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 対面2

 村の中心の開けた場所で祝いは開かれた。キャンプファイヤーのように中心に炎が燃え、それを囲うように円になって皆座っていた。その一角に、幼馴染たちと武尊は固まって座っていた。隣には先生である鏡坂斎かがみざかときもいる。

―久々に見たな

その感想は武尊だけのものではない。

―気になることは聞いておいた方がいいのかな

そんなことを武尊は考えるが、いざ質問をしようと思うと何を疑問に思っていたか忘れてしまう。

「食べてる?」

美緒が食事を運びながら問いかけてくる。円になって座っている人間の大半が男性で、女性たちは料理を運んだり飲み物を運んだりと忙しく動き回っていた。そこに武尊はまだまだ昔の風習が残った村なのだなという感想を抱いた。

―考え方が古いのかもしれない

「はい、食べてます」

武尊は美緒にそう言葉を返した。美緒は大皿を武尊たちの前に置きながら笑った。

「まだまだたくさんあるから、食べてね」

「はい」

しかし、実はもう満腹が近かったりする。ちらと視線を投げると、啓太がばくばくと肉を食っていた。目の前に置かれている唐揚げの皿をちょいと啓太の方に押しておく。それを見つけた斎が声をかけてくる。

「食べないのですか?」

「そろそろお腹いっぱいで」

「そうですか?困りましたね。これからまだまだ料理は来ますよ?」

「別に他の人に食べてもらえればいいんじゃないですか?」

「皆あなたに食べさせたいのですよ」

「・・・・・金色の使い手だから?」

武尊はあまり好きではない呼び名を口にした。

「そうですね、たくさん食べて力をつけてもらわないと千穂を守り切れませんからね」

「どれだけ食べたか関係あります?」

「あると村人は思っているという話ですよ」

「困ったな」

武尊は考える風にする。特別少食ではないが、啓太のように大食漢でもない。今後も自分めがけて料理が運ばれてくるのは少々都合が悪かった。

「やっぱり啓太に食べてもらうしかないかな」

「かまいませんよ」

くすくすと斎は笑った。そして世間話のように重大な話を口にする。

「あれから、戦いはありましたか?」

あの双子の騒ぎ以降どうだったかってことか。武尊は考える風にする。隣にいる啓太たちを見やる。話していいものか。

「先生なら、聞かなくても知ってるんじゃないですか?」

「意地悪な答えですね」

くすくすと斎はまた笑った。武尊は斎の方を向かずに言った。

「あったと言えばありましたよ。小さなのが」

「そうですか」

大変でしたね。と斎は笑うだけだ。何かアドバイスをくれるわけではない。

―完全に傍観だな

それがいいのか悪いのか、武尊には分からなかった。

「お!いたいた!」

大きな声が割り込んできたのは武尊が先生のスタンスについて考えている時だった。

「お前だろ?貴輝の代わりに金色の使い手になったのは」

金色の使い手、で自分に話しかけているのだと判断して、後ろを仰いだ。酔っぱらった若い男二人が肩を組んでそこに立っていた。

―速いな

もうそんなに飲んだのかと武尊は少々呆れた。

康兄やすにい!そんな言い方やめて!」

飛んできたのは千穂の声だ。見れば、千穂が立ち上がって男たちを睨みつけた。

「貴ちゃんの代わりなんて、言わないで」

声が少し震えていると思った。珍しい千穂の姿に武尊は目を見張った。

「いけねぇいけねぇ、貴輝は千穂の地雷だったな」

康兄と呼ばれたのとは別の男性が額を叩きながら笑った。その豪快な笑いに、武尊は現実に帰ってくる。

光兄ひかるにいも!うるさいな!」

「それで、俺に何か用ですか?」

このままでは収拾がつかなくなると思った武尊は男たちの注意を自分に戻した。その作戦は成功する。

「いや、用ってほど、用じゃないんだ」

康兄と呼ばれた方が鼻の頭を掻いた。

「ただよーちょっと顔を見てみたくてな」

光兄と呼ばれた方がにかっと笑った。そう言われて、武尊はくるりと男たちの方に体を向けた。これでよく見えるだろうと武尊は思った。しぱしぱと目を瞬かせて、二人は武尊を見た。そして男同士顔を見合わせる。そしてあっはっはと大きな声で笑いだした。

「こりゃ男前だな!」

「やっぱ都会の人間は違うな!」

それだけ言うと満足したのか、じゃあなと手をあげ去って行く。千穂はまだ二人を睨んでいたが、距離ができると座った。

「なんだったんだ?康兄と光兄は」

そんな言葉と一緒に二人の背を見送ったのは啓太だ。それにちらと視線を投げてから、武尊は元の位置に戻る。

「ただ見に来ただけでしょう」

よそ者を、とは言わなかった。

「皆、あなたに興味を持っていますよ」

「そうですか」

ただの餓鬼なのにと武尊は斎の言葉に笑った。

「そんなことはありません。あの剣を持てるというだけであなたは実力者なのです」

「そこらへん、よく分からないんですよね」

「それだけあなたの力が強いのでしょう。自分がどう見えるか、分からないでしょう?」

「分かりません」

「あなたはとても魅力的に見えます。それと同時に恐ろしくも見えます」

「・・・・・・俺はどうすればいいんですか?」

「あなたのままでいればいいのです」

「・・・・分かりました」

武尊は斎から視線を外す。本当はよく分からなかった。どう見えるか知って、それから自分がどうするべきか分からない。しかし、斎は今のままでいいと言う。それじゃあお言葉に甘えて今のままでいようと決める。

 そんなことに頭を使っていると、また声が降ってきた。

「お前か?貴昭たかあきの息子というのは」

己の父の名に、武尊はすぐに後ろに首を巡らせる。そこには強面の、がたいのいい男が立っていた。

「そうです」

何か?と武尊は視線で問うた。男は名乗った。

「俺は龍堂貴弘りゅうどうたかひろ貴昭たかあきの兄―お前の伯父だ」

その言葉に、武尊は立ち上がった。いつもより、武尊が小さく見えると千穂は思った。

―おじさん、体大きいからな

「初めまして。二階堂武尊です」

武尊は軽く頭を下げた。貴弘は厳しい目で武尊を見下ろした。

「似てないな」

「母親似なので」

それだけの会話なのに、空気が緊張する。貴弘から漂う空気のせいだろうか。

―いつもは優しいのに、今日はなんだか怖い

千穂は食べるのをやめて二人を見つめた。

「・・・・・・剣を見せてくれるか?」

「顕現すれば」

「できないのか?」

「大体出てきますけど、稀に出ないときがあります」

そう言って、武尊は手を軽く握ると、素振りでもするように手首を振った。すると、黄金の剣がその手の中に現れる。周囲がどよめいた。

「持ってみます?」

「いや、いい」

貴弘は武尊の申し出を断った。

「その剣は使い手を選ぶ。お前以外が触ったらどうなるか分からん」

「分かりました。―もういいですか」

「ああ」

武尊は剣をしまった。またどよめきが起きる。

「きれいだったな」

「神々しいな」

そんな会話が聞こえる。

「その剣は」

「はい?」

「今の剣は、本当なら貴輝が持つはずだった」

「―そうですね」

武尊は肯定した。千穂たち四人は、貴弘の言葉に体を緊張させる。武尊に何を言うつもりだろうか。

「しかし、貴輝は死んだ」

「知ってます」

「っ!なぜあいつの息子が!」

「貴弘」

斎が名を呼ぶ。それだけで貴弘は口をつぐんだ。

「終わったことを嘆いても仕方ありません。私たちは進むしかないのです」

「・・・・・・分かってます。分かっていますとも」

「では、去りなさい。気持ちはわかりますが、今のあなたは冷静ではない」

「はい。―失礼します」

貴弘は顔をゆがめて去って行った。斎は深々と頭を下げた。

「すみません、貴弘があなたに失礼をしました」

「いえ、いいんです」

武尊は腰を下ろした。

―こんな田舎に来たんだ。招かれざる客だったとしても不思議はない

少し腹が減ったと、武尊は箸を持って唐揚げに手を伸ばしたのだった。


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