204幕間その② 辰砂とイルの1分クッキング今度こそ鰤大根スペシャル
「さあやってきました鰤大根!さあ辰砂!作りましょう!」
「う、うん。待たせてごめんね。さて、前回バラしたアラがこれだ」
「割った頭と、カマでしたっけ?と……三枚おろしにした残骸も使うんですね」
「残骸扱いするんじゃないよ。こんなに大きいと残った身だってたくさんついてるんだから、骨周りの身をたっぷり堪能できるんだ。さてこれらにまんべんなく塩をふります」
「えっそんなにかけちゃって辛く無いんですか?結構ばっさばっさかかってますよ」
「ああ、この塩は生臭さを含んだ水分を吸いだす為の塩だから。後で洗い流すから、現時点では気にしなくて良いんだ」
「そうなんですか、一安心です。それにしても塩するだけで臭いが取れるなんて不思議な話ですねえ」
「んー(浸透圧とかあれこれ喋ると尺が足らなくなるのでスルー)、ま、塩が水を吸う事だけ覚えておけばいいよ。ざるに広げていったん放置したら、大根の皮を剥こうか」
「大胆に切るんですね。こんなに厚い輪切りは初めて見ました、ところで皮は剥かないままで良いんですか?」
「大根って大きいだろう?ずっと持ってると重たいんでね。輪切りにするとぶったぎった後に桂剥き出来るから楽でいいんだ、ほら、こんな感じ」
「あー、それだと手に収まるからやり易そうですね。帯がするするして面白いですねえ」
「この桂剥きを利用して花を作ったりもできるんだ。用意した大根がちょっと多いから、一つ作ってあげよう」
「あー、薄いから自然にたわんでいくのかあ。それがすごく花びらっぽく見えてくるんですねえ……これって練習が必要なタイプの技に見えますけど」
「大分練習したよ、大昔にね。さて、全て大根を剥いたら下茹でしていきます。大根は水から茹でるので、剥く端から鍋に放り込んでおいて大丈夫だ」
「結構な量ですよね。でもアラも沢山あったか」
「この辺の割合は好みもあるけどね、私は大根多めが好きだ。むしろ大根だらけで良いくらい。よし、アラの表面に汁が滲んでいるのを確認できたので、洗っていきます」
「洗うと言いつつ煮えたぎったお湯の中にぶち込んだのはどうしてでしょうか辰砂さん」
「良いんですよイルさん。このお湯で鰤の表面を固めて旨味を閉じ込め、要らない物を浮かすんですよ。はい、じゃあ氷水に取ります」
「煮られた後に冷やされちゃうんですか……アラ泣いてないですか?」
「大丈夫、もう彼にはわからないから。こうして素早く熱を取ることで内部に熱が通るのを防ぎます。そうしたら流水にさらしながら指で優しく血の塊やら汚れやら鱗やらを除きます」
「あんなに取ったのに、まだ鱗があるんですね。鰭の付け根とか、あ、顔にも一杯あるんですね」
「油断できないだろう?魚の皮が好きな人はこの工程で手抜きが出来ないんだよ。魚っ食いの業だね」
「つまり辰砂の事ですね。面倒臭そうでありながら嬉しそうです」
「ははは。否定はしない。で、結構ここで時間を食うので終わった頃には大根も茹であがると言う寸法だ」
「はい、こちらがどちらも処理済みの物ですね。ちなみにこちらの途中のやつは番組終了後、改めて調理しますのでご安心くださいー」
「イルが立派にアシスタントを務めてくれるなんて……立派になったなあ」
「む、褒めても何も出ませんよ。ところで後から作る奴も一緒に食べましょうね、鱗取りはやっておきますから」
「(分かり易く喜んでいるなあ)ありがとう。さて、鍋にアラを入れます。上に大根を載せます。水と厚くスライスした生姜を入れ、強火で沸かしていきましょう」
「生姜ってすごく強い香りがするものなんですね。ところで味付けしなくて良いのですか?」
「まだいいんだよ。アラを煮ると結構灰汁が出るから、それを取ってから調味料を入れます、あ、ほら。これが灰汁だ」
「何か汚げな色の泡ですね。これを取らないと何か悪さするって事ですか」
「そうそう。飲み込みが早くて何よりだ。これを置いたままにしておくと何時の間にか無くなるんだけれども、汁が生臭くなってえぐくなる」
「料理って不思議だなあ。色々工夫の上で美味しくなるんですね、辰砂いつもありがとう」
「また急に気恥ずかしい事を。これは趣味だから気にしなくて良いの。えーっと、概ね悪は取りきったから甘さを足していきます。具体的には砂糖と味醂。入れたら落とし蓋をしてそうだなあ……15分位煮ようか。火は中火に落として、と」
「あれ?その二つはどちらも甘い奴ですよね。食べたら甘いんじゃ?」
「調味料には味の沁みやすさと言うのがあるんだ。甘い物の方が味が入りにくいんだな。だから、味を馴染ませたい料理の時には甘い調味料から入れると失敗が無いよ」
「成程。これも先人の工夫ですね。じゃあちょっとお休みですか?」
「時間も大事だよ。今日はこれしか作って無いから手が空くけれど、普通はあれこれ並行作業してるから、ここで他の手順を進められる」
「うんうん。つまりやる事がなくてひたすらネギを刻んでいる訳ですね」
「いやほら、薬味って作っておくと便利だろう。白髪ねぎは後でのせるし」
「あ、そうなんですか。煮物にも薬味って使うんですね、と。辰砂、タイマーが鳴りました」
「ん、15分経ったか。じゃあ今度は醤油を入れます。この煮物は濃口でしっかり色を付けたい。もし持ってれば、たまり醤油とか再仕込み醤油とかも入れると良いよ。入れたらまた落とし蓋で煮汁が減るまでいい感じに煮ます」
「醤油を入れると一気に良い匂いになりましたねえ。はああ楽しみです」
「ここからが結構長いけどね。煮汁は飛ばしたい、でも強火で固くしたくない。ジレンマだ。だから最初から煮汁少なめで作るやり方なんかもあるらしいよ。んじゃここからは本当に手が空くので、イルに珈琲を淹れてもらいたいんだけど」
「え!そんなのお安いご用ですよ!」
~しばらく後~
「はい、煮上がりました。大根にも鰤にも照りが出たら、見た目も良いし大体美味しい」
「良い匂いです。煮始めは少し魚臭いかなって思ってたんですけど今は全然気にならないですね」
「あれこれ入れるから、段々魚の匂いも薄れるんだろうね。さて、これはこんな感じで鉢に持って、煮汁多めにして白髪ねぎを飾ろうかな。あんまり盛ったら美しくないから適当にね」
「まっ茶色ですけど、美味しそうに見えますねえ。辰砂の作る食べ物って何でも茶色っぽいからかなあ。では頂きます」
「んー、うん。良く沁みてる。大根は一晩おいても良いかもしれないなあ」
「そうなんですか?しゃくっとじゅわっと美味しいですけどねえ……あれ、ほんとに皮美味しい。ええ?ぷるぷるしてねっとりして……身との対比が……」
「皮は好き嫌いがきっぱり別れるんだけどね。イルが好きみたいで良かったよ。ほっぺたの所の身も特別感があるから忘れずに」
「え?骨じゃないんですか、本当だ。んん!しこしこした身ですね、これも美味しいなあ。辰砂は……早いですね、唇も食べられるんですか」
「あ、すまない。つい好物を貪ってしまった。ちなみに、目玉の周りのどろっとした筋肉も美味しい。口腔やらもね」
「辰砂がどれほどアラを愛しているかの一端が見えた気がしますよ。頭ってこんなにバラバラになるもんなんですね」
「昔から魚全般好きなんだよ。私は覚えてないけれど、どうも昔好きな魚を聞かれて『鯖の血合』と答えたらしい」
「ち、血合ですか……限定的ですね。辰砂らしいような気もしますけど」
「まあ、そのうち鯖も煮てあげよう。良いのが手に入ったらね。おや、そろそろお時間が来たようですね。それではまたいつか、ごきげんよう」
「ごきげんようー!」




