204幕間 辰砂とイルの1分クッキング鰤大根格闘スペシャル
「さてここに鰤がある」
「いつもながら唐突ですね。まあ美味しい物が食べられるんで俺はこの番組好きですけど。あれ、これはホワイトブリの変種ですか?」
「いや見た目以外は全然違う。あれは白身だけどこっちは青魚だから。丸ごと一本頂いたんで鰤大根を作ろうと思い立った」
「鰤大根ですか。どんな料理なのか想像が付きませんね」
「うん?煮物だよ。そう言えばまだ煮物類は食べさせたことが無かったんだったか。きちんと処理すれば美味しいものだよ。さて、では解体していこうか。素人の包丁さばきには期待しないように」
「大丈夫ですよ、魚をさばく現場なんて辰砂の糸方式しか知りませんから」
「そうだったっけ?ええと、たぶんあれは一般的ではないので参考にしないように。ではまず鱗を剥いでいく。小さいと鱗取りとか包丁の背でガリガリ剥げるけど、80cm以上になると包丁で皮と鱗の間を削ぐように剥いだ方が早い」
「へえ!皮は残ってるのに鱗が帯みたいにつながったままなんですね。あ、折れた。くっついて取れてるってだけなのかあ」
「まあ、鱗だからなあ。ヒレの周りは刃を入れにくいが、食べる時に鱗が残ってると大変悲しいので丁寧に剥いでいくこと。はあ、糸が恋しい」
「糸だとしゅぱっと終わっちゃいますもんねえ。こんなに大変だなんて全然思ってなかったですよ」
「いやあ。糸を使う料理人は少数派なんじゃないか?沢山いるなら糸だってあちこちで売ってる筈だ。さて、全部鱗を取ったらば、尻の穴から頭と胴体の付け根までを真っ直ぐに切り開く。腹ビレの所で引っかかるので、ここで骨の継ぎ目を狙って切り開くと楽だ。顎の継ぎ目も骨なので、同じ要領で切り外す」
「あー。成程、腹ビレが対になってるから、中央には刃が入りやすいんですねえ。しかし大きいだけあってお腹の身も厚いですね」
「力が大してない人間がこのサイズの魚の骨をぶった切るのは相当疲れる。魚をさばく際には基本的に骨の継ぎ目を狙う事を覚えておくと何かの役に立つかもしれないぞ」
「骨の継ぎ目……良い事を聞きました。覚えておきますね」
「ん。そうしなさい。さて腹を掻っ捌いた鰤だが、ご覧。立派な内臓がお出ましだ。魚の内臓と言うのは基本的にエラと繋がった状態で腹の中に鎮座ましましている」
「わーピンク色。魚も動物なんだと言う事がよく分かる色合いですね」
「これはかなり新しいし血抜きもしてあるからかなり見やすい状態だ。血が抜けてないとまず腹腔におびただしい量の血が溜まっているから、殺人事件の現場みたいになる」
「血抜き……ですか?どうして血を抜く必要があるんです?」
「そうだなあ、捕まえた次の瞬間食べるんなら別に必要ないんだけど。普通は釣った魚を家に持って帰ってから食べるからね。そして、死んだ魚の中で最初に傷むのが血液なんだよ」
「えっとつまり、良い状態を保つための手順ってことですか。へえー、人って色んなことを考えるんですね」
「いかに人が欲が深いか解るだろう。さて、話している間に外してしまったけれど、エラと言うのは上下の端が頭とくっついているので、外すためにはこの上下の接合部を切り外さないといけない。正直切りにくいわ硬いわで最も気をつけてもらいたいポイントだ」
「わ、本当に内臓と一塊になって取れた。しかし健康そうな艶してますね。エラは物凄い真っ赤だし。ぴらぴらがいっぱいついててざらついてる……これは何のためにあるんです?」
「呼吸器らしいよ。水の中から息するのに必要な部分だけ濾し取ってるんだって。だから頭と胴体の間に切れ込みがあるんだ、これはえらぶたと言うんだが。要らない水をここから捨てるわけだな。さて、内臓を食べるほど私は上級者ではないので、こちらは捨てます」
「はーい。ちょっと勿体ないような気もしますが、成仏してくださいねー」
「……(∞世界って仏教の教えが広まってたりするのだろうか)。さて。次は頭部を切り外す。まずは鰤を寝かせて、腹ビレのすぐ後ろから頭骨の後ろに向かって切れ込みを入れます」
「流石に身は柔らかいですねー。すぱっと切れちゃいました」
「身が固かったらもう手におえないよ。はい、背骨まで切れたらごろんとひっくり返して反対側も同じ角度で切ります。背骨でつながってる状態になったら、中骨をぶった切って外します。物凄く硬いので、怪我に注意」
「ここでも骨の継ぎ目ですね!あ、それでも結構しぶといんだ……そっか、身体の要の骨ですから一番太いんですね」
「そうだね、人間で言うと背骨にあたるからね。だから太い血管も太い神経も一緒に走っているんだ。血抜きの時にはこの脊柱沿いの血管を使うんだよ……ふー、頭部を切り離せたら、あとはちょっと大きいだけだ。いつも通り三枚おろしにしてしまえばよろしい。ただ、今日は使わないから冷蔵庫にしまいます」
「わかりました!太い血管からは沢山血が出るからですね!これも応用できそうです」
「うん、イルはいつでも向上心があって良いと思う。素晴らしい美点だから大事にしていきなさい」
「えっ……えっと、そうですね!頑張ります!だから辰砂も俺に頼って良いですからね!」
「うん、とはいえもうだいぶ頼ってるよ。私も少しは見習わなければいけないかもしれないなあ。よーし、ではいよいよ頭部をぶった切ります。生首をまな板の上に立たせたら、唇の中央に刃を立てます。ちょっと探ると、他の所よりすっと入る場所があるので、そこから怪我に気をつけつつ頭を切っていきます」
「う、うわあ。力技ですね」
「そうだろうそうだろう。ふん、ぬっ!(複数回の打撃音)はあ、切れた。疲れた……。あっとそうだ、頭の幅より刃渡りの狭い出刃で頭を割るのは正直お勧めできないぞ。背も切っ先も頭の中に隠れてしまうと結構途方にくれるので」
「もしかして体験談ですか?」
「昔ね。突き立ったっきり抜けなくなって、しょうがないから生首が付いたまま振り回して遠心力で抜いたんだけど……壁の血やらを取るのに苦労した。身も崩れてしまったしな」
「えーっと……(どんな勢いで振り回したんだろう……)とりあえず皆さんも気をつけてくださいね、余り無謀なチャレンジは避けましょう」
「悲劇が二度と起きないことを切に願う。さてと、頭が割れれば後はえらぶたの前後で切り離して、アラとカマに分ければ完成。調理工程に行きたいんだが……残念、お時間が来てしまいました。調理は次回だな。それではまたいつか、ごきげんよう」
「ええーっ、なんか烏賊の時もこんな感じじゃなかったですか!?今回はちゃんと作ってくださいよ!ごきげんようー!」
(エンドロール)




