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イルの秘密の資料集  作者: イナンナ
番外編 幕間劇場
34/46

205幕間 わりとしあわせになった蛇の話

ワタシの記憶は曖昧だ。いつからここにいたのかもわからないし、自分がなんなのかもわからない。


暑いのと痛いのとお腹空いたという思いだけが我の記憶の全てだった。


お腹が空いているから、さらさらを上がったり下りたりした。時々さらさらが我を埋めたけれど、身体をよじらせれば抜け出せた。どこまで行っても、食べられるものは見つからなかった。


段々さらさらから抜け出すのが大変になった。なにも見つからない。おまけに、たまに見つかる動くなにかに食べられそうになるので、さらさらにうずもれることを覚えた。そうしてやりすごした。


何度も明るくなって暗くなって、でも我の食べられるものは見つからない。さらさらのてっぺんから周りを見ても、ずっとさらさらが続いている。どこまでいけばいいのだろう。


なんだか、進もうと思えなくて我はさらさらにうずもれた。行かなくちゃと思うけれど、どうせ何も見つからないのだとも思えた。身体がとても重たいのだ。


後から知ったけれど、このときの我を『死にかけ』というらしい。『死ぬ』と、何もわからなくなって丸いのにも白いのにも涼しいのにも会えなくなるらしい。死ななくてよかった。


動かなくなってどれくらい過ぎたのかはわかってない。何回か風がひどくなって我を深く埋めたので、何回くらい明るくなったのか暗くなったのかもわからなくなった。さらさらが重たくなってきて身じろぎ一つとれなくなって、しばらく。


急に何かに押し上げられた我は、空を進んでそのまま落ちた。明るいのは久しぶりだ。なにがどうしたのかわからないので、我は周りを見まわした。動く前と変わらないのは、さらさらと青。と、ものすごく大きな塊。


さらさらのてっぺんよりずっと大きい塊がいつの間にか我の後ろにあった。大きくて丸い。さらさらに近いところはぼこぼこしている。危ない物ではなさそうだった。


もう一度うずもれようにも身体が言う事を聞かない。仕方なしにそのままじっとしていた。多分、このころは意識が途切れがちだったのだ。どれくらいそのままいたのかもわからない程度には、我は疲れ果てていた。


突然だった。我は空にいた。落ちる先に見えたのは、丸い塊。目が合ったと思う。それでわかった。塊は動くものだったのだ。今まで見た動くものと違いすぎてわからなかった。


我はほどなく丸いののでっぱりの上に落ちた。後に丸いのは、このでっぱりを『頭』だと教えてくれた。


丸いのは我が乗っかっていても気にせずにどこかに進み始めた。我が進むよりもずっと速い。そうして丸いのはおもむろに止まり、我を落とした。とげとげに囲まれて身動きが取れない。


丸いのはしばらく我ととげとげを見ていた。それからとげとげをばりばり音をさせながら食べてしまった。とげとげは食べ物だった。我も食べてみようとしたけれど食べられなかった。とげとげが痛い。


丸いのはとげとげをいくつか食べて、我がとげとげを食べないのを見てとったらしい。我はくわえられて宙に放られ、また『頭』に乗せられた。


丸いのは何度か形の違うとげとげを我に食べさせようとしている風だった。でも我はとげとげは食べられなかった。丸いのが我をくわえる前に、『頭』をひねったのが見えた。


何度も投げられて、自分が上を向いているのか下を見ているのかわからなくなっていた。もう舌の先すら動かせる気がしなかった。だから、白いのと涼しいのと出会ったのは気分的にはあっという間だった。


白い動くものと、涼しい感じの動くものが丸いのの前にいて、白いのがじっとこっちを見ていた。嫌な感じはしなかった。涼しいのは最初怖かったが、丸いのが我を落として小さくなってからは怖くなくなった。


白いのが我と丸いのを拾い上げて音を出した。今なら聞き取れるそれは『声』というものだ。つたえるための意味のある音。


この白いのが我にご飯をくれる。むにむにしたうごうごだ。食べるとうごうごの命が我に溶けるのがわかる。白いのはしょっちゅう動かなくなるけど、ご飯は置いといてくれる。白いのは優しい。


うごうごをいっぱい食べているので、だんだん大きくなってきた。もっと大きくなったら『声』が出せるかもしれないと思って一生懸命食べている。あと、丸いのとくっついてると、丸いのの思ってることが伝わる。丸いのにいろいろ教えて貰って、いつか『声』を出すのが今の我の目標である。



蛇足。

白いの=辰砂

涼しいの=イル

丸いの=亀ちゃん


無知過ぎて語彙が少ない、という。

平易に表現するのって難しい。

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