始動2
「釣れないな~」
「釣れないね~」
啓太と千穂は釣り竿から糸を川に垂らしながらそんな言葉を交わす。
―川遊びをしようと相成ったのはよかったのだが、泳ぐのもそろそろ飽きたということで釣りでもしようという話になったのだ。近所の男性から三本釣竿を借りて来た。今最後の一本は樹が持っている。
「あ!ひっかかった!」
樹が立ち上がり竿を引く。ぴゅっと川面から小さな魚が姿を現した。
「やった!」
「いいな~」
千穂がうらやましそうに樹を見る。その時、ぴんとひかれた。
「来た!」
千穂も立ち上がり竿を引く。樹と同じように小さな魚が釣れた。
「わー!夜ご飯になるかな!」
「お母さんが考えて買ってくるだろうからいらないでしょ」
「未海はお魚嫌いだもんね」
「別に嫌いじゃないわよ!好きじゃないだけ!」
待機組の未海はぎゅっと両手を握って抗議した。この抗議の仕方からして魚が嫌いなのは本当らしいと武尊は思う。
「よく釣れたわね」
壱華が、千穂が釣ってバケツに入れた魚をつんつんと突っつく。
「なんかかわいい」
ふふっと壱華は笑った。
「なんで俺だけ釣れないんだ?」
啓太は不服そうな顔をしている。武尊が見ると、啓太の竿の先がちょんちょんと揺れていた。
「啓太、掛かってるんじゃない?」
「そうか?」
啓太は竿を上げてみる。見事に魚が掛かっていた。
「何?気づかなかったの?」
何やってるのよと壱華が啓太の背を軽く押した。
「もっとぐっと引かれるかと思ってたんだよ」
「二人の見てたらちょいちょいってくらいだったじゃない」
「・・・・・・見てなかった」
「もう!」
今度はちょっと強めに押す。
「押すなよ~危ないだろう」
「これくらい平気でしょう」
ぱしっと背中を叩いて啓太から離れる。待機場所に戻ってくる。
「もう少ししっかりしてくれたらいいんだけど」
壱華はやれやれと首を横に振った。
「私はお姉ちゃんが魚に引っ張られて川に落ちるかもって心配してた」
「落ちなくてよかったね」
「本当ですよ」
未海はまだ魚嫌いをばらされたことを気にしてるようだった。武尊は気になっていたことを聞いてみる。
「今更なんだけど」
「なんですか?」
未海は首を傾げる。
「なんで、未海は俺にだけ敬語使うの?」
「・・・・・・嫌ですか?」
「別に嫌って程でもないけど。壱華と同い年だし、俺は啓太とため口で話すし、なんでだろうと思って」
「壱華と啓太は幼馴染で昔からため口だったから」
ていうか、
「よその人で年上の人が来たの初めてなんですよ。だから敬語かな~って」
「ため口でいいよ」
「そうですか?」
「うん」
呼び捨てで良いし。と武尊は平べったい小石を拾うと川に向かって投げた。水きりだ。
「すごい!」
千穂がぴょんと立ち上がる。注意が釣りから水きりに移ったらしい。
「私もそれする!」
千穂は武尊の方にやってくると石を選び始める。
「薄っぺらいのがいいんでしょ?」
「そうだね」
「お姉ちゃん、釣り竿持ったまま危ない」
「はい。代わりにやってて」
「嫌よ」
「壱華ちゃんする?」
「じゃあ、せっかくだから」
壱華は千穂から釣竿を受け取ると啓太の隣に座った。ひょいと糸を川に垂らす。
「ねーねー武尊!どうやって投げたらいいの?」
武尊はため息をついて千穂の後を追った。
るんたるんたと千穂はスキップしながら道を歩いていた。もう日差しが傾いている。千穂の影は長く伸びていた。
「案外釣れたな」
釣れた魚は全部川に戻した。啓太は竿を三本持って歩いていた。バケツは樹だ。結局後半からは水切り大会になった。一番うまいのは啓太でその次が武尊だった。
「釣りなんてめったにしないから結構面白かった」
水きりの間に武尊も釣りをしていた。幼い時に陸に連れられてやったことがある気がするが、よく覚えていない。
「武尊、釣りもして石投げもして大変そうだった」
千穂がスキップの速度を遅めて武尊の隣に並ぶ。
「まあ、もうちょっと釣りに集中してもよかったかなとは思う」
武尊は千穂の言葉に頷いた。
もう少しで村の外れに着くところで、茂みががさがさと鳴った。武尊は剣を構えた。
―悪い気配はしない
敵ではないのかと思った時、一人の男が飛び出してきた。男性は武尊にしがみついた。
「頼む!助けてくれ!」
「何?どうしたの?」
男は混乱してるのか助けてとしか言わない。
「太良さん!どうしたの?」
千穂が顔を覗き込む。
「落ち着いて」
啓太が釣り竿を地面に置いた。
「助けてって誰を?」
「俺の、俺の息子だ!」
「康兄ちゃんが!」
千穂は叫んだ。武尊のシャツを引っ張る。
「助けてあげて」
「分かってるよ。でもちゃんと話してもらえないと」
「森を歩いてたら、祝いの時に出てきたような妖が出てきて!」
「どこ!案内して!」
「こっちだ!」
太良は武尊の手を取って走り出そうとした。
「私も行く!」
千穂が武尊について来ようとする。太良は首を横に振った。
「だめだ、千穂は危ない。家に帰ってろ」
「でも―」
「千穂、戻ったほうがいい」
武尊もついてくることをよしとはしなかった。
「じゃあ、樹と啓太と未海は一緒に千穂と帰って。私が武尊と一緒に行くわ」
壱華が名乗り出る。
「それで行こう」
武尊は足を動かし始める。太良は複雑そうな顔をしたが、すぐに歩き始めた。
「こっちだ」
二人は太良の案内について行った。




