ!!
それに、この主人公には能力【無限の成長】と言うものがある。
鍛えれば鍛えるだけ強くなる。
僕は早く退院したいと心から願った。
退院は直ぐにできた。そもそも、倒れたときに頭を打ったらしくて、それの検査的な入院だった。
家に帰って自分の部屋でこれからのことをノートにまとめる。
「えっと、忘れない内にこの世界のことを書き出しちゃお」
僕はそれほど記憶力の良い方じゃない。このゲームは好きだったから各ルートを四、五回くらいずつクリアしてるけど、細かい出来事はそこまで覚えていない。まあ、クリアって言っても読み込んだのは一周目くらいで二周目からはヒロインの萌えるシーンを楽しみにしてたし。
「えっと最初のヒロインはっと、」
黒髪ロングのクーデレ同級生。
「二人目は、と」
ピンク髪の下げツインテールの天使少女。
「三人目が、」
赤髪のポニーテール、巨乳のツンデレ少女。
「四人目で、」
金髪ストレートのアホッ子。
「それで、全員攻略しないと攻略できないヒロイン、」
白髪ロングの謎ッ子少女。
この五人がメインヒロインで、その他サブヒロインが五、六人いる。ちなみに、各サブヒロインはルートはないけどエッチイベントは1つずつある。
ただ、このサブヒロインは各メインヒロインルートに入ってからなのでそれほど気にしなくてもいいだろう。
僕はその後も誰がどんな事件に巻き込まれるか、どうすれば解決できるのかを覚えている限り書き出していく。
まあ、ほとんど力業だから結構大胆な方法ばっかりなんだけど。
例えば、
黒髪クーデレ少女と共に地下室に閉じ染められて天井から水が降ってきて、このままだと溺れてしまう。助かる方法は問題のパスワードを打ち込んで溺れる前に脱出のしろ。という展開で、あまりにも問題が理不尽なものでどう足掻いても解けない。絶望してしまうヒロインに「離れてろ」と言って、そのまま壁を拳で破壊して脱出する。
まさしく、俺様最強な展開。
いまの僕には壁を撃ち抜く力はないけどね。早く鍛えなくちゃ。
僕は早速身体を鍛え初めた。
鍛え初めて半年がたった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
僕はランニングを終えて息を切らせていた。
走った距離は“五キロ”だ。
半年経って中学生になっていた僕。学校主催のマラソン大会。全男子生徒216人中167番。
それが僕の順位だ。
「はぁ、はぁ、はぁ、マジ、かよ。はぁ、う、そ、だろ、はあ、はぁ」
この半年訓練を怠ってはいない。毎日走って筋トレして壁を殴った。
下半身は筋肉痛になるし、手の皮が剥けて痛いわで泣きたくなったけど、ずっとやり続けてきた。
それなのに・・・
「ぜ、ぜん、ぜ、全然、成長・・・してない」
むしろ一般人より成長具合が遅いんじゃないだろうか?
いくら鍛えても筋肉はあまり付かない。
体質・・・お母さんにそう言われた。僕はお母さん似らしく、筋肉が付きにくい体質らしい。お母さんは女の人だから太くならなくて良かったと自分の体質に感謝してるけど・・・僕は・・・。
そもそも、僕の能力【無限の成長】はどうしたのだろうか?
これだけやってれば少しは反応するはずなのに・・・。
僕は一日中悩み、悩んで、悩んで、もう一度ストーリーを思い出して、・・・思い出してしまった。
「は、はは、いや、え、マジ、・・・で?」
このゲーム、売れたから、と言うわけではないだろうけど、ファンディスクが出てるのだ。
各ヒロインの後日談。それと、主人公の過去編。
それを、思い出した、のだ。思い出してしまった、のだ。
僕は忘れていた。
エロゲの主人公に転生できてこれからエロエロな人生を歩むんだ、そう思って浮かれていた。
この主人公は最初から最強なのではない。
幼少時にある切っ掛けが起こる。
主人公は幼少時に事件に巻き込まれるのだ。
年齢を詳しく出せないこの手のゲームだから詳しく何年前、というのはわからないけど・・・。
僕はその事件で死にかける。
生死の境を彷徨い、そしてーーーーーー生還する。その時、能力に目覚めるのだ。
表向きには車に引かれたという話になっているが、物語の真実はは違う。
違う、のだ。
それこそ、僕が忘れていたかった、真実。
主人公は・・・・・・
中年のおっさんの集団レイプに合う。
・・・・・・。
ふ。
ファンタジーが絡むこのゲームでは悪霊みたいなものが出てくる。
その悪霊に取りつかれた浮浪のおっさんに18才以上の少年主人公が集団で犯されて、最終的に胸を木の杭で一突きにされる。
それでよく死ななかったと、ゲームって何でもありなんだなぁ、とプレイしているときは胸くそ悪くなりながら見ていた。
この時の死にたくない、とか、悔しい感情が爆発して、能力【無限の成長】が目覚めるのだった・・・だった。
「僕・・・どうすれば良いんだよ・・・」
未来でヒロインの女の子とエッチをするために、おっさんに犯されて杭で刺されるのか。
未来のヒロインを諦めて、普通の道を行くのか。
僕は・・・
僕は・・・・・・・・・。
僕はッ・・・・・・・・・・・・・・・
今日は高校の卒業式だ。
僕はあのとき、ひとつの決断をした。それは、ーーーーーー諦め、だった。
いくら未来にヒロインとのエロイベントが待っていても、おっさんに犯されるのは嫌だった。
それに、犯されて挙げ句、最後には杭で刺されるのだ。これをいくら未来のためとはいえ受け入れられる人はちょっと頭おかしいと思う。
そこら辺の道行く人に聞いてみなよ。明日凄い美人とエッチさせて上げるからこれからおっさんに集団レイプされてきてって、
通報される。頭の可笑しな人だよ。ほんと。
諦めて、僕は全力で身に降りかかる事件から回避した。といっても、その回避はとても簡単なものだった。
事件が起こったのは夜の公園で、その場に行かなかった僕は普通に助かった。
何で行かなかった僕がそんなことを知っているのか。それはニュースでやっていたからだ。僕の近所の公園で、僕と同い年くらいの男の子が暴行され杭で胸を刺されて死んでいるところが見つかったって。
凄いニュースになったし、騒ぎにもなったけど、犯人も見付からず、それきりだ。
その一見で僕は運命を回避できたと理解した。
それからは平和な道だった。
普通に勉強して、運動して、
結局、僕に運動の才はなかった。
高校は気になってゲームと同じ高校に入学して、ヒロインたちを見付けた。だけど、
卒業式を迎える、今日、彼女たちはいない。
全員、いないのだ。
1人、また1人と、いなくなっていった。
それだけじゃなく、彼女たちのことを誰も覚えていない。
まるで、初めからいなかったみたいに・・・。僕にもわからない。
ただ、酷い罪悪感だけが、残った・・・。
彼女たちが、僕の記憶が、全部ただの妄想で、ゲームの世界でも何でもないただの現実なのか。
それに、最後のヒロイン、白髪の少女とだけは結局最後まで出会うことがなかった。
こうして、僕は普通に高校を卒業して、校舎を出た。
僕はこの先、ただの一般人、月空 玲として生きていく。
ゲームのような波乱万丈な生活も、綺麗な女の子たちとエッチなことをして過ごす生活もない。普通な人生。
これが悪かったのか、どうかなんて、分からない。
だけど、あのとき、選んでしまった。
選んで、ここに来てしまった。
この“月空 玲”の人生の前の僕はいわゆる普通の人だった。
普通に高校にいって、普通に就職して、普通に会社勤め。
よく思っていた。
もし、あの頃に戻れるならもっと違った選択をするのに、って。
もっと、物語の主人公みたいな選択を、って。
僕がこうして普通なのは、そう言った場がなかったから、選択肢すら用意されていなかったからだ、って。
だけど、
“この”人生は、用意されていた。
主人公という役割をもらって、
ヒロインとの物語のような人生を歩み道を。
たしかにその選択肢は過酷だった。
でも、僕は、その選択肢を、選んでしまった。
与えられて、僕は、平穏を、平凡を、選んでしまった。
例え、舞台と選択肢を用意されても、
僕はどこまで行っても“普通”だった。
これからも、きっと、僕は普通の道を歩み続けるだろう。