156幕間 カリスマちゃんとウールくん その③
ウールくんはご機嫌です。だってとうとうカリスマちゃんとお喋りできるようになったのです。まだまだ片言ですけれど、だんだん上達するはずですから何にも問題ありません。
毎日好きって言ってるし、カリスマちゃんも好きって言ってくれてるしで、ウールくんは毎日が天にも昇るような心地でした。
そんなある日の事。カリスマちゃんがイルの相方、良い匂いの人からの注文が入った事を教えてくれました。イルの為の『きんちゃくぶくろ』と言うのを作るのだそうです。
「んふ、お姫様ったら張り込むわねえ。愛ねー」
にっこにこのカリスマちゃんが針と糸を操っている間は、ウールくんはカリスマちゃんの横顔にうっとりする時間です。近づいて邪魔しちゃいけません。間違えてウールくんの素敵な毛並みを縫っちゃったらカリスマちゃんが泣いちゃうから駄目なのだそうです。
「……クァリスマちゃん、素敵。好キ」
腹這いで伏せ状態のウールちゃんが呟くと、カリスマちゃんはこっちを見てくれます。目が合うだけでウールくんは舞い上がるような気持ちになってしまいます。
「ありがとウールちゃん。アタシもよ。これ仕上げたらおやつにしましょ」
カリスマちゃんが手は止めないけれど微笑みかけてくれて、ウールくんは前足の間に顔を埋めることになりました。だってカリスマちゃんたら可愛すぎます、もうときめいちゃって仕方ないのです。今の自分の目がハートマークになってたってウールくんはちっとも驚きません。
次の日、イルがウールくんの人語スキルのレベル上げに付き合ってくれるらしいと言うので、ウールくんは仕方なく作業場の外で雑草を食んでいました。本当はカリスマちゃんと離れたくないのですが、練習したい文言はカリスマちゃんに聞かせたくない内容なのでしょうがありません。
「草って美味しいんですか?」
行ってくるわねとカリスマちゃんがウールくんの頭をひと撫でして、入れ替わりにイルがウールくんの隣にやってきました。まあ決して不味くはないのですが、やっぱりカリスマちゃんが暮れるご飯の方がずっと美味しいです。
「……美味しくハない」
「まあそうでしょうね。それで、無事に告白できたんですか」
イルはいつでも単刀直入なので、ウールくんは顔が赤く(羊なので他の人にはわかりませんが)なるのを誤魔化すのが大変です。いきなり何を言うんでしょう、イルには慎みってものを持ってもらいたいもんです。
「……しタ。カリスマちゃんも好きって言っテくれた」
その時の事を思い出すだけでじっとしていられなくて跳ね回りたくなります。しかしウールくんももうひとかどの男なので、頑張って堪えますが。イルは少し間を開けてからへえ、と言いました。
「良かったらその時の事教えてください。気になります」
この時イルの中にはある懸念が渦巻いていましたが、ウールくんはそれにちっとも気づきませんでした。だからウールくんはその時の事を一生懸命お話ししました。
「……しゃメェれるようニなってすぐ、カリスマちゃんに、好キって言った」
「ふんふん」
「……そしたラ、カリスマちゃんグァ『アタシもよ!』って、抱きしメェてくれたの」
「うーん、うん」
「……毎日一緒ダし、おやツも貰えてご飯も分ケてくれるノ」
「成程」
何が成程なのでしょう。イルはとても冷静な顔で一つ頷きました。ああ、そしてとても恐ろしい事を口にしたのです。
「ウール、カリスマさんとウールは恐らく恋人じゃないですよ」
ウールくんは自分に雷が落ちたんじゃないかと思いました。そのくらい物凄い衝撃が体を走り抜けたのです。立っていられなくて、くずおれるようにウールくんは地面に伏せました。
「……嘘、だよね」
嘘であってほしいウールくんの弱弱しい声も、イルによってばっさりやられてしまいます。
「大真面目ですよ。信じなくてもいいですけど、今のままならカリスマさんは王子様探しを続けるはずですよ」
断言してもいい、とイルが言いきって、ウールくんにもどうやら本当に自分たちの関係がウールくんの思うものと違うらしいことがわかりました。それからカリスマちゃんが王子様探しを止めたときの呟きを思い出します。確か――
『王子様と会えない時間が長い方がときめくってものよね!ねえウールちゃん』
ウールくんは愕然としました。会えない時点でカリスマちゃんの王子様はウールくんじゃないし、カリスマちゃんは王子様に会う気満々にしか思えません。カリスマちゃんはウールくんの事を一体何だと思っているのでしょうか。
「え?ペットじゃないですか」
今日のイルはいやに辛辣です。ウールくんの心の傷を更に抉り抜く回答に、ウールくんは静かに涙しました。めそめそするウールくんを見て気まり悪く鬣辺りをかきむしったイルは、間を開けてごめんと呟きました。
「言いすぎました。もうちょっと柔らかく言おうと思ったのに」
こんなにしおらしいイルは初めて見ました。ウールくんは涙が止まるほどびっくりして、ぶすったれたイルを見上げます。流れた鼻水をイルが眉間に皺を寄せて拭ってくれました。
「……ドゥしたの?」
イルはいつでもクールで頭が良くてウールくんを助けてくれて、見た目だけじゃなく格好いいのに今はどうしたことでしょう。怒ったような悲しいような変な顔で、イルは口を尖らせています。
「……辰砂はいつも人の事ばっかり気にしてます」
ウールくんの側に座り込んだイルは、まるで独り言みたいに話し始めました。
「今日のうさ耳のお子様だってそうです。名前も言わないのに手助けしてる。いつだって辰砂が見るのは他の誰かで――っ」
『俺じゃない』と言う言葉をどうにか飲み込んだイルでしたが、ウールくんはイルが急に黙ったのはむせたのかもと思ったので、無言のまま前足で背中をさすりました。それに励まされたのか、イルはもう一度地面の小石を見つめます。
「辰砂が望むから俺も手伝うけど。飛ぶ時だって効率悪いから辰砂が抱っこしてやった方が良いに決まってる、けど。でも」
イルはがっくり項垂れて沈黙しました。ウールくんは正直イルが言ってる事は抽象的すぎてよく分かっていませんが、とりあえず聞く姿勢を続けました。
「……わかって貰いたくないけどわかって欲しくてやりきれないだけですから、ウールは気にしないでカリスマさんを口説き落とす方法を考えた方が良いです」
イルの勧めに従って、ウールくんは今以外の方法でカリスマちゃんにこの想いを伝える術を考えようとしましたが、その前にイルに一言言っておくことにしました。
「……抱っこしてホしい時はおねだりスればいいんダよ」
折角教えてあげたのに、返事はデコピンで返ってきました。のた打ち回る羽目になったウールくんが、後でいっぱいくっついた葉っぱをカリスマちゃんに取ってもらってご機嫌になったのはまた別のお話です。




