4.神隠しの村1
ブロロロと音を立ててバスが去って行く。今日は千穂たちが通った学校のある町へと来ていた。村と比べれば人通りは多いが、やはり田舎ではあった。車が思ったより多い。
「結構遠いね」
武尊はきょろきょろとあたりを見渡しながら口を開いた。村の最寄りのバス停まで20分、バスに乗って30分というところか。
「だから、部活とかやってなかった」
千穂は懐かしそうに目を細める。
「そうなんだ」
武尊はちらと視線を千穂にやる。―川にも森にも行ったから、今日は町に出てみようと言う話になったのだ。未海はついては来なかった。
町はこじんまりとした個人商店が多い印象を受けた。
「商店街を抜けたら大きなお店あるからそこに行こう」
千穂がてくてくと歩きだす。それに幼馴染集団はついて行く。一番後ろを歩きながら迷いのない四人の足取りに武尊は思う。
―遊ぶって言っても、その店しか遊ぶところないのかな
―というか、父さんが子供の時からあった店なのかな
思えば、自分がいま過ごしている村は父親の故郷だ。
―どんな子供だったんだろう
幼い時から食えないやつだったのだろうかと武尊は父親の顔を思い浮かべる。いつでも柔和に笑っている読めない男だ。それが武尊は腹立たしい。
―いつもへらへら笑って
ぶすっとした顔をしていると武尊は啓太の背中にぶち当たる。
「あ、ごめん」
「平気平気」
鍛えているからか、啓太は動じなかった。
「珍しいな。何か考え事でもしてたのか?」
「まあ、ちょっと」
見れば信号機が赤になっていた。それで止まったのかと武尊は内心合点がいく。
信号が青になると再び歩き出す。目当ての商業施設にはすぐ着いた。車社会だからだろう、駐車場がひどく大きい。それを武尊は物珍し気に見つめる。
「何しようか」
「せっかくそろってるし、プリクラでも撮る?」
「それもいいね」
女子組が話を進めてしまう。それでも男子組二人が突っ込まないのは町に出ても大してすることがないからだろうと武尊は考えた。
店に入り、目の前のエスカレーターに乗る。三階まであがると、そこは小さなゲームセンターのようになっていた。何組か同じ年頃の少年少女がいたが、基本的に空いている。奥に数台プリクラ機と思われる箱がある。一台選びそれに五人で入る。樹以外の四人で百円玉を出して入れる。ポップな曲が流れ始めるが、男子組は全部女子組に任せて黙っていた。
「まずはー女の子が前でー、次は入れ替わろうか」
「そうね」
目の大きさを選びながら千穂と壱華が会話をする。
―目、大きくしちゃうんだ
―もう大きいのにな
武尊は二人の背を見ながらそんなことを考える。ちなみに二人は色も白くなるように設定していた。二人とも焼けたとはいえ元は白いのにと思ったのは必然である。わちゃわちゃと騒ぎながら撮影を進め、落書きは千穂と壱華に任せる。できた写真では、当然みな目が大きく強調され、色白になっていた。
―これの何が面白いんだろう
切り取られて渡されたシートを見ながら武尊はどこかぼうっとそう思った。啓太と樹の表情もパッとしないから同じことを思っているのだろう。
―まあ、記念撮影って考えれば安いか
財布に入れて、歩き出した千穂と壱華の後を追った。
ゲームセンターで少し遊んだ後、店を出てファミレスに入る。そこで昼食を取る魂胆だった。
「何にしようかな~」
啓太が機嫌良さそうに鼻歌を歌いながらメニューを見る。ハンバーグにするところまでは決まっているらしい。隣に座っている武尊からは啓太の開くメニューが良く見えた。
「これにする!」
啓太が指さしたのはハンバーグが二つ乗っているメニューだった。啓太らしいと思いながら武尊はメニューを自分の方へ引っ張りめくる。別段何が食べたいというのもなく、武尊は啓太と同じメニューにした。
樹と壱華はオムライスにしたようで、千穂は冷製パスタにしていた。
「お昼は何しようか」
千穂の問いかけに四人は考える。
「映画館でもあればよかったんだけど」
壱華が言う。それにそうだねと樹が頷いた。啓太は食事で一生懸命だ。
「―学校とか、どの辺にあるの?」
武尊が口を開いた。千穂たちが通った学校はこの町のどこに位置しているのか少し気になったのだ。
「学校かー」
壱華がスプーンを止めて考える。
「まだ先生たちいるのかしら」
「俺ら、先生たちとそう仲良くなかったぞ?」
啓太が食べ終わり入り込んでくる。
「確かに」
千穂はうんと頷いた。
「外側だけ見る?」
壱華が武尊を見る。武尊は頷いた。
「やること他にないなら」
「じゃあ、それでー」
樹がぱくりとオムライスを口に運びながら言った。午後の予定が決まった。
それぞれ完食して料金を支払う。武尊は四人の後ろを歩いて店から出る。四人がどのバスで村まで帰るか調べていると、少し外れて立っていた武尊に声が掛かる。
「あんたさ」
「え?」
武尊は振り返る。そこには武尊と同じくらいの年と思われる少年が立っていた。見覚えがあると思ったが、さっきのゲームセンターで見かけた顔だと思いだす。
「あいつらの友達?」
顎でしゃくる先には千穂たちがいる。武尊は頷いた。
「そうだけど」
「やめといたほうがいいよ」
「何が?」
武尊は眉を顰める。少年が言っている意味が分からない。
「だって、あいつらの村、行方不明者が出るって有名だぜ?」
「行方不明者?」
そう言えば、千穂の父親も行方不明だと言っていた。
「よそ者が?」
「いや?村の住人でも姿を消すことがあるんだと」
だから
「俺たちは絶対にあの村にはいかない」
武尊が視線をやれば、離れた場所にいるこの少年の友人だと思われる少年たちがこちらの様子をうかがっていた。心配そうな顔をしている。
「分かった、ありがとう。気を付ける」
武尊はそうとだけ残すと千穂たちの方へ足を踏み出す。
「忠告はしたからな」
武尊は無言で手だけ挙げて返事をした。




