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 黒い影2

 朝日が差し込んでくる。そのまぶしさと熱に、啓太は目を覚ました。ゆっくりと目を開く。瞬間目に入ったのは―

「うわ!」

「兄ちゃんうるさい~」

啓太の叫び声に樹も目を覚ます。上体を起こし目をこすっている。が、そんなもの今の啓太にはどうでもいいことだった。

 確か、左隣には武尊が寝ているはずだった。しかし、今そこで気持ちよさそうに寝息を立てているのは壱華だった。壱華の綺麗な顔がドアップで視界に入ってきたので、啓太は悲鳴を上げたのだった。

「・・・・・・武尊が壱華になった」

「そんなわけないでしょ」

「おはよー」

その声に振り向けば、武尊が障子を開けて廊下に立っていた。ついでに肩には碧が乗っていた。

「え?なんで?」

「夜中に―」

「武尊!」

武尊が説明を試みると、隣の部屋から大音量で武尊を呼ぶ声が聞こえた。千穂の大声に、武尊は頭を押さえた。

「武尊武尊武尊武尊武尊!」

どん、と鈍い音がして、がちゃっと扉の開く音がする。小さな体がすごい勢いで武尊に飛びついた。残像が見えたくらいだ。

「武尊!どうしていないの!」

逃がしはしないとでも言うように、ぎゅっと武尊の体に腕を回して力をこめる。武尊は少々げんなりした顔で答えた。

「啓太の叫び声が聞こえたから、何かと思って起きたんだよ」

「啓太の叫び声?」

千穂はきょとっと首を傾げ、部屋の中に視線をやる。そこには目を真ん丸にした戸川兄弟と、窓側の布団で気持ちよさそうに眠る壱華がいた。

「えと、あは、あははははは」

千穂は乾いた笑い声をあげながら武尊から身を離した。その違和感たっぷりのへたくそなごまかしに、武尊はまた頭を押さえた。

「・・・・・・それで武尊。説明の続きは?」

啓太は真っ白な頭でそれだけどうにか口にした。武尊はそうだったと頭を押さえる手を下ろした。

「夜中目が覚めたんだよ。剣が鳴ったから」

「え?」

樹が反応する。武尊は視線を啓太から樹に移した。

「それで、千穂の部屋に行ったらうなされてて」

「夢に捕まってた」

「すごく怖い夢見たの!死ぬかと思った!」

千穂が武尊と碧の隣で力説する。怖かったのだとこぶしを握っている。

「はあ」

啓太はまだそんな返事しか返せない。

「だから起こしたんだけど」

「また同じ夢見るの嫌でしょう!?」

「・・・・・・だから、同じ部屋で寝ろってうるさくて」

「それで寝床、壱華と交換したんだ?」

「そういうこと」

察しのいい樹の言葉に武尊は頷いた。

「ん~」

壱華が唸る。それに啓太はびくっと肩をふるわせた。視線が壱華に集まる。壱華は身じろぎをして目を開いた。ゆっくりと体を起こす。

「あ、おはよう」

「おはよう」

壱華は啓太が心底驚いたことなど知る由もなく、とろけるような笑顔で挨拶をする。

―まだ寝ぼけてるみたいだ

そんな笑顔を自分に向けるとはきっとそういうことだと啓太は判断する。壱華はくすくすと笑った。

「啓太、酷い寝ぐせ」

「・・・・・・いつものことだ」

啓太はこれ以上耐えられないとでも言うように立ち上がった。部屋から出たとき、階段から美緒が姿を現した。

「あら、騒がしいと思ったらみんな起きてたのね」

よかったと美緒は笑った。きれいに身支度している。

「私は仕事だからもう出るわね。朝ごはん、用意してあるから」

それじゃ、と言って階段を下りていく。

「―ご飯、食べる?」

武尊の言葉に、全員頷いた。


「あの夢、なんだったのかな~」

「それを一番知ってるのは千穂でしょう?」

 朝ごはんを食べながら、千穂と武尊はそんな会話を交わす。碧は布団をたたんだ後の武尊が借りている部屋で留守番している。

「結界張ってたのに」

「だから、夢に出たのかな」

壱華はため息をつき、樹は考えを述べる。

「危ない夢ってなんだ?」

啓太が首を傾げる。しかし、卵焼きを口に入れることは忘れない。

「もうちょっとで飲まれるところだったんだから!」

千穂が大変だったのにと唇を尖らせる。

「真っ黒い、どろどろに黒い奴が地面の底にいて、自分は這い上がってこれないくせに手だけは伸びて、それで私を引きずり込もうとしたんだから!」

「それは危なさそうだな」

啓太は眉根を寄せた。

「夢ってどこに繋がってるんだろうな」

啓太が考える風に言う。

「どこかに繋がってるの?」

今度は樹が首を傾げた。

「どこか共有部分があるから夢から入ってこれるんじゃないのか?」

啓太が珍しく難しいことを言う。しかし、的は射ているように感じた。武尊は箸を止め考え込む。

「実際危険だったのは間違いないと思うんだよね。剣が反応したから。本当に千穂の夢に入り込んできてたんだと思う」

「剣に起こされたの?」

千穂は興味津々のようだ。武尊は頷く。

「シャンシャンうるさかったよ。頭痛がしたくらい」

「そんなに!」

「それくらい危なかったんだろうね」

「うわーそんなに危なかったんだー」

千穂は武尊から話を聞いて今の認識より危険な目にあっていたのだと気づく。顔を青くする。

「結界張ってもらったのに、夢でこんなに危ないなんて」

「もういっそのこと一緒に寝て貰えば?」

未海が意地悪な笑みを浮かべながら言った。しかし、二人にとってそれはからかいでも何でもない。涼しい顔で述べた。

「千穂が怖がるから一緒に寝たしね」

武尊が千穂の方を向く。

「怖くなかった?」

「怖くなかった!」

千穂は元気に答える。二人の答えに言い出しっぺの未海が固まる。

「二人の基準はちょっとおかしいから気にしないで」

樹がフォローする。

「おかしいのは千穂の基準。俺はもう大丈夫って言ったんだけど」

「だって、すごく怖かったんだもん。武尊が側にいると安心」

「その気持ちは分かるとして、でもやっぱり一緒に寝るのは変だよ」

未海は慌てて口早に言う。千穂はそうかな?と首を傾げる。

「そうだよ!」

未海は力強く頷いた。

「だって、怖いんだもん」

千穂は怖いんだもんの一点張りだ。

「それで、今日は何するの?」

武尊が話題を変える。

「川で遊ぶか?」

啓太がニッと笑いながら言う。それにあきれたと壱華が額を押さえた。

「とりあえず、先生のところに行きましょう?夢のからくりが分かるかもしれないし」

「そうだね!」

千穂もうんと頷いた。

「俺もそれでいいと思う」

樹までそう言うものだから、啓太は少しすねた顔をした。

「先生のところに行った後で遊びに行けばいいんじゃない?」

そう武尊がフォローを入れると啓太はにかっと笑った。


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