黒い影5
お昼は啓太の家でそうめんを貰って食べた。今朝の朝食は千穂の家でごちそうになったから、昼はうちでと言われたのだ。その後は千穂の家に戻り一階の和室でゴロンと横になって昼寝をした。昼寝中にあの夢を見ることはなかった。昼寝から全員が目を覚ましたのは午後二時ごろだった。
「あつ~」
啓太が扇風機を占領する。その頭を樹が軽くぽかりと叩く。
「恥ずかしいから独り占めとかしないで!」
「え~」
啓太は不服そうにしながらも扇風機から離れる。樹が回るよう首のつまみを押した。生ぬるい風が動き始める。
「武尊の別荘涼しかったな~」
まだゴロンとなりながら啓太が思い出すように言った。
「別荘ってどんな感じなの?」
未海も啓太の頭の近くに自分の頭があるように転がる。瞳には興味深々と書かれていた。
「どうって、こう木を組んだ感じの外観で、二階建てで、全室クーラー完備で、風呂が超きれい」
「いいな~」
未海はうっとりとつぶやいた。
「ねーねー武尊。今度別荘に遊びに行くときは未海も一緒に良い?」
「いいんじゃない?今更一人増えようが減ろうが変わらないでしょう」
「え?いいんですか?」
未海が上半身を起こしながら声を上げる。武尊は頷いた。
「うん。たぶん、千穂の妹って言えば一発で通ると思う」
「誰を?」
樹が首を傾げる。武尊は苦々しげに言った。
「母さん」
「「ああ~」」
樹と壱華はなんとなく分かってそんな声を出してしまった。
ピンポンとチャイムが鳴る。それに続いてガラガラと玄関を開ける音が聞こえてくる。
「おーい!千穂、いるかー」
「スイカ持ってきたぞ!」
「スイカ!?」
男の声が玄関から響く。その声に反応したのは啓太だった。しゅたんと素早い動きで立ち上がるとどすどすと廊下を歩いて行く。
「啓太ってスイカ好きなの?」
「「好物」」
武尊の質問に弟と壱華は声を合わせて答えた。それに、そっか、とつぶやいて武尊も廊下に出た。玄関にいたのは、昨日酔っぱらって話しかけて来た康兄と呼ばれていた男と光兄と呼ばれていた男だった。
二人は武尊を見つけると手を上げて見せた。
「よう!金色の使い手!」
「二階堂武尊って名前があるんですけど」
「じゃあ、武尊って呼ぶわ」
「そうだな」
二人は何が面白いのか笑って顔を見合わせた。
「あれ?啓太は?」
「スイカ受け取って切りに行ったぜ」
康兄と呼ばれていた男がちょいちょいと居間の方を指さした。
「もう!人の家を勝手に使って!」
壱華が怒って追いかける。
「あ!私が切るよ」
未海も続く。
「未海は良い嫁になりそうだな~」
「康兄!光兄!」
千穂がぴょこぴょことやってくる。二人は家に上がりながら笑いかけた。
「よう千穂!」
「今日も小さいな」
「小さくないもん!」
「だよな~小さくないよな~」
「なんかその言い方むかつくよ、康兄」
「悪い悪い」
けらけらと康兄と呼ばれた男は笑った。武尊は懇意そうな青年二人を見つめる。
「兄って言ってるけど、別に兄妹ってわけじゃないでしょ?」
「こんなに弟と妹がいたら大変だよ!」
あははと光兄と呼ばれた男が笑った。そして手を差し出す。
「南野光だ。大学生で今地元に戻ってきてる」
「太良康恩。光と同じ大学で同年だ」
よろしくな武尊、と二人同時に笑顔を向けられる。武尊は一瞬迷ったが光、康恩の順で握手を交わした。
「スイカ切れたよー」
未海の声が居間から響いて来た。
康恩と光はスイカを食べると帰って行った。川で泳いでくると言っていた。
「なんというか、パワフルな人たちだね」
武尊は言葉を選んでそう言った。
「面白いでしょ!康兄と光兄!」
小さい時、よく遊んでくれたんだと千穂は笑う。
「二人とも同い年だから仲が良くて」
「まあ、そうだろうね」
未海の説明に武尊は頷いた。
「この村で子供って枠にはまるのは私たちとあの二人くらいね」
「少子高齢化の極み」
壱華の言葉に樹が苦い顔で付け足した。
「スイカ美味かったな~」
啓太が緩み切った顔でそう言った。
「まだ食えるな」
こんなことまで言い出した。すると壱華の携帯が振動した。壱華が携帯を見る。方眉を器用に上げてから言った。
「―スイカ切ったからいらっしゃいって」
「季節だもんね」
樹が苦笑する。
「行く行く~」
啓太がだらけ具合から考えられないほどの超速で立ち上がる。武尊はその速さに目を丸くし、樹はため息をついた。残りの女性陣は無視した。
「あのさ、思ったんだけどさ」
「何?」
武尊の問いに、壱華が反応する。長い髪が振り返るときにふわりと舞った。
「碧つれてっていいかな」
「碧を?」
「この村の人、そういうのに免疫あるんだったら連れて回ってもいいかなって」
「そうねー」
「あの、碧って」
「俺の使い魔」
未海に武尊が説明する。未海はまた目を輝かせた。
「使い魔がいるんですか?先生だって、若い時にしかいなかったって聞いてますよ!」
「そうなんだ」
斎を引き合いに出されてもどれくらいすごいのか武尊には分からなかった。
「碧は歩いて回らないほうがいいかも。使い魔がいるって本当に強いって証だし、皆怖がっちゃうかも」
「そっかー」
「それに、使い魔を隠しておくことで切り札にできるかもしれないし」
「分かった。碧は留守番させとく」
「私は!私は会ってもいいですか!?」
「別にいいけど」
未海の勢いに、武尊は頷いてしまう。少し考えてから言う。
「上に行こう。部屋にいるはずだから」
武尊は未海と一緒に二階に上がっていた。障子を開けようとして、未海に振り返る。
「飛び出してくるかもしれないけど、気にしないで」
「分かりました」
未海は頷いた。武尊はそれを確認して障子を開ける。
「武尊~」
ぴょんと武尊に飛びついて来たのはウサギのぬいぐるみだ。未海はそのウサギをまじまじと見つめた。
「これ、お姉ちゃんのぬいぐるみ」
「何かに入ってないと、使い魔とはいえ武尊の霊力にあてられて消えちゃうから」
碧は子供のような声で説明する。未海は、ちょんちょんと碧を突っついた。
「でも、これ、貴輝とおそろいの―」
未海はそう言いかけて慌てて口を押える。しかし、武尊の耳はしっかり拾っていた。
「やっぱり大事なものなんだ?」
「そう!銀の器が大事にしてたものだから、すごく強いよ!」
武尊の問いになぜか碧が答えた。
「強いって、どういう意味で?」
武尊は眉をひそめた。ちゃんと説明しろと促す。
「銀の器の思いが注がれてる。それだけでこれはもうただのぬいぐるみじゃない。もう魔具と言ってもいいね。だから妖である俺と相性がいい!」
「そう、なんだ」
分かったような分からないような説明だったが、とりあえず武尊は分かったことにした。
「碧。出かけてくるから、留守番頼んだよ?」
「またお留守番~」
えーっと碧は不服そうだ。
「昨日妖の大群が入ってきた話はしたでしょう?この村の中に敵がいる可能性が高い。碧の存在は知られていないはずだから、切り札になるときが来るかもしれない」
「分かった!俺おとなしくしてる!」
切り札と言う表現が気に入ったのか、碧は部屋の中におとなしく戻って行った。
「行ってらっしゃい!」
どこで覚えたのか敬礼をする。
「じゃあ、またあとで」
武尊はそう言って障子を閉めた。
「行こう」
武尊は未海と一緒に一階へと下りた。そこではもう靴を履き終えた啓太と千穂と樹と壱華がいた。
「待たせたね。ごめんね」
「いいって!さあ行こうぜ!」
啓太がうきうきしている。
「スイカ本当に好きなんだね」
武尊は靴を履きながら問いかけた。啓太は輝かしい笑顔で答えた。
「大好物!」




