253幕間 辰砂とイルの1分クッキング 思い出深き鯵の南蛮漬けスペシャル
「鯵の南蛮漬けを作る」
「今日も唐突ですね? 鯵ってウンメーアジのこと?」
「うん、そうです。あれの小さいのを使うことが多いね、ほらこれ」
「あ、小さい。辰砂の手のひらより小さいくらいですね、確かイッテツさんとこので見たのは辰砂の手のひら二つ分くらいあった気が」
「あれは鯵としては相当立派だよ。あそこまで立派だと何にしても美味しいし、一匹で一人分ある。これはどうしても食べるところが小さいからね」
「いつも思うんですけど辰砂は魚の扱い慣れてますよね。話しながらも鯵の頭が落とされていきます」
「まあ、魚食べるの好きだからね。ちなみに15cmくらいしかないなら頭ごと使うけど、18くらいあるとタッパーに詰めにくいから私は頭を落とします」
「ふうん?頭がない分、腹の切れ目から内臓を出しやすいみたいですね。これくらい小さいと、内臓も小指くらいしかないなあ。いつか見た鰤? でしたっけ、あれはすごい量でした」
「あれは1メートルあったじゃない……比べる対象が極端だよ。さて、腹を開けたら腹腔をしっかり洗います。で、ぜいごを取る」
「ぜいご? ああ、その棘みたいなやつですか」
「そう、これあると食べる時邪魔だからね。噛み砕けないレベルで硬いから。尻尾からこれに沿って細かく刃を動かしながらそぎ取るよ。両面にあるからひっくり返してもう一回、あ、イル、ちょっとキッチンペーパーで鯵の水気をめっちゃしっかり取ってほしい」
「うん? 辰砂がお手伝い頼むの珍しいですね。いいですよ。キッチンペーパーってこれですか、洗った鯵を抑えて……と、あれ、尻尾が水っぽい」
「(いそいそしてる……もしかしていつも暇だったかな)うん、尻尾とヒレ、あと腹の中に水が残りやすいからよろしく。さて、漬け汁を作っていきます。まず酒とみりんを同量鍋に入れてアルコールを飛ばします。もしも家で漬けてる梅酒があったなら、梅酒を少し足して香りづけしてもいいでしょう。市販のは甘すぎるものが多いので勧めづらいです」
「辰砂、綺麗に拭きましたよ。次は何しましょう?」
「ん、ちょうどいいところに。この玉ねぎの茶色い皮を剥いてくれるか」
「はい、いいですよ。ん……結構ぴったりくっついてるから剥きづらいですね」
「(やっぱり欲しがってる……?)頑張れ、一個でいいからね。さて、煮切った酒とみりんに加えるのは、揚げた後の鯵が浸かるかなあくらいの量の出汁と大匙2〜3杯の砂糖です。お出汁は水とだしの素でも大丈夫。砂糖が溶け残ることが多いので、もう一度弱火にかけても良いですね。でも溶けたら火から下ろしておいてください。好みでこのタイミングで鷹の爪を入れましょう」
「辰砂、きれいに剥けましたよ。むむ? 見たことない変な器具ですね? 俺にくれたってことはこれを使うんでしょうけど」
「うんありがと。さて今渡したのはスライサーと言い、玉ねぎをこの刃の所に擦り付けると薄切りが素早くできる優れものです。ただしうっかりすると指を切るから気をつけるようにね」
「擦り付ける? ああ! 凄い! ペラペラですよ! なんなんですかこの発想、作った人は天才ですね」
「そうだねえ、天才だと思う。厚さも一定だもの。さて、砂糖が溶けた漬け汁に塩で味をつけ、大方味が決まってから醤油をちょろんと垂らします。香りづけくらいのつもりで、入れすぎると黒々しくなっちゃいますから。塩の加減は、汁に玉ねぎと鯵をぶち込むことを考えてきつめかな? くらいに決めておきましょう。で、自分の好きな量好きな酢を入れて完成です。私はリンゴ酢を使います」
「玉ねぎ切れましたよ〜」
「早いなあ。さすがイル、Dex値1500だ。じゃあこの鍋にぶち込んどいてくれるかな? それが終わったら、ちょっと待機です。じゃ、油を温めようかな」
「はあい〜」
「よろしくね。さて、鯵を揚げるのですが、衣をつける派と素揚げ派と別れます。私は素揚げ派なので、何もしません。衣は小麦粉か片栗粉かをまぶすだけで良いですから、どれくらい味を含ませたいかで使い分けるのもアリだと思いますよ」
「わ、じゅわっと賑やかですねえ」
「うん、揚げ物は結構音が楽しいんだ。あれ、ボウルとか洗ってくれてるのか。ありがとう」
「ううん、いいんですよ。だって早く食べたいですからね!」
「そ、そっか(今日は漬け時間が必要な料理なんだよ……)えーととりあえず揚げていくよ。揚がったら油をちょっと切って漬け汁にぶち込みます」
「入れるたびにジュって音がしますねえ。熱々なんだろなあ」
「この熱いうちに入れるのが味を馴染ませるコツみたいだね。さーじゃんじゃん揚げていきましょう、そしてこっそり小鍋に再び酒みりんを煮切り、砂糖と若干の水と醤油と少しの酢を入れて別のタレを作っておきます。さっきのよりかなりきつくて大丈夫、そして一部の鯵だけ小麦粉を叩いておきましょう」
「ねえ辰砂、ところでこの鯵はお裾分けですか?」
「よくわかったね。なんかいつもはイカ釣りに行く誰やらが、本がどうとかで緊張しちゃって遠征どころじゃないらしくて、近所で釣れる鯵で済ませたらしい」
「ああ。道理で今年はイカ食べてないと思いました。にしても本? 何でしょうねえ」
「さあ。頑として教えてくれなかったからなあ……さて、南蛮漬けがひたひたになりましたからこれはこれで出来上がり。あとは何時間か、できれば一晩くらい冷蔵庫で置いといて食べると美味しいですよ」
「……え」
「はいはい慌てない慌てない。まだ揚げてる鯵があるでしょう? これを揚げきったらこっちのタレにくぐらせて、すぐ引き上げて、胡麻を振ります。さ、食べよう」
「ええっ」
「これは南蛮漬けじゃないけど、南蛮漬け風味の唐揚げです。せっかく頑張ってくれたから、ご褒美。骨は食べられないから丸かじりはできないけど」
「えっ、あ、いただきます? あれ。タレにつけたのにカリッとしてる。あふっ、熱い」
「この熱々が身上だからね。どれ、私も一ついただこうかな。うん、揚げ物だけどさっぱりして食べやすい。唐揚げレモン厳禁派は嫌かもしれないけど」
「なんだろ、アジフライとは全然違いますね。ううんでもこれも美味しい。周りは塩気が強くて、身はホクっとして……」
「本当はタレの塩味をもう少し和らげて、鯵に軽く塩胡椒するとバランス取りやすいんだけど。まあこれはこれでありかな」
「そうなの? 十分美味しいと思いますけどねえ。はあ美味しかった。えっとそれで辰砂、南蛮漬けは……」
「うん、あれはまだ5分も経ってないから……ごめんって、先に言っとけば良かったか、明日食べよう、ね。それではお時間参りました、また次回。ごきげんよう」
「ううっ全然大丈夫ですから、ごきげんよう〜」
(2ndSeasonエンドロール)
(Special thanks:イナンナ父)
(エンドロール続き)
我が家では季節になると、来る日も来る日も南蛮漬けが食卓にありました。
なぜか同じ味にはならないのですが、今も時々食べたくなって作ります。
思い出の味。




