169幕間 怖いお姉さん、または悪の女幹部、あるいは戦う調薬師
「――まあ。それはダレンちゃんが悪いわね」
「そうでしょ?ほんとにもう、どうして急にあんなことやりだしたのかしら、それもあんな素敵なカップルに迷惑かけちゃってほんと申し訳なくて……」
「あら、素敵だったの。どんなふうに?」
「一言で言うと美男美女ね。竜人なのかなあ、銀髪にサファイアみたいな目の彼と雪みたいな白い髪と紫色の目の彼女なの。もう謝るのに一生懸命だったけど、思いだすとほんとに綺麗だったの」
「あら。そうなのね……え?その二人にダレンちゃんが声かけたのよね。NTRごっこってこの間メッセージで相談されたアレよね?」
「うん、そう。自分の可愛さを最大限生かしてカップルの女性にくっついて、男の方に嫉妬させて女性に自分を庇わせて喧嘩させるやつ」
「意図的な『アタシの為に争わないで!』ってやつよねえ。悪女の典型的な台詞じゃないの、アタシ悪女は嫌いだわ」
「ほんとそうなの、はあ……でも、だいぶ脅かされてたし、これで止めてくれたらいいんだけど」
「そうねえ、でも、うん。きっと止めてくれるわよ。彼じゃなくて『彼女』が怖がらせたなら大丈夫だと思うわ」
「ええ?どうして?そんなに怖そうな人じゃなかったよ、そりゃ無表情だったけど」
「ふふ、そんな気がするだけよ」
(……それにしても、お姫様ったら、イルちゃんの喧嘩を高値で買うなんて本当過保護だわ。危ういけれど、それもまた――)
「愛よねえ」
「……?クァリスマちゃん、僕も、愛スてるヨ」
「ありがと、ウールちゃん。愛ってすごく残酷で美しいわ」
「……よク、解んナい。デも、好き」
「そう、ありがとうね。アタシも好きよ」
◇ ◇ ◇
「くそっ!普通こんだけ探せば証言とか手がかりとか一つ二つ出てくるもんだろ!?」
「えー出てきたじゃん、シノース森に入ってったって」
「それ以降だよそれ以降!あんな目立つ二人組が何で見つからないんだよ!」
「そりゃ、目立たせるための格好だったからに決まってる。普段と全然違う格好をしとけば、元が誰だかわからんからだろ?名前も引っかからないあたり偽名で決まりだし」
「そ、そうか……それで見つからないのか……」
(え、まさかの今更気付いたパターンなの)
「しかしそうすると二人組のカップルなんて掃いて捨てるほどいるぞ?どうやって探すんだ」
「いやだから探せないって話してたよな今」
「だがどうしても探し出して、一体何がどうなってあの『切り裂きジャック事件』がああいう結末を辿ったのかを聞かなければ!」
「だからやめようってなあリーダー聞いてる?」
「俺達が不意を突かれたとはいえ手も足も出ずに皆殺しの憂き目に遭う、そのすんでの所で颯爽とPK職を踏みつぶし現われた悪の女幹部!」
「そうだよ後衛職程度なら一撃できるStrを持ってるわけだよだから危険だと思うのよ俺は」
「PKどもの首領アンドレイを未見のアイテム一つで足止めし!」
「そうだよ、閃光弾が∞世界にあったってこと自体プレイヤー誰も知らないわけじゃん?ねえ、もうヤバい感じしかしないじゃん?」
「俺達の視界まで奪った僅かな時間にアンドレイを手口すら悟らせずに圧倒し!」
「ほんとあれはやべーわ。魔法職達すら何が起きたかわからんって言ってたし?初期魔法の一番しょぼい魔法くらいの動きが、それも一回しかなかったって、そんなんじゃ死ぬわけねえのになあ」
「少年が最後の一人を倒すのにはなぜか協力せず傍観するその後ろ姿!」
「んー、あれは普通に因縁あっただけじゃない?良くバトル漫画で見る『こいつは俺の獲物だ……お前等は手を出すな』でしょ」
「暇だったのか左手一本でジャグリングするたび動くしなやかな筋肉!重心のかかった左太もものハムストリングの陰影!」
「えっ?」
「少年が消える際の寂しげな背中!そして柔らかく甘く低い声!」
「何の話してるんだっけ」
「赤い唇は厚過ぎないが薄くなく、口を閉じればきりりと引き締まってむしろこじ開けてしまいたいと言うかいっぱいに開かせて涙目で俺を見上げて睨んででも抵抗できなくて仕方なく舌で押し出そうとうわあああああ!わああああ!何言わせるんだよ恥ずかしい!」
「むしろ俺がうわあああだよ!聞きたく無かった!ウチのリーダーがド変態の糞野郎だなんて知りたくなかった!くそがあああああ!」
「るせーよさっきからお前等は!リーダーも恋してる場合じゃねえよ!」
「え、これって恋なのか!?マジか、これが……この湧きあがるマグマのような熱が……ああああの肩甲骨ってやっぱり硬いのかなそれとも触ったらちょっと柔らかかったりとかするのだろうか背筋の盛り上がり辺りくすぐったら身をよじったりなんかしてその時には甘い声で笑ってくれたりなんかしてうわあああああ!」
(いやーそれはただのスケベ心じゃないかなあ)
(言わぬが華だろ)
(もうむしろ聞こえない事にしたいよ俺は)
「首の所を解いたら黒い布が落ちてその下から白いうわああああああ!わああああ!あああっ」
「あ、強制ログアウトかかった」
「まず間違いなく生体異常検知だろうなー」
「何がどうしたのか知りたくねえな……」
「何ってそりゃナニがどうにかなったんでしょ」
「知りたくねえっつってんだろうが!」
◇ ◇ ◇
「おやあ?ガラス素材の相場ががた落ちしてるけど、何かあったかな?」
「ギルド長……昨日の領内ギルド定例会議でイチの町支部から通達がありましたわよ」
「そうだったっけ?うーん興味無いとすぐ寝ちゃうからなあ」
「ええ、存じております。イチの町に存在するガラス職人と懇意にする冒険者から2225個持ち込まれたそうです。驚いたことに全てが粘液硝子では無く粘液波璃だったと言う事ですわ」
「へえ!そりゃ頑張ったねえ。2000個以上集めるなんて絶対嫌だな」
「なおその冒険者は階級がⅠのままだったと報告がありました。イチの町支部の方で階級を上げる方法を伝え、また階級を上げる事を推奨したと言う事でしたので、いずれか当支部にも訪れると思われます」
「へえー、ん。Ⅰ?」
「ええ、Ⅰです。正直私も驚きましたわ」
「ちょ、ちょっと資料見せてくれるかな?」
「発端となったガラス職人の指名依頼がなかなか印象的ですわね。『戦う調薬師へ、瓶が欲しけりゃ材料寄越しな!』ですって。よっぽど仲がよろしいんでしょうねえ」
「あ、調薬師なのね。料理人じゃないのね。良かったあ」
「良かった?」
「あ、ううん何でもないよ。調薬師ならそうだね、階級も上げる暇なんかないかもしれないね。でもあんまり実力と階級が乖離するとトラブルの元だし、頑張って上げてもらいたいな」
「そうですわね。数年前の新年会で『真の実力者はⅠ階級に隠れてる』とか良く解らない自説をぶちあげてらっしゃったヨンの街ギルド代表、ヴェルナルド・チューズ=カトルギルド長が仰ったとは思えないくらいまともな正論ですわ」
「ねえ君って僕の秘書だよね?いつも思うけど僕の事敬ってないよね」
「まあ、とんでもございませんわ!ほほほ」
「ははは」
「ほほほ」




