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5.始動1

 ちゅんちゅん、ちゅんちゅん。今日も今日とて平和な音から一日は始まった。のそりと武尊は上体を起こす。枕の横では碧がこてんと転がっていた。ぬいぐるみなせいで呼吸もしないから、生きているのか死んでいるのかも分からない。じっと碧を見る。するともぞもぞと動いて、黒い目が仄かに青い光を灯した気がした。

「おはよう!武尊!」

碧はぴょんと跳んで体を起こした。

「おはよう、碧」

そう言えば、嬉しいのか左右に体を揺らす。その姿は愛らしい。ポスポスと頭を撫でた。しかし、碧から見れば叩かれただろう。それでも碧は嬉しそうに揺れているのだった。

 顔を洗って来ようと武尊は立ち上がる。

「うーん」

千穂が寝返りを打つ。起きたかと思い武尊は後ろを振り返った。千穂は規則正しく胸を上下させていた。まだ眠っているのを確認すると、そっと部屋を出た。顔を洗い、武尊は部屋に戻ろうと廊下を歩く。すると、階段から美緒が上がってきたところだった。

「早いのね」

美緒はそう笑った。

「おはようございます」

「おはよう。みんなはまだ寝てる?」

「寝てるみたいです」

「そう、ご飯作ってあるから食べてね。仕事に行ってくるわ」

「いってらっしゃい」

そう言えば、美緒はきれいな笑顔を残して階段を下りて行った。

―昨日行った町で働いてるんだっけ

 女手一つで子供育てるのはこの時代になってもまだまだ楽ではないだろうと武尊は思った。人によってはこの村は気味悪がられているようだし、仕事を見つけるのも大変だったかもしれない。そんなことを考えていると、バタンと扉が開いた。それに何が起きたのか瞬時に武尊は理解する。額を押さえため息をついた。その瞬間、衝撃が武尊を襲うが倒れるほど強いものでもない。視線を下ろせば、千穂が上半身に抱き着いていた。

「なんでいないの!?」

「先に起きたから」

「起こしてよ!」

「起きないじゃん」

「うう~」

「分かった分かった。ごめん。謝るから離れて」

武尊は腕を掴んではがす。千穂はうつむいていた。

「・・・・・・怖い夢見た?」

こくりと頷く。

―石が効かなかったのか?

「武尊がいなくなる夢だった」

―俺の夢?

「千穂って、自分が危ない目にあいそうなときって分かるんだっけ」

「全部分かってるかは分からないけど、八割くらいは分かってると思うよ」

「それって、夢でも分かるの?」

「予知夢かどうかってこと?」

千穂は考え始める。予知夢と認識したことはない。が―。

「武尊にまだ剣のこと話してない時に、武尊っぽい人が剣を持ってる夢は見たことあるかな」

「俺っぽいって」

それでは予知夢と断定できないではないか。

「それで、俺がいなくなるって、どんな夢だったの?」

「なんか、黒いのに引っ張られて飲み込まれていくら呼んでも戻ってこないの」

「黒いの・・・・・・」

一昨日の昼寝で見た夢を思い出す。

「その黒いのって、目、ある?」

「武尊も目がたくさんの黒い奴の夢見たの!?」

千穂が掴みかかってくる。その手を外しながら頷く。

「うん。剣を出したら逃げて行ったけど」

「そいつに私殺されかけたんだよ!」

「夢でうなされたとき?」

「そう!」

―今日の夢とは違うんだ。

「今日見た夢の黒いのには目はなかったの?」

「なかったと思う」

そう答えるが自信がないのか視線は下だ。

「気を付けたほうがいいかな」

「気を付けてー」

武尊いなくなったら怖いよ~。千穂は想像してしまったのかぐすっと鼻を鳴らした。

「気を付けるから。大丈夫だから」

そう言い聞かせる。

「本当?」

「本当」

「約束ね」

千穂は小指を出した。武尊はため息をつきそうになったが耐えて小指を出す。

「ゆーびきーりげんまん」

千穂が歌い始める。武尊は歌わず千穂の歌に合わせて手を上下させた。

「指切った!」

千穂がばっと元気よく上に手をあげた。そこを自分の部屋から出てきた未海に見られる。

「何してるの?」

千穂と武尊は答えに詰まり、顔を見合わせたのだった。


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